- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087475333
感想・レビュー・書評
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当たり外れある作者の作品の中で、意図が比較的伝わり、気持ち良く楽しめた一冊。
自殺するまでの1週間を、コミカルな劇場化に振り切り、辛気臭さが取っ払われ気持ちが良い。
ただ展開の軽さの中にも、死生観や享楽の意味を問う哲学的な投げかけを感じバランスが良い。
作品の締めは、これまで幾つかの短編が習作になっているであろう内容で、当時の作家的充実度も伺え、重要作だと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
島田雅彦さん、いろいろ読んでいるけどやっぱり長編小説が好き!文章の感じも好きだし、思いもよらないような奇想天外な展開も好きだし、そのユニークな世界観にできるだけ長く留まっていたいと思うから、短編集だと物足りない。長編、書くの大変なんだろうけど。「一週間後の金曜日に死ぬ」と決めた男性が、死ぬ前にやりたいことをひとつひとつこなしていく物語。でも次から次へと邪魔が入って、考えるはずじゃなかったことを考える羽目になったり、売るはずじゃなかった臓器を売る手続きをしてしまったり、信じられないような恋をしたりと、図らずも目眩く一週間になる。最終日までは「来週の今日はもうこの世にはいないし」と開き直ったからこその喜劇的で怒涛の日々を送るのだけど、紆余曲折あって最後の最後で自分の死と本当に向き合わざるを得なくなる。どんどん追い詰められて心身ともに余裕がなくなっていくのに、妙に思考だけは冴えていて、最後の最後まで理屈っぽくのたうち回る主人公の姿は、この間読んだ『ニッチを探して』と通ずるところもあった。
“私は一昔前に流行った自殺マニュアルをなぞる気はありません。自殺にも恋愛や料理や放浪と同様のマニュアルがあってもいいとは思いますが、肝心なのは実際にマニュアル通りに行くかどうか、確かめることです。マニュアルは単純化された一般論にすぎません。仮にそれを踏襲しても、そのプロセスや結果は人によって全て異なるはずです。私は小説家だから、一人の自殺者の記録をしつこく追いかけることしかできない。”
(最終章「自由死刑とは何か?」より抜粋。pp.359-360)
今年の春に購入した『完全自殺マニュアル』を、ちょうど数日前に手放したところだった。結局読まないまま、というかそもそもビニールを開封すらしないままメルカリの匿名配送で売り飛ばしてしまったけれど、この先また死にたくなるようなことがあったらあのマニュアルではなくこの本をもう一度読もうと思う。最近はいい感じ。でも「死にたい」の最中で読んだら果たしてどんなふうに感じるか、気になる。 -
P109 目に見える茶の間には母とテーブル、コロッケを持った皿と箸しかないが、母の脳の片隅の茶の間には親父も善男もいて、時々憶い出し笑いをしながら、煙草をふかし、爪を切り、新聞をめくり、すかしっ屁をする。
初島田雅彦。有名なこの本を。
少し世間の様子と金女酒の選択に時代を感じるところもあるが、軽妙に、そして独特の生死感と偶然のつながりを書いている。文学的だ。最後の死は、こうなるのか、という感じ。 -
名著再読シリーズ②
表紙に作者…笑笑
昔は違ったような⁈
こういうところはご愛嬌にしても、20年以上も前にこの作品を書ける才能に感嘆。
性欲、食欲、睡眠欲…
生きるための欲求と死に欲。
著者の言う通り、フロイトは正しいと思う。 -
読みやすい文章だった。終盤の静かな絶望感が好きです。
死にたい動機がよくわからなかった、というのはもっともでしょうが、個人的には終盤の弟の話で少し萎えた。
死ぬのに理由づけなんていらんだろ、と喜多善男に関しては思っていた。生きるのに理由はいらなくて死ぬのに理由がいるとは如何に?というスタンスを貫いて欲しかった。
そう思う程度には、動機がやや弱く感じました。 -
聖書には登場しそうもない男との一期一会のあとには埋めようもない空しさだけが残った。
(P.148) -
目的に向かう主人公、絡んでくる面々。 面白いんだけど「死にたい」が理解できない分、感情移入出来ないんだな。 最後はすごく痛々しいし。 結局、死ぬのはいいもんじゃないって事。