ベルリンの秋 下 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (568ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087473018

感想・レビュー・書評

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  • DDRに好ましくない動きをした人がどんどん消されていくので、もうこれ以上魅力的な登場人物の身が安全であるように、と願いつつ手に取った下巻であった。
    こちらより前作の方が評価が高いようだが、政治の流れがダイナミックな分、こちらの方が、あのベルリンの壁の崩壊~ソ連解体までこのようなことが起こっていたのだと上巻から引き続き興奮しっぱなしであった。
    上巻のところで書きそびれたが、今作は前作ではカテリーナの元夫というだけだったラインハルトも登場も多く、どういう人物であるのか知れるのが嬉しい。シルビアから見た父であるラインハルトは「母を捨てた男」であり、冷たい人間であるのかと思いきや、難しい立場でありながら、元妻と娘、そして再婚した妻を愛する人間だということが伝わってくる。
    そしてシルビアをあいするオーマ、その存在がどれほど大きかったか。


    ベルリンの壁の崩壊はテレビで見て「みんなで壊せばいいだけの話しだったんじゃないか」くらいでしか思っていなかったのが、そこに至るまでの長い道のりを追って知ることができる、歴史を知る上でも大変貴重な小説である。
    今となっては過去の歴史上での話しではあるが、ソ連のアフガン侵攻が後の911につながるのであるし、主人公が最後ジンバブエに配置され、ジンバブエの80年代末の様子が窺い知れるのだが、今正にジンバブエで大統領の辞任問題が起きている2017年につながってくる(タイムリーすぎてびっくりした)し、この時代を知ることは現在を知ることにもなるのだと実感する。

    アンドロポフKGB議長もほんの少しであるが、人間味を見せる場面があるところが印象的であった。

    ヘスは一体何人を手にかけたのだろう…恐ろしい。モデルとなる人物がいたのか、いたとすれば主人公かなり危ない目に会いすぎじゃないか…。

    気になるシルビア、上巻の冒頭に捧げられているエルケさん、この方が奥さんでありほぼ実際の話なんであろうなあ…。下巻最後の塚本哲也さんとの対談で匂わせていることからそう確信する。

    他にも書きたいことはたくさんあるのだがもうありすぎてわからない…。

    一応この続きにあたる『ウィーンの冬』も気になるが、様々なところのレビューが低いことから、次作に手を伸ばすか、前作を読んでからかなり年数が経っていることもあり、再度『プラハの春』を読み直すか迷うところである。

    この本はタイトル通り、そして陰鬱なDDRの雰囲気に合う秋から冬にかけて読むことをおすすめする。

  • ベルリンの壁崩壊までの約20年の年月を上下巻で、かなり読みごたえがありました。

    当時のソ連のことも分かりやすくて、外交官としてリアルに時代を過ごしたからこその作品かなと。

    それにしても、DDRは目線によって、捉え方が変わりますね。

  • プラハの春の話を忘れていたという点があるにせよ,プラハの春ほどにはすかっと読めなかったのも事実。このころの東ドイツの空気感の片鱗を感じられたのはよかったが。

  • 外交官の宿命は、赴任地での在任期間。主人公・亮介もまた、東ドイツ・日本帰国・西ドイツと数年の間隔をあけてDDR(東ドイツ)に残したシルビアとの関係を続ける。その間に、二人の関係は運命に導かれるように様々な苦難に遭遇する。一方、ソ連邦を中心に東欧諸国の民主化のうねりは確実に進んでいく。シタージの幹部かつシルビアの父・シュナイダーの長く密かに目論んでいた野望とは。「プラハの春」からの民主化への望みは、「ベルリンの壁」崩壊によって実現する。

  • プラハの春の続き。

    シルビアとカテリーナの間で葛藤し、グレムリンに振り回され、それでもシルビアの想いの強さがホリエを動かす。

    非常に長いし、政治的なものも入ってくるので、読みにくい人もいるかもしれないが、社会主義を理解するためにも、今のウクライナ情勢を理解するためにも面白い。

    リアルな歴史の歯車の絡みを体験しつつ、小説が動いていく。
    そんな本かなぁ。

  • 21
    本著は当時の時代背景をすこぶるリアルに描写することで、社会主義国という体験したことのない空気を読者は感じることができるだろう。
    また、外交官の仕事にはインテリジェンス(諜報)も重要なタスクであることが読み取れる。
    仔細な時代の描写が物語を一層深いものとしており、名著である。

  • もう何度目かの読了。上巻後半から引き続き日本人外交官と主人公と東ドイツ女性の恋愛がメインに。場面が巡り巡る。こんなことないだろう、というのが小説なのだが、これはどこまで作者の経験をたどっているのだろうか。とにかく僕はオススメします。

  • 外交官の生活と、ソ連崩壊にむけての話が興味深い
    外交官亮介がプラハから帰ってきて、ベルリンに再度赴任
    シルビアと再開し恋に落ちる恋愛要素が大きいかも

  • 「プラハの春」そのものと、ベルリンの壁崩壊。
    これをただ史料ではなく小説として、ラブロマンスとからめて書いたことは素晴らしいと思う。
    結局最後までシルビアを好きになれず、シルビアをカテリーナの半身とも思って愛するという堀江のこともあまり好きになれず、で、キャラクターへの思い込みは生まれなかったが。

    ふたりと、周囲の人々の感情や日常生活、そこに共産主義の人を人として扱わない暴力の影響がどう表れていたか、「西ベルリンでは冬に野菜が不足して困る」とこぼしただけでも二年間も投獄されるという圧政と密告の泥沼。
    これらが小説で表現されることで、とても読みやすく、各国の首脳陣ですらキャラクターであるがゆえに、その動向が頭に入りやすい。
    いい表現だと思う。
    大使館員だった作者が体験した事実、目にした出来事が織り込まれていて、ドゥプチェクがナチスの犠牲になった人々の碑に頭を下げたくだりなんか、胸が熱くなる。

  • プラハの春の続編。同じく何度でも読みたくなる本でした。
    出会えて良かったと思える本です。

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