談合の経済学 日本的調整システムの歴史と論理 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087470918

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  • 談合の経済学というよりは、歴史および談合とはなんぞやという点によりフォーカスされている感じかな。単純な価格競争が善とはいいきれないという形で話がはじまるが、最終章には現行の談合が決してプラスになっていないだろうと結論付けている。

    *オークションを行う時、競争させることが異常な値段に吊り上げてしまう可能性、バブルがはじけての大暴落等、競争がその価格を安定させるどころか、マイナスに働いてしまうことが多々ある。競争はオールマイティではなく、競争の結果の不平等を是正するのが、事後か予防回避かが日米の認識の違いかもしれない。

    *談合罪の成立ちには、”よい談合”と”悪い談合”があるという考え方があった。

    *条文において”公正なる価格”と”不正なる利益”の定義が曖昧ゆえ、裁判所の解釈が何度も揺れる事となった。別の言い方をすれば、過当競争によるダンピングおよび手抜き工事の回避、業者共倒れの防止のために必要な調整であれば、それそのものは違法とは言い切れない。

    *明治後半から職業談合屋による談合の制度が定着するにつれ、談合金が上がり、談合金目当ての悪質な談合屋が増えた。当時は談合を専門とする職業談合屋がはぶりをきかせていた。ただ興味深いのは、日本の植民地であった朝鮮で大きな談合事件があった時、当時の朝鮮総督府交通局長の江崎義人がその回想録にて、談合は普通どこでもやっているけど、問題になったのは性質の違うものだという証言がある。発注者側も談合の存在を普通のことと認めていたことがわかる。

    *予定価格の算出は、正確であることが前提となるが、発注者側が原材料や賃金の動向を事細かに把握している必要がある。このことから、前提が怪しいことがわかる。

    *日本の入札制度は赤字受注が起こることを当然とみなし、それを排除するための措置をあらかじめ用意している。予定価格より高い場合はペナルティーはないが、最低価格制限を下回る場合は、失格となる。この制度のあり方は、明らかに安すぎることは悪いことだ、何か裏があるに違いないという考え方に沿っている。

    *落札できるのは1社のみとなるため、順番で落札者になることを取り決めたり、諦めた側には対価としてそれなりの金額が渡されることとなる。

    *談合協定を守るためには、抜け駆けをする人がでないようにする必要がある。指名入札制度でアウトサイダーの排除は可能である。

    *埼玉県の土曜会では、話合いにおいて各社がどのぐらい情報収集をやっていたかが重要になる。つまり事前の情報収集戦で競合い、その勝者を本命とする。この場合は、競争の制限ではなく、価格ではない不正な手段で競争をしているという方が正しいかもしれない。

    *アメリカでは業者は身を切ってまで受注しようとしないが、日本は先につながると予想されるものに対して赤字でも受注を目指す。そうなると工事のごまかしや、監督者の買収といった事も起きてくる。

    *ドイツ人は、日本人の契約観を”中国人は締結された契約を守り、取引には客観的な判断でもってして接するが、日本人はいったん結んだ契約が荷厄介になったような場合、相手が相変わらず、その契約の遵守を求めるのは埠頭であると考える”と説明している。明治以来、土木建設業の技術水準がまだ低く、見積りが確実に算定できないという事情があり、とりあえずこういう条件であとは必要に応じて話し合いましょという取り決めが多く、それが常習化した。

    *発注者の能力の低下が不十分な予定価格の積算しか出来なくさせ、それを補うために民間に依存し、○○委員会といったところの協力を仰ぐ。そこには業者が手弁当で参加している。

    *1889年制定の会計法において、競争入札が原則とされていた。

    *競争によって極端な安値受注がなされると質が信頼できないものになることが多いという論理は1890年代から、現在においても競争入札の弊害を説く側から出される。

    *談合屋が暗躍し、協定そのものを左右するようになり、暴力や脅迫で話合いを強要するようなり、業者が談合金の支払いを拒絶すると、工事の妨害なんかも行われるようになった。

    *牧野良三は、明治後半から昭和初期までを”職業的な談合屋の不義や不正のおかげで入札界の無事平穏が保たれた”不正談合時代であるとした。談合金の強要、競上げに加え、賃金の不払い、材料代金の踏み倒し、不正工事、工事の中途放棄等の弊害が行われた。しかし業者を指名からはずす以外の法令を欠いていた。そのため、会計監査院の武藤栄治朗は、”競争入札において虚無の談合入札を行うことは、発注者を欺く詐欺にあたる”とした。

    *敗戦後、GHQの改革は土木建設業界のあり方に大きな変化を迫るものであったが、業界は戸を立て、風を避け、戦前のあり方を再建しようとした。

    *公正取引委員会がメスを入れ始めた際、業界の反論は、”手抜き工事や粗悪工事を防止し、業者に対して圧倒的優位な立場にある発注官庁に対抗するための必要かつ、やむを得ない防衛手段であり、公共の利益に反するとは言えない”であった。

    *埼玉土曜会(談合の話合いが行われていた)に関し、違法と知っていても情報量や、他のメンバーを敵に回しての安値受注・利益の圧迫の回避、また救済という形の恩恵を受けることができるため、脱会という選択肢はなかった。

    *談合で優位に立つためには情報次第とい認識の元、上司から名刺の数で役所からの評価が決まると命じられた営業社員たちがばかばかしいと思いながら、役所をまわり名刺を置いてくる作業が繰り返されていた。

    *1990年に発表されたマクミランのシミュレーションでは、日本の公共工事費は談合によって16-33%も増加していると発表されている。日本の制度への理解が不十分なところがあり、数字自体に問題ありとされているが、その一方で業界から工事費が高すぎるという声はたびたび聞かれる。

    *談合という調整システムは、不況だからやっているわけではなく、いつもやっており、不況になると我先に取り分を主張する競争的側面が強まる。そうした時期に談合事件が続発するのは、調整に不満を持つ企業の内部告発である。

  • 『文献渉猟2007』より。

  • 日本の談合は長く価格決定カルテルではなく、受注予定者決定カルテルであった。そこには「競争」があったし、だからこそ、天の声が必要であった。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、博士(経済学)。主な著作に、『歴史としての高成長東アジアの経験』(共編、京都大学学術出版会、2019年)、『日本経済史』(有斐閣、2019 年)などがある。

「2022年 『企業類型と産業育成 東アジアの高成長史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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