ワセダ大学小説教室 書く前に読もう超明解文学史 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087472097

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  • 著者は母校の早稲田大学で「小説創作」の講師を務めており、そこでの講義を本にまとめたのがワセダ大学小説教室シリーズ。本書はその三冊目にあたる。純文学を書きたい若者のために近代日本文学の変遷を学ぶことで、創作に活かしてほしいというものである。著者は「文学史を学べばアイディアは無限」と語る。もちろんそんな野心のない人にも読み物としてじゅうぶんに面白い。「ものすごーくわかりやすく説明します」と述べるように、硬くないので文学史のおさらいとしても、楽しく読めるだろう。

    あくまで団塊世代の著者の目を通した文学史なので、日本文学の東西の横綱に大江健三郎と中上健次を選ぶなど違和感もあるかも知れないが、この世代の「文学」への熱き想いは感じられる。昔は純文学はインテリの中心的話題のひとつだった。いまはなかなか売れないそうである。明治から20世紀までの時代を創った作家の粗方を網羅しているのでブックガイドとしても使えるし、著者の評論もユーモアに富んでいて面白い。大変に好意的に取り上げられてる作家あり、ちょっと意地悪に書かれてる作家ありで、心の中でツッコミを入れつつ読んだ一冊だ。巻末には著者によるインタビューも掲載。

  • ①なぜ文学史を学ぶ必要があるのか

    歴史を振り返りながらその時代状況とヒットした小説の関係を見ていけば、なぜその作品が時代に受け入れられたかが分かる。

    田山花袋『蒲団』
    二葉亭四迷『浮雲』
    夏目漱石『三四郎』『それから』『こころ』
    島崎藤村『破壊』『夜明け前』
    国木田独歩『武蔵野』


    ②自然主義を超える小説とは何か

    志賀直哉『暗夜行路』『城崎にて』
    小林多喜二『蟹工船』
    横光利一『日輪』『機械』
    川端康成『湯ヶ島での思い出』『伊豆の踊子』『雪国』
    谷崎潤一郎『卍』『春琴抄』『細雪』『鍵』など
    石川淳『普賢』
    梶井基次郎『冬の日』


    ③戦後文学の黄金時代

    太宰治『斜陽』『人間失格』『トカトントン』『女性徒』
    大岡正平『俘虜記』
    武田泰淳『蝮のすえ』
    埴谷雄高『死霊』物語の物語、『闇の中の黒い馬』
    野間宏『青年の環』
    松本清張
    水上勉
    阿部公房『砂の女』『箱男』


    ④不死鳥のごとき私小説の復活

    安岡章太郎『陰気な愉しみ』『遁走』『海辺の光景』
    吉行淳之介『驟雨』『暗室』
    庄野潤三『夕べの雲』『静物』『プールサイド小景』
    小島信夫『抱擁家族』
    遠藤周作
    三浦朱門
    阿川博之
    石原慎太郎『太陽の季節』『弟』
    三島由紀夫『仮面の告白』『金閣寺』⇔水上勉『金閣炎上』
    大江健三郎『死者の奢り』『飼育』『奇妙な仕事』
    開高健『裸の王様』『輝ける闇』
    高橋和巳『非の器』『憂鬱なる党派』『わが心は石にあらず』『日本の悪霊』『わが解体』
    小田実『何でも見てやろう』
    丸谷才一『たった一人の反乱』

    三大批評家
    江藤淳『成熟と喪失』
    吉本隆明
    柄谷行人

    後藤明夫『吉野太夫』
    黒井千次『時代』『五月巡歴』『群棲』
    阿部昭『司令の休暇』
    坂上弘『ある秋の出来事』
    高井有一『北の河』
    吉井由吉『よう子』


    ⑤文学の横綱とは誰か

    中上健次
    大江健三郎『万延元年のフットボール』『洪水はわが魂に及び』


    (最終回)七番目に現れた新人たち

    村上龍
    高橋三千綱『退屈しのぎ』『九月の空』
    高松和平
    宮本輝『泥の河』『蛍川』
    村上春樹
    高橋源一郎『さようならギャングたち』
    五木寛之『青春の門』
    島田雅彦『優しいサヨク~』
    池澤夏樹『スティル・ライフ』
    宮内勝典『グリニッジの光を離れて』

    田中康夫『なんとなく、クリスタル』

    女流作家

    瀬戸内晴美
    有吉佐和子
    曾野綾子
    河野多恵子
    倉橋由美子
    岩橋邦枝
    三枝和子
    大庭みな子『三匹の蟹』
    金井美恵子
    津島裕子『だんまりいち』『水府』
    高樹のぶ子『その細き道』『光抱く友よ』
    増田みず子『シングルセル』
    山田詠美『ベッドタイムアイズ』
    林真理子『葡萄が目にしみる』

    庄野頼子『タイムスリップコンビナート』
    松浦恵理子『親指P~』
    多和田葉子『かかとを失くして』『犬婿入り』天才的
    虚構は1作品に1つだけ。


    一人の人間として切実に生きる。
    照れずに逃げずに自分を見つめる。
    テーマやモチーフをことさらに探す必要なんてない。
    方法論やファンタジーに逃げない。
    「私」が原点

    (エピローグ)
    新人賞受賞作や芥川賞の作品は必ず読む。
    うまく書けないときは、自分を見つめることを怠っている。

  • 小説を書くということを前提に置いた文学史。神話構造と日本の私小説との関係を指摘しており、非常に面白かった。

  • 日本文学史や主要な作家の特徴などとてもおもしろく書いてあった。

  • さくっと

    入門

  • 読書好きな人全般にオススメできる本。文学史を様々な国の背景を絡めてテンポのよい説明を展開しているので非情に分かりやすく、読み進めるうちに読むべき、または読みたい小説がどんどん蓄積されていく。作家のために書かれているが、これを読むだけで文学史っておもしろいんだと思うことができ、それだけでも収穫。個人的には作者の私情が入ってこない近代文学の解説が一番心躍った気がする。

  • 創作のために文学史を効率よく整理した書。
    ①ロマン主義(物語的、記号的)から自然主義へ
    近代小説(リアリズム)のはしり
    <イギリス>
    ・「ドンキホーテ」(ロマンス批判)
    ・「高慢と偏見」(個性的な人物)
    ・「嵐が丘」(ロマンス風だが同上)
    <フランス>
    ・バルザック「人間喜劇」
    ・デュマ「モンテクリスト伯」
    ・フロベール「ボヴァリー夫人」
    ・ゾラ「居酒屋」
    ↓ロシアは仏語圏だったため影響
    <ロシア>
    ・ツルゲーネフ「猟人日記」(ハムレット型、少年的、無能者)
    ・ドストエフスキー「罪と罰」(哲学青年系)
    ・トルストイ「戦争と平和」(したり顔の大人的)
    ↓経済、文化、思想状況がロシアと似ていたため影響
    <日本>
    日本的「物語」からの脱却(「里見八犬伝」「源氏物語」「雨月物語」)
    ・田山花袋「蒲団」(告白変態小説、自然主義をゆがんだ形で吸収)
    ・二葉亭四迷「浮雲」(ツルゲーネフ的無用若者小説)
    ・国木田独歩「武蔵野」(自然崇拝、自己崇拝)
    ★自然主義の違い
    ゾラ→科学技術の発展に呼応した合理的な人間分析、場面写実
    ツルゲーネフ→文字通りの自然、田舎、森林
    ②自然主義の分岐(私小説の誕生)
    志賀直哉的→達観
    田山花袋的→自虐、告白
    他方、幻想小説の登場…江戸川乱歩、夢野久作、横溝正史
    面白い小説の席巻、「純文学」という逃げ道の誕生(芥川龍之介

    純文学への批判「新感覚派」(面白くなくてはならない!)
    ・横光利一「機械」(実験的)
    ・川端康成「伊豆の踊子」(耽美的)
    ③プロレタリア文学と私小説
    プロ文→社会的だが切実さがない
    私小説→切実だが視野が狭い
    →「戦争」という大テーマのもとでの融合
    また、「実存主義」の登場
    ★戦後派の登場
    大岡昇平、武田泰淳、野間宏、椎名麟三
    安部公房(カフカ的、社会病理のメタファー)
    ★戦後派を支えた評論家
    平野謙、埴谷雄高(哲学的、幻想小説、対話)、荒正人ほか
    ★プロレタリア文学の滅亡と社会派の登場
    松本清張、水上勉
    ④第3の新人登場(私小説的)
    ・安岡章太郎「遁走」(批評、ユーモア)
    ・吉行淳之介「暗室」(女、虚無感)
    ・庄野潤三「静物」(日常と不安)
    ⑤天才たちの登場
    ・石原慎太郎
    ・大江健三郎
    ・開高健
    ⑥反体制文学の登場
    柴田翔、小田実、高橋和巳
    ⑦「内向の世代」の登場
    古井由吉、加賀乙彦
    政治の季節の終了、江藤淳の登場、第3の新人の再評価

    ★中上健二と大江健三郎
    「実存」と「構造」の対立と克服
    中上→神話的手法の無意識的な採用(初期は大江から影響、近親、血、部落)
    大江→意識的採用「万延元年~」

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著者プロフィール

(みた・まさひろ)小説家、武蔵野大学名誉教授。1948年生まれ。1977年、「僕って何」で芥川賞受賞。主な作品に、『いちご同盟』、『釈迦と維摩 小説維摩経』『桓武天皇 平安の覇王』、『空海』、『日蓮』、『[新釈]罪と罰 スヴィドリガイロフの死』、『[新釈]白痴 書かれざる物語』、『[新釈]悪霊 神の姿をした人』、『親鸞』、『尼将軍』、『天海』などがある。日本文藝家協会副理事長、日本文藝著作権センター事務局長も務める。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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