なつのひかり (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087470482

作品紹介・あらすじ

「私」は来週21歳。ウェイトレスとバーの歌手という、2つのアルバイトをしている。「年齢こそ三つちがうが双生児のような」兄がいて、兄には、美しい妻と幼い娘、そして50代の愛人がいる…。ある朝、逃げたやどかりを捜して隣の男の子がやって来たときから、奇妙な夏の日々が始まった-。私と兄をめぐって、現実と幻想が交錯、不思議な物語が紡がれて行く。シュールな切なさと、失われた幸福感に満ちた秀作。

感想・レビュー・書評

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  • 風変りな物語なのに、なぜか心地よい。
    童話を読む子どものように無防備になって、迷路に迷い込んだように楽しめました。

    探し物とは、遠い記憶とか、もっと大切なもの。目に見えないもの。
    読み終えて、21歳になった主人公とともに、すがすがしい気持ちになれました。

  • 久々の初期の江國作品。

    栞は、ある日お隣の薫平に「ヤドカリを見なかったか」と聞かれる。その場は知らないと答えた栞だったが彼女は家で薫平のものであろう〝醜悪な〟ヤドカリと出会う。
    ファミレスのウエイトレスと、女性の服が似合う美しい兄の愛人である順子さんの経営するバー(というかスナック)で歌を歌う仕事をしている栞。仕事は夜なので朝眠り、昼前に起きては散歩へ出る、そして道楽でやっている道端の野菜売りのお婆さんと親交を深めたりする。そんな平和な栞に事件が舞い込む、美しい兄の、完璧に美しい妻の遥子さんが失踪したという。彼女の置手紙には〝私は、あれ、を必ず見つけ出します。だから心配せずに待っていて〟と。
    二人を心配する栞の家に兄〝裕幸〟を〝幸裕〟と呼ぶ鳥の巣頭で薄幸そうな雰囲気のメグと幸裕が転がり込んでくる。
    揺れだした平和がヤドカリ〝ナポレオン〟の来訪でさらに強い揺れへと移っていく。

    訳をいちいちつけていけばいいのか、それとも不思議のまま丸のみすればいいのか。まるでアリスの世界のような酩酊に呑まれる、江國さんの毒に塗れた長編。

  • 夏の夕方5時あたりというのはとても不思議な感覚になる。暑いんだか涼しいんだかよくわかんないモヤモヤした空気が漂っている。そして空がとてつもなく綺麗で、虫の音もだんだん静かになっていく切ない頃という感じ。そんな時間帯に閉じ込められたようなファンタジーだった。
    表現や描写は相変わらず好きだし、ストーリー展開もかなり奇抜だけどなぜか説得力がある。
    個人的にはしおりがおばさんと過ごす、野菜を売っている屋台の描写が好きだった。

    最後の解説も素敵なのでぜひ読むことをお勧めします。

  • 幻想小説に近い?展開が面白くて、文章が魅力的でどんどん読めた。
    自分の解釈をつらつら書いてみたりする。

    タイトルの通り、とにかく光の描写が多い。光のあるところには当然陰が落ちる。光の描写よりは少ないが、陰の描写も多い。陰翳礼讃の引用までされているから、もうこれは明らかに「光と陰(影)」のお話なのだ。
    そして「夏」という季節の設定。夏は一年のうちで最も日差しが強く、影がくっきりと出る。
    また、肝試しをしたり、怪談話をしたり、なんとなく異界と近くなる季節のような気がする。猛烈に暑く、ぼんやりとして、物事を深く考えるのも億劫な季節でもある。

    光の当たっている部分、つまり見えている部分は一側面でしかなく、影になっている見えない部分が、物事、特に人にはたくさんある。
    人を知る、という行為は、特に自分にとって近くて、大切な人ほど複雑なように思う。ある程度もう自分のなかでこの人はこういう人、 という人間像があるので、そこを越える(変える)のは、難しいし、少し怖さもある。
    そんな、大切な人(「私」にとっては最愛の兄)の真実を知っていく過程は、一種の異界に迷いこむようなものなんだろう。
    幻想的な描きかたになるのも不思議ではないなと思った。

    あと、物語の進行役のようなヤドカリについて。なんでヤドカリなのかなと読んでいる時は思ったのだが、兄妹は家出をしながら、宿を借りているし、めぐは勝手に上がり込んで宿を借りている状態だし、遥も異界?のフランス人の家で宿を借りている。途中で洋一という青年がくっついてきて帰らなかったり、家出をしてきた子がずらずら出てきたり、とにかくみんな家があるにも関わらず、帰らない。
    このヤドカリそのものも同じだ。家があるのに、帰らずにその辺をずっとほっつき歩いている。
    そして、最終的には皆、なんでもなかったかのように自分の家に帰る。つまり、収まるところに収まるという感じ。
    ちゃんと要素一つ一つに何かしら理由やつながりがあるようで、ただ不条理な世界観のように見えて、実はすごくよく考えられているし、丁寧に描かれている小説だなあと思う。
    結局真相のわからないままで終わる要素もあるのだが、それはむしろそういうものだ、という気がする。所詮自分ではない他人を完璧に知り、理解することなどできないから、"あえて"書かなかったのではないかと思った。

  • 江國香織の小説は、四季の中で言うと、夏にいちばん読みたくなる。夏のじっとりまとわりつく空気と、江國香織が紡ぎ出す文体と物語が、すごく似ているし、読んでいるとなんだか夏の暑さにやられたように、ぼんやりとしてくるからだ。

    「なつのひかり」は、主人公である栞と、栞の兄、兄の愛人と兄の妻が二人(つまり重婚)が登場する。そして物語の奥に奥に連れていってくれる、指名手配のヤドカリだ。

    物語からわたしたちが受け取るものはあまりない。ただ江國香織が連れて行ってくれる、強い引力の物語の世界を、わたしたちはふわふわと漂うだけだ。

  • 今から24年前、高校の図書館で出会い
    何度も何度も、夏が来るたびに、咀嚼するように読みました。

    簡単に変えられない、同じことの繰り返しの日常に、足を取られて進まず、もがく感じがよく表現されていて。
    でも、最後に大きな変化が起きて(当事者たちにとって)それでも世界は変わらない。

    何度読んでも色褪せない、
    なつのひかり。
    大好きです。

  • 栞、途方に暮れすぎ。
    内容は全くよくわからなかったけど、情景が目に浮かぶ不思議は江國香織ならではの表現技法に助けられているから。江國香織の小説に出てくる、主人公の周りの女の人たちって浮世離れしてる感じで素敵だよね。

  • 終始よくわからなかった。
    江國香織さん初めましてだけど、他の作品はどんな感じなのかな、、、

    ヤドカリと薫平は愛嬌があるけど、あとはひたすらふわふわした世界。
    読むのに時間がかかってしまったけど、他の方のレビューを見ると、ふわふわしたまま読むのが正解らしい。

  • 終盤で挫折

  • タイトルに惹かれて、夏が終わる頃に読んだ。

    江國香織さんの作品はいくつか読んできたけれど、珍しくファンタジーもの。
    世界観が不思議すぎてもともと苦手とする部類だけれど、文章が心地よくて、素敵で、最後まで読めてしまった。
    解説にもあったけど、この世界観を楽しめたらそれでいい作品だと思う。
    一つの映画を観ているような気分で読めた。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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