許されざる者 下 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468717

作品紹介・あらすじ

非戦論を主張しながらも脚気治療のために満洲へ赴いたドクトル槙。戦地で軍医を務める森鴎外や田山花袋らと出会いながら、彼もまた否応なしに戦争に巻き込まれていく。その傍ら、地元の森宮では鉄道敷設反対とともに社会主義運動が起きり、街全体が奇妙な熱気と不穏な空気で覆われる。様々な思惑の飛び交うなか、槙と永野夫人は秘かに禁断の恋を育み…。激動の時代を紡ぐ歴史大河長編、完結。

感想・レビュー・書評

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  • 2018.02―読了

  • 舞台は1903年、紀州の新宮(本書では”森宮”と表記)の地においてアメリカ・インドで研究を積んで地元に貢献する医師として活躍しつつ、そのリベラルな政治姿勢から影響力を発揮する槙隆光という人物を主人公に、日露戦争開戦や鉄道の敷設など、様々な歴史の中で活きる人々の姿を描く長編小説。

    主人公のモデルは、幸徳秋水らと共に処刑された大石誠之助という実在の人物である。実際、幸徳秋水自身も、新宮で講演に招聘されるというエピソードが本書では綴られ、幸徳秋水をマークする地元警察との緊張感溢れるやり取りなどは強く印象に残る。

    総じて、新宮という決して日本の政治・文化的な中心から距離のある街において、日本が帝国主義へ強く傾いていく日露戦争の時期の世相を追体験できるかのような面白さに満ち溢れており、辻原登の優れたストーリーテリングの才能もあり、全く上下巻、飽きさせない流れを楽しめる。

    個人的には、主人公の槙がアメリカ留学中に知り合ったジャック・ロンドンと、日露戦争への従軍医師として赴任した中国の地で再開する、というエピソードもあり、驚くと同時にロンドン愛好者として非常に印象的。

  • 日露戦争前後の日本が背景。日本の高揚感、世界から見たときの滑稽な姿。登場人物がそれぞれ大粒。恋愛関係がみんなうまく収められているところが何とも面白いというか、かっこよすぎる。特に「組の姐御」。照葉樹林を見に紀州に行きたくなります。

  • オフィス樋口Booksの記事と重複しています。記事のアドレスは次の通りです。
    http://books-officehiguchi.com/archives/4091935.html

    (1)あらすじ

    舞台は和歌山県新宮市(作中では「森宮(しんぐう)」)である。この作品の主人公は槇隆光である。海外でドクター(博士号)を取得した槇は貧者から治療費を取らなかったので、「毒取る(ドクトル)先生」と慕われていた。槇のモデルは大逆事件で死刑になった大石誠之助である。

    (2)感想

    フェイスブックでこの本のことを知った。作中では槇など架空の人物がいる一方で、実在の人物が史実とは矛盾しないという点は、この作品の特徴としてあげられる。当時の出来事と当時の人々の様子を知る際、参考になると考えられる。

    参考URL;http://book.asahi.com/author/TKY200907220268.html(2014年6月11日アクセス)

  • 戦争に反対していた「毒取る」槇は、脚気に苦しむ兵士を助けるべく医者として戦地に赴く。
    そこには、脚気について誤った主張・治療をしなければならず苦悩する森林太郎(森鴎外)がいた。

    森宮に帰国後、槇はもとの生活にもどるが、
    そこでは社会主義運動が広がり始め、怪しげな空気に包まれていた。
    槇は、はからずもその騒動に巻き込まれてしまう。




    上巻を読み終えた後、本書の題材である「大逆事件」について少し調べてみました。
    槇のモデルとなった医師は、大逆事件で無実の罪で処刑されています。
    だからきっと、「この物語も悲しい結末をむかえるんだ」と身構えて読んでいました。
    しかし、最後まで読んでいくと、槇は想い交わしていた永野夫人と結ばれます。
    二人で海外に移住します。
    ハッピーエンドなのです。
    「永野夫人」という存在は創作なので、この時点で史実とは一致しないのですが、
    槇のモデルとなった大石誠之助が悲しいおわりを迎えているというのに、
    こんな幸せな結末って、アリなのでしょうか。
    史実を題材にした物語なのに、こんな真逆な終わり方なんて・・・。

    もっと鳥子署長がイヤな感じで槇にからんでくると思ったのに、あっさり身をひいたしな。

    納得がいきません。


    「大逆事件」のこと、あまり調べないで読めば、
    もっと違う感想をもっていたかもしれません。

  • おもしろいなあ.いわゆる「大河小説」である.森宮(新宮)の人々を中心に,毒取る(ドクトル)こと槇医師を主人公,日露戦争を背景として描かれた人間模様.人物描写があっさりしすぎているような気がしないでもないが,物語が主人公と言ってもよいので,これはこれでよし.また,戦争はあくまでも背景で,これも詳しく書きすぎると坂の上の雲になってしまうので,これもこれでよし.

  • 日清・日露戦争のあたりの紀州。ドクトル槇を中心にさまざまな人々が次々と言いたいことを語っては去っていく。周り灯籠みたいな印象で、小説の最後も終わった感じがしない。まちも生活も続いていく。
    最初は話に入っていけなかったが、途中からグングン世界に引きずりこまれ、ぶん回されて放り出された。一つ前に読んだ「小さいおうち」と時代が近いことを思ったが、世界は大違い。

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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