宵山万華鏡 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468458

感想・レビュー・書評

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  • 永遠に終わらない「祭り」の物語。

    祭りは賑やかで楽しい。けれど祭りが賑やかであればあるほど、終わる時の寂しさもひとしおだ。いや、むしろ終わる時の寂しさを知っているからこそ、祭りは賑わうのかもしれない。せめて今はあでやかに咲けとばかりに、短いハレの日を祝うのかもしれない。祭りはどこか青春と似ている。また人生とも似ている。

    もともと祭りは神事であり、「ヒト」と「ヒトでないモノ」の交感の場であったという。今は宗教性より娯楽性が増したとはいえ、その起源を考えると、祭りの雑踏の中でふと異界へ迷い込んでしまう気がして不安になるのは、あながち迷信とはいえないのかもしれない。祭囃子の笛の音にどこか憂いを感じるのも、じつはヒトの本能なのかもしれない。

    賑やかなのに寂しくて、美しいのに恐ろしい。『宵山万華鏡』は、そんな祭りの本質を、ぎゅっと濃縮して一冊の本として封印したような作品だ。全6篇の連作短編集だが、同じ《宵山》を見ているのに、登場人物によって全く異なる世界が展開されてゆく。ある者にとっては壮大な茶番劇であり、ある者にとっては青春最後の打ち上げ花火であり、ある者にとっては異界への入り口であり、さらに、異界の入り口で踏みとどまる者、異界で永遠にさまようことを選ぶ者、異界と現世の境界に立つ者、完全に異界の存在と化した者がいる。文字通り魑魅魍魎の跋扈する世界。

    祭りの終わりは寂しいが、終わらない祭りほど虚しいものはないだろう。「死は悲しい。しかし、死がなければ人は死を望むに違いない」と言った人がいる。還るべき日常を失った祭りは、もはや祭りとは呼べまい。それは既に「ヒトでないモノ」の領域だ。

    どんなに美しく楽しげに見えても、永遠に変化しないものにはヒトは本能的に恐怖を抱く。一方で、抗いがたい魅力をも感じる。《宵山様》の弄ぶ玩具が万華鏡だというのは象徴的だ。あの無限に続く美しい模様に心奪われた経験のない者はいないだろう。だが、自分があのような鏡の中に閉じ込められたら正気を保てるだろうかと、恐怖を覚えたことのある者もまた多いだろう。にもかかわらず、或いはそれゆえに、万華鏡も《宵山様》も私の心を惹きつけてやまない。

    たった一冊の本の中に、森見先生は《宵山》をまるごと閉じ込めてしまったみたいだ。本を開けば、溢れんばかりのイマジネーションの奔流を覗くことができる。まるで内田百閒か泉鏡花のような幻想的な世界を、どうして平成の舞台と文体で作り出すことができるのだろう。こんな作品が読めるなら何年でも私は待つ。だからゆっくり休養してください、森見先生。

  • 森見登美彦の描く京都は絶品。この人の手にかかると、京都は妖しく美しい異世界の都市に変わります。

  • すっかりはまった森見登美彦作品。読むのは5冊目。
    京都祇園祭、宵山の夜を舞台にした6作の連作短編集。

    頭から宵山姉妹、宵山金魚と読んで「何だか今回のは期待ほど面白くないなぁ」と思っていたら、そこから一気に加速。
    まるで魔法にかけられたみたいにグイグイと引き込まれる。
    特に宵山金魚の宵山様への道の描写が何だか冗長だなと思っていたが、それをドタバタと作り上げる過程を披露する宵山劇場、不思議な舞妓と大坊主に連れられトレースする宵山万華鏡を読んですごいと思った。
    一度読んだ場面が後から後から別の角度で語られ、その度に場面を読み返して感心した。

    宵山劇場の高藪さんの登場ににやりとしたりして楽しんでいたら、宵山回廊と宵山迷宮では背筋がヒヤリとする恐怖を味わわされる。繰り返す宵山、15年前に消えた娘、世界の万華鏡。
    同じ日が繰り返す系は度々書かれた設定だと思うけど、連作短編で2作やるのはすごいと思った。そしてどちらもタイトルが内容にぴったりマッチしていて秀逸。迷宮は抜けられるけど、回廊は…。

    始めの宵山姉妹の姉のほうが出てきて、全てが収束する宵山万華鏡。宵山様はやっぱり寂しいのかな。そこを考えると少し切ない。
    最後の妹の言葉は、はじめは意味が分からなかったけれど、最後に読むととても意味深。

    何度でも読みたくなる、大満足の一冊でした。

  • むせかえるような暑さ、歪む視界。朱色とりんご飴。張り付く浴衣。提灯をゆらす不思議な風。花緒がちぎれる。-まるで自分が京都に住んでいてこの街で宵山を迎えているかの様。一緒に迷子になり、出口まで走りぬけました。読み終わっても不思議な感覚がぬけない、少し意地悪な小説。今年1。モリミーの中でも1番か2番だよ!これは!\(^o^)/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「一緒に迷子になり」
      暑くて暑くてボーっとなりながらも、ブラブラするのは楽しい。んでもって耳に入る喧騒が、ちょっと異世界へ誘って呉れます。
      ...
      「一緒に迷子になり」
      暑くて暑くてボーっとなりながらも、ブラブラするのは楽しい。んでもって耳に入る喧騒が、ちょっと異世界へ誘って呉れます。
      是非、実際にご覧あれ、、、
      2013/06/28
  • 情景描写にとさせられることが何度もあり、読み応えのある作品。
    どんどん先を知りたいけれど、元に戻ってもう一度読み返したくもなる。
    不思議な感覚で、時間をかけて読みました。

  • 宵山に来た人々をめぐる、少しだけ馬鹿馬鹿しくて、とても不思議で、どこか物悲しい連作集。
    森見さんというと恋せよ乙女とか四畳半神話とかのイメージがあるが、文体はそれらとはかなり違い、癖のない感じになっている。だからあれが苦手って人でも楽しめるかも。本の後半になるにつれ、祭りに漂う喧騒の裏側、例えば普通のお祭りへ続く道の脇道に潜むひっそりとした静けさみたいな、そんな怖さを含んだ話になった。こういう雰囲気すごく好きだ。話の順番としては、話の賑やかさが山なりになる感じ?こう、祭りが始まるよー、最高に盛り上がったよ!、段々祭りが終わって静かになってくよー、っていう。宵山劇場って話が盛り上がりの頂点かな。私が好きなのは宵山回廊と宵山万華鏡だなあ。元々こういう不思議で、なんとなく怖くて、少し哀しいって話の雰囲気が好きなんだ。これ当たり!

  • 祇園祭宵山を舞台とした話。
    背筋がゾワッとするミステリー調かと思えば、「やりすぎ!」とツッコミたくなるギャグ調になり、最後には唸ってしまいそうな素晴らしいオチになる。タイトル通り、正に万華鏡のようにクルクルと変わっていく。
    結末まで一気に読ませてしまうのは、さすがです。じっとり蒸し暑い7月に、ビール片手に読み返したいな。

  • すごい!

  • 京都を舞台にした、絵が目に浮かぶような綺麗なファンタジー。

    不思議でちょっと懐かしくて、人情味があって、とても幻想的。

  • 『「この鼻孔から溢れがちの絢爛たるイメージをどうしてくれるの!憤懣やるかたないのよ!私、脳味噌がもうぱんぱんよ!」「内圧で脳味噌を吹っ飛ばしてやる。亡き者にしてやる」「亡き者にされてたまるか!」』
    四畳半の世界ときつねのはなしの世界が隣り合わせ。古道具屋の使いとして現れる謎の男が、ほぼ同じ時系列であんなことしてるとかギャップがすごい。宵山様こわい

著者プロフィール

森見登美彦(もりみ とみひこ)
1979年奈良県生まれの作家で、京都を舞台にした作品が多い。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2006年に『夜は短し歩けよ乙女』で本屋大賞2位、山本周五郎賞などを受賞し注目を集める。2010年『ペンギン・ハイウェイ』で2010年日本SF大賞、2014年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞、2017年『夜行』で第7回広島本大賞をそれぞれ受賞。2010年に『四畳半神話大系』がTVアニメ化、2018年8月に『ペンギン・ハイウェイ』が劇場アニメ化された。2018年11月に『熱帯』を刊行し、第160回直木賞、2019年本屋大賞にノミネートし、第六回高校生直木賞受賞。

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