薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087475852

作品紹介・あらすじ

情熱。ため息。絶望…でも、やっぱりまた誰かを好きになってしまう!恋愛は世界を循環するエネルギー。日常というフィールドを舞台に、かろやかに、大胆に、きょうも恋をする女たち。主婦。フラワーショップのオーナー、モデル、OL、編集者…etc.9人の女性たちの恋と、愛と、情事とを、ソフィスティケイトされたタッチで描く「恋愛運動小説」。

感想・レビュー・書評

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  •  14人の登場人物が結婚と恋愛と幸せに揺れる群像劇。
     全体の感想として、絆というものの脆さを考えるシーンが多かった。タツノオトシゴのように一度決めた相手と生涯添い遂げるみたいことは少なく、それぞれ自分の感情にだけ素直に等身大の自分を生きて、ただないものねだりをし続けているように感じられた。結婚や恋愛や子どもといった抽象的な言葉に夢を見ており、そうじゃないと分かってもなお夢を見続けているようにも感じられた。
     特に、登場人物の陶子が顕著で、長く付き合っていた不満のない恋人を捨て、新しく付き合って半年の男性と結婚した後、その結婚に対し文句はないのに公園で出会った男性と浮気をするようになりそれでも結婚は幸せなものだと思っているという、一見すると破綻した人物だった。ただ陶子は心の奥底でどこまで行っても自分は一人ぼっちだという感覚が抜けず、それ故に人に求められたい気持ちが人一倍強い寂しい人物だということが読み進めると分かっていった。けれども、陶子はあくまで結婚は幸せなことだと思っており、浮気してホテルに行ったその日の夕方に夫と妹の結婚を祝うパーティに何の罪悪感もなく出ることができ、私は最後まで共感できなかった。
     最後の陶子の妹の草子の結婚を祝うシーンが皮肉に満ちていて、結婚に幸せを見つけてるが浮気している陶子と、結婚に幸せなどないと思ってるれいこと、離婚したエミ子が、草子の結婚を祝うという「芝居じみた」構成になっているのは読んでいて薄ら寒くなる気がした。
     登場人物がとにかく多く、その上視点がどんどん変わるため最初は誰が誰か分からなくなってしまうこともあった。夫婦の繋がりだけでなく浮気の繋がりもあるため、関係も複雑で話を追うのも大変だった。ただ、話が進むにつれそれぞれの人物の印象も付いてきて分かるようになった。また、登場人物は、浮気されたり振られたりする男性と女性が寄ってきて浮気をする男性、幸せな結婚生活を営んでいる人とうんざりしてる結婚生活を過ごしてる人、独身で満足してる女性と叶わない恋をして独身の女性といった風に対比になっていることが多かったり、男性の登場人物は子どものいる慎一以外は名字で女性の登場人物は名前で呼ぶという特徴があり、それが話にリズムを生んでいた。ただリズムはあったものの、ダッシュが頻繁に出てきて補足情報を付け足すためテンポが悪くなるところは残念だった。
     タイトルの薔薇の木は道子の育てている庭のことで、季節によって違う姿を見せてなおかつ人によって好む姿が違うことを表し、枇杷の木は衿の父親と母親と子どもという理想の家庭を示していることまで分かったが、檸檬の木は見つけられず草子が檸檬を皮ごと食べたシーンしか思い当たらなかったので少しもどかしさが残った。

  • もっとも感情移入したのは陶子。
    陶子の感じている、家の中にいる時の安心やくつろぎ、それと孤独感には胸が切なくなるほど共感した。
    なにが正解、というのではないのだけれど、こんなふうに生きても良い、これもまた正しい、と思わせてくれるような物語たちだった。女性たち(男性たち)の感じ方、生き方が、皆それぞれ気持ちよかった。

  • 陶子は結婚して夫に従い作り上げた家に安心感を持ちながらも、男性に激しく求められることに快感を感じている。

    エミ子は続けることもできた結婚生活に自ら終止符を打ち満足するはずが、夫のいない生活に虚無感を覚える。

    れいこは夫に失望されないよう自立し、相手を束縛しない妻を演じているが内心はほぼ別居状態の結婚生活を悲しんでいる。

    衿は土屋を心から愛し不倫関係を割り切っているが、その愛情の産物としての妊娠を機に彼と離れることになる。

    桜子は自分以外のほぼ全てのものを見下しているが、土屋が自分のものにならないことで自分自身の自尊心を追い詰めていく。

    草子は姉の陶子の元恋人である山岸に叶わぬ恋をし続け、そのフラストレーションを周囲の人物にぶつけ続けるが、見合い相手の藤岡との関係に安心感を覚え結婚を決意する。

    綾は夫を愛していないが、自分の結婚生活を理想のものにすべく子育てと第二子の妊娠に励む。

    道子はかつての不倫相手を忘れられず、夫の山岸のことを男性としては愛していないが、結婚と幸せは別物と考えて夫婦関係を続けている。

    麻里江は自立し孤独を愛するハイミスの女性で、パーティで出会った山岸に自身と似たような孤独を感じて恋に落ちる。


    恋愛とは、結婚とは、幸せとは何か。
    それぞれの女性によって感じ方は異なり、どれも正しいようで、どれも間違っているような。
    そんな作品。

  • これぞ江國香織さんという美しさ。
    全てがお洒落。
    ていねいって言葉がよく似合う。
    正直内容は読了直後の今は鮮明なものの
    数ヶ月経ったらこれどんな内容だったっけって忘れてそうだけれど、読んでる時の心地良さは最上級でした。
    江國香織さんの本は読んでいると心が癒されます。
    結構これは今まで読んだ江國香織さんの本の中でも個人的に好きでした。広尾に住む人々のお話という私のまさに憧れの住人が登場人物なのでワクワクがとまらなかったです。この設定本当に好きでした!!!
    言葉選びや出てくるもの、舞台がきれいなので小説との相性がいいお話だなあと思いました。

  • #3333ー156

  • 最初登場人物の多さに混乱したけど途中から一気に読めた。起承転結はなくそれぞれの日常が淡々と描かれている。
    文章が素敵なので読んだ後は心地よさが残り何度でも読み返したくなる作品

    「大好きなものが多いのではなく大好きなものだけを言葉にするようにしているのに」
    個人的には衿が一番好き。

  • 恋愛が日常茶飯事的に、誰かの心に入り込んで、誰もが主役で、そして誰もが自分勝手で。
    柔らかい言葉で描かれていて、潤いがある。

    終りのない物語。また読み返したくなる。

  • 登場人物が多くて最初着いていくのに苦労した。

    私の生活には恋愛というものが存在しないから、世間でいう「恋愛」がどんなものなのか理解したくてこういうものを読んでしまう節がある。

    どんなにありふれた日常の描写からも必ず江國さんの文章らしさをひしひしと感じた。

  • 久々に読んだ江國香織の作品。9人の女性とその夫・不倫相手といった多くの人物が登場し、その恋愛模様が描かれる。江國香織の他の作品でもあったが、物語の視点が頻繁に切り替わる。この作品は登場人物が多いので、ある場面が描かれた直後、その相手の視点に切り替わることで相手からはこう見えていたのかといった面白さがあった。ある人物と別のある人物の接点ができて、不倫に繋がって・・・といった先の展開も面白かった。
    --------------------
    ・主に描かれるのが女性たちの恋愛ということで、あまり感情移入はできなかった。女性たちは怖い。不倫にハマっていく流れ、突然の離婚宣告、不倫相手の突然の妊娠。一人一人のドラマの詰め合わせ。
    ・多数の人物が登場し、慣れるまで若干ややこしかった。一番若く、そのせいか他の人物との違いが際立つ桜子が印象に残った。でも、登場する女性たち全てがエネルギッシュに感じた。男性では妻が居ながら二人と不倫する土屋保が印象に残った(というより、他の男性が目立たないだけか?)。最終章の後、この人はどんな人生を送るんだろう?
    ・描かれるのは恋愛だけではない。都会で暮らす比較的裕福な暮らしの人たちの日常の描写が楽しめた。こんな丁寧で穏やかな生活をしてみたいと思う。ただ、丁寧で穏やかでも人間関係はドロドロしているし、どこか満たされていない。
    ・食べ物の描写が多い。ホームパーティで作ったチーズの餃子、アナズジンジャーシンズというクッキーと生クリーム、フラ印のポテトチップス、などなど。自分でも作ったり買ったりできるものばかり。読みながらもっと書き留めておけば良かった。
    ・フラワーショップの絡みもあり、花の名前もたくさん登場する。服のブランド名も。見知らぬ単語が出る度に、それらをネット検索しながら情景をイメージしつつ読み進めた。

  • 高校生の時初めて読み、気取っていて意味がわからないと思った本。10年以上経ちふと思い出して読んで、瞬く間に夢中になった。いい女になってる気がしてくる本。

    個人的には陶子のような、庇護された妻が羨ましい。庇護されているのに、孤独、それでもいいと思いつつ、心の隙間を埋めるように別の男と愛し合うなんて甘美ー。と思いつつ、また数年経ったら別の登場人物に憧れるのだろうか…?

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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