なつのひかり (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.12
  • (118)
  • (197)
  • (1012)
  • (166)
  • (44)
本棚登録 : 4086
感想 : 323
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087470482

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 江國香織の小説は、四季の中で言うと、夏にいちばん読みたくなる。夏のじっとりまとわりつく空気と、江國香織が紡ぎ出す文体と物語が、すごく似ているし、読んでいるとなんだか夏の暑さにやられたように、ぼんやりとしてくるからだ。

    「なつのひかり」は、主人公である栞と、栞の兄、兄の愛人と兄の妻が二人(つまり重婚)が登場する。そして物語の奥に奥に連れていってくれる、指名手配のヤドカリだ。

    物語からわたしたちが受け取るものはあまりない。ただ江國香織が連れて行ってくれる、強い引力の物語の世界を、わたしたちはふわふわと漂うだけだ。

  • 栞、途方に暮れすぎ。
    内容は全くよくわからなかったけど、情景が目に浮かぶ不思議は江國香織ならではの表現技法に助けられているから。江國香織の小説に出てくる、主人公の周りの女の人たちって浮世離れしてる感じで素敵だよね。

  • タイトルに惹かれて、夏が終わる頃に読んだ。

    江國香織さんの作品はいくつか読んできたけれど、珍しくファンタジーもの。
    世界観が不思議すぎてもともと苦手とする部類だけれど、文章が心地よくて、素敵で、最後まで読めてしまった。
    解説にもあったけど、この世界観を楽しめたらそれでいい作品だと思う。
    一つの映画を観ているような気分で読めた。

  • すごいシュール。どちらかというとファンタジー?いままで読んだ江國香織の小説のなかで1番奇妙な感じ。ちょっと村上春樹っぽいシュールさかな。

  • 夏におすすめな作品ということで読了。
    初めて読んだ江國香織作品が「なつのひかり」だったから、江國香織さんはなかなかクセのある物語を書くのかな?と思ったけど、他の人のレビューを読んだら、この作品が特にクセのある作品であることがわかった。

    1ヶ月後追記。
    ふとこの作品を思い出したときに、またあのヤドカリのいる世界に浸りたいなと思ったので自分はもしかしたらこのクセが好きになったのかもしれない。
    来年の夏にまた読もうかな。

  • 20歳最後の1週間。栞はレストランのウェイトレスとバーの歌手の2つのアルバイトをこなし、規則正しい平穏な日々を送っていた。しかし、隣人の少年の脱走したやどかりが目の前に現れるようになってから、奇妙な夏に足を踏み入れていく。3歳上の双生児のような兄・幸裕の妻は「それ」を探しに家族を置いて失踪し、幸裕は「裕幸」と名乗り出して妻だというめぐみを連れてきて、兄の愛人の順子さんはついには兄をどこかに閉じ込めてしまう――。

    この物語の中では、キャラメルの箱が電話になったり、殻を脱いで銭湯に入るやどかりがいたり、ホテルで眠っていたらフランスに着いたり、そのフランスにある家の間取りがマンションの階下の双子の持っているドールハウスと同じだったり…。ファンタジーにしか思えない数々の出来ごとが起きます。愛する兄に正妻と経済的援助をしてくれる愛人がいるドロドロとした家族の話かなと思っていたところ、毛色が変わっていく展開に困惑しました。しかし、栞にとってはすべて今目前に起こっている「現実」だということ。

    「現実というのはうけいれる他につきあいようがない。」(p.223)

    この一言に尽きると思います。私たちは、栞とともにこの世界を歩き、純粋に楽しめば良いのだと気づきました。


    不思議の国のアリスさながらに、やどかりが栞を異世界へ案内してくれます。他にもアリスの世界を思わせる表現が多々あり、幸裕の持っているうさぎの左あと脚、めぐみの下手な卵料理、5時で止まる洋一の時計、順子さんの女王様のお酒。これらすべては、読者を異世界へ連れて行くためのキーワードであるように思いました。


    この本随一の魅力は、夏の夕暮れ時の魅力がふんだんに詰まっているということ。幼少の頃の夏の思い出がふわっと蘇ってきます。

    「子供の頃、夏の夕方が好きだった。自由と不自由のあいだみたいな、心もとなくて不安な感じが好きだった。大抵一人で遊んでいて、そろそろ帰る時間なのがわかっていて、帰ればなつかしい人や安心な場所が待っているのもわかっていて、それでももう少しだけ、あとほんの少しだけおもてにいたいといつも思った。心のどこかで、自分でもそれとわからないうちに、夏の夕方には淋しさを好んで味わっていたような気がする。」 (p.180)

    昔繰り返しみていたはずなのにもう思い出せない、夢の断片をつなぎ合わせたような本でした。何年後かの夏、また手にとって読みたいと思います。

  • 大人のファンタジ-とでも言ってみる??そんな感じです。江國さんの作品を色に例えようとすると、透けた色しか想像できないのはうちだけ??

    新しい作品に比べて不安定な感じがしました。漠然と!

    解説は必ず読むべき!キーがあります。今回はルールの話とパルレモアダムール。

    何でお兄ちゃん、名前を逆さまにしちゃったの??そんな陳腐さまで、この世界の一部だ。


    「それはまだ息をしていたので、お葬いというよりも生き埋めだった。かなしくはなかったけれど、少し苦しかった。」
    何をお葬いしたかは読んで知ってね。


    みんなが人をひどく愛している。

  • 難しかったな~。
    こんな感じの本を書く人でしたっけ?

  • 前半部分はなんとなく何が起きているのか、独特なスピードで次々いろんなことが起きて置いてきぼりにされている感覚もあったが、後半に差し掛かって主人公が動き始めてからグッと引き込まれた。
    ただ、途中から「あ、これは謎は何も明かされないまま終わっていく系の小説だ」と理解。どなたかも書いてましたが村上春樹に通ずる描き方のような。

    とにかく表現はやはり美しく、夏の気持ちよさも気だるさもまぶしさもとても堪能出来る文章で、そこはファンタジーであっても江國さんだなあと感じました。

    生き埋めにした恋は幸裕への恋だったのかなあ。

  • 現実を、目に見えているこの世界を
    逃さずに、感じて、受け取っている
    夏の光を、暑いただ続く毎日を生きていく自分を
    大切にすると


    汚いものも、疑うことも、信じ難いことも
    当たり前もないんだ、そこにあるすべてが愛おしい

著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

江國香織の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×