宵山万華鏡 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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レビュー : 532
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468458

作品紹介・あらすじ

祇園祭の京都を舞台にした森見登美彦の連作中篇集「宵山万華鏡」(ヨイヤママンゲキョウ)が文庫化!表題作ほか計6編収録。森見流ファンタジーの新境地

感想・レビュー・書評

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  • 永遠に終わらない「祭り」の物語。

    祭りは賑やかで楽しい。けれど祭りが賑やかであればあるほど、終わる時の寂しさもひとしおだ。いや、むしろ終わる時の寂しさを知っているからこそ、祭りは賑わうのかもしれない。せめて今はあでやかに咲けとばかりに、短いハレの日を祝うのかもしれない。祭りはどこか青春と似ている。また人生とも似ている。

    もともと祭りは神事であり、「ヒト」と「ヒトでないモノ」の交感の場であったという。今は宗教性より娯楽性が増したとはいえ、その起源を考えると、祭りの雑踏の中でふと異界へ迷い込んでしまう気がして不安になるのは、あながち迷信とはいえないのかもしれない。祭囃子の笛の音にどこか憂いを感じるのも、じつはヒトの本能なのかもしれない。

    賑やかなのに寂しくて、美しいのに恐ろしい。『宵山万華鏡』は、そんな祭りの本質を、ぎゅっと濃縮して一冊の本として封印したような作品だ。全6篇の連作短編集だが、同じ《宵山》を見ているのに、登場人物によって全く異なる世界が展開されてゆく。ある者にとっては壮大な茶番劇であり、ある者にとっては青春最後の打ち上げ花火であり、ある者にとっては異界への入り口であり、さらに、異界の入り口で踏みとどまる者、異界で永遠にさまようことを選ぶ者、異界と現世の境界に立つ者、完全に異界の存在と化した者がいる。文字通り魑魅魍魎の跋扈する世界。

    祭りの終わりは寂しいが、終わらない祭りほど虚しいものはないだろう。「死は悲しい。しかし、死がなければ人は死を望むに違いない」と言った人がいる。還るべき日常を失った祭りは、もはや祭りとは呼べまい。それは既に「ヒトでないモノ」の領域だ。

    どんなに美しく楽しげに見えても、永遠に変化しないものにはヒトは本能的に恐怖を抱く。一方で、抗いがたい魅力をも感じる。《宵山様》の弄ぶ玩具が万華鏡だというのは象徴的だ。あの無限に続く美しい模様に心奪われた経験のない者はいないだろう。だが、自分があのような鏡の中に閉じ込められたら正気を保てるだろうかと、恐怖を覚えたことのある者もまた多いだろう。にもかかわらず、或いはそれゆえに、万華鏡も《宵山様》も私の心を惹きつけてやまない。

    たった一冊の本の中に、森見先生は《宵山》をまるごと閉じ込めてしまったみたいだ。本を開けば、溢れんばかりのイマジネーションの奔流を覗くことができる。まるで内田百閒か泉鏡花のような幻想的な世界を、どうして平成の舞台と文体で作り出すことができるのだろう。こんな作品が読めるなら何年でも私は待つ。だからゆっくり休養してください、森見先生。

  • 京都に生まれ育って23年、宵山には高校生の時に一度だけ行ったことがある。
    もちろん彼女連れなんてことはなくて、いつもつるんでいた友人五人と街に繰り出した。
    どこまでも続く人の波、むせ返るような暑さと湿気、ほんとうに方向感覚を見失うようなあらゆる方向からの音。
    この宵山万華鏡はその全てをありありと私に思い出させた。
    ほんとうに妖怪くらいいてもおかしくない。お祭りの夜だし。

    今年ももうすぐ祇園祭の夏がくる。
    数年ぶりにあの万華鏡の夜に繰り出すのも悪くないと思えた。

  • 祭りという白昼夢の体験。

    日本の祭りは変死意識状態へ誘う作用があるように思える。

    日常空間である路地が祭り、或いは縁日と呼ばれる時、通りに屋台が並び、食べ物の匂いが立ち込め、囃子が聞こえ、普段の焦燥感に満ちた人たちは消え、雑踏はゆったりと金魚のように回遊する。

    日常の世界がいつもと違って見える体験は、通常の知覚とは異なる知覚を生成するという意味において変性意識状態であり、或いはこれを白昼夢とも呼べるかもしれない。

    この物語体験は、祭りにおいて体験する不思議な体験をなぞることができる。

    しかしなぜ、日本の地域が祭りに関心を示さなくなったのかを考えると、単純に人がいなくなったから、ダサいからという理由だけではないだろう。

    あまりにも普段の日常から現実感が損なわれたからではないかと思う事もある。

    この物語で稀薄な現実感からさらに現実感を喪失させる体験ができた。

    これは活字の読書でなければ味わえない体験だったと思う。

  • 森見登美彦の描く京都は絶品。この人の手にかかると、京都は妖しく美しい異世界の都市に変わります。

  • 現実の世界と宵山様がいる別の世界とリンクしてその境界が曖昧でクルクルと万華鏡のように変化し、幻想的な世界を醸し出しているのが魅力的。あとがきで著者自ら祭りの神秘性について語られていますが、確かに祭りというのは異世界とまでは言わなくても、この世と別の世界とが何かの拍子に繋がってしまうような非日常の感覚がありますね。幼かった頃、人混みで迷子になるんじゃないかと思った怖さ、それを上回る祭りから得られる高揚感、そんな感覚を久しぶりに味わいました。恐るべし宵山、恐るべしモリミー!

  • 「夜は短し・・・」が少し読み進め辛いという印象だったので、不安に思いつつも装丁がきれいで思わず買ってしまいました。

    祇園祭宵山の一日を舞台にした不思議なお話。
    少し怖くて不気味・・・でもその不思議な世界に引きこまれました。
    それぞれのお話の繋がっている部分、お話の裏側、最後の「宵山万華鏡」で「???」ってなったと同時に鳥肌が・・・
    ありえないのに、ありえそうという舞台設定と各編各編の繋がりの描かれ方がうまいと思いました。

    語り方が独特な作者ですが、お話はやはりおもしろいので、慣れたらはまりそうです。

  • 森見さんの書く文章ってわくわくする。
    もしかしたらこういう世界があるのかもしれない、
    と思えるぎりぎりの現実感があるのがとてもすき

    私が一番好きなお話は、一番初めと終わりの姉妹のお話と、真ん中の偽宵山を作るお話。
    学生の頃の下らない感じ、好きです。

  • 幻想不思議ワールド炸裂。
    京都にゆかりのない人間でも、一度宵山に
    行ってみたくなります。

    読むと、自分の頭のなかに不思議世界が構築される
    感じが好きです。

  • 奥州斎川孫太郎虫って、
    無闇に言いたくなる。

  • すっかりはまった森見登美彦作品。読むのは5冊目。
    京都祇園祭、宵山の夜を舞台にした6作の連作短編集。

    頭から宵山姉妹、宵山金魚と読んで「何だか今回のは期待ほど面白くないなぁ」と思っていたら、そこから一気に加速。
    まるで魔法にかけられたみたいにグイグイと引き込まれる。
    特に宵山金魚の宵山様への道の描写が何だか冗長だなと思っていたが、それをドタバタと作り上げる過程を披露する宵山劇場、不思議な舞妓と大坊主に連れられトレースする宵山万華鏡を読んですごいと思った。
    一度読んだ場面が後から後から別の角度で語られ、その度に場面を読み返して感心した。

    宵山劇場の高藪さんの登場ににやりとしたりして楽しんでいたら、宵山回廊と宵山迷宮では背筋がヒヤリとする恐怖を味わわされる。繰り返す宵山、15年前に消えた娘、世界の万華鏡。
    同じ日が繰り返す系は度々書かれた設定だと思うけど、連作短編で2作やるのはすごいと思った。そしてどちらもタイトルが内容にぴったりマッチしていて秀逸。迷宮は抜けられるけど、回廊は…。

    始めの宵山姉妹の姉のほうが出てきて、全てが収束する宵山万華鏡。宵山様はやっぱり寂しいのかな。そこを考えると少し切ない。
    最後の妹の言葉は、はじめは意味が分からなかったけれど、最後に読むととても意味深。

    何度でも読みたくなる、大満足の一冊でした。

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著者プロフィール

森見登美彦(もりみ とみひこ)
1979年奈良県生まれの作家で、京都を舞台にした作品が多い。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2006年に『夜は短し歩けよ乙女』で本屋大賞2位、山本周五郎賞などを受賞し注目を集める。2010年『ペンギン・ハイウェイ』で2010年日本SF大賞、2014年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞、2017年『夜行』で第7回広島本大賞をそれぞれ受賞。2010年に『四畳半神話大系』がTVアニメ化、2018年8月に『ペンギン・ハイウェイ』が劇場アニメ化された。2018年11月に『熱帯』を刊行し、第160回直木賞、2019年本屋大賞にノミネートし、第六回高校生直木賞受賞。

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