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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784087477092
作品紹介・あらすじ
古いアパートの奇妙な住人たち。大人のメルヘン。
三階に帽子が、二階にきゅうりが、一階に数字の2が住んでいる石造りの古びたアパート、ホテル カクタス。三人の、おかしくてすこし哀しい日々を描く、詩情あふれる大人のメルヘン。挿画多数。
感想・レビュー・書評
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帽子ときゅうりは「もの」だけど、2って「もの」なの…?
数字に手足が生えたようなものを想像してしまって、読んでいる最中の脳内がシュールだった。
でも確かに概念として面白いし、性格の特徴も納得。
童話チックで、詩的で素敵な表現は江國さんらしく多い。じっくり咀嚼するように読んだ。
童話らしく教訓めいた話もあったが、子どもに理解するのは難しそうだなと思う。今出会えてよかった。
"ときどき「ちゃぽん」とか「ごぼ」とか、地面が水をはき出すみたいな音がしますから、地面も、もう水を飲み飽きているに違いありません。"
↑の表現とかどうやって思いつくのか…
素敵すぎてしばし読み止まった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
良いですね。真似をして私はピアノとハンガーと音のファで書こうかしら。
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空気がぴんとした冬の朝でした。それは体の手入れをするのにうってつけの空模様でしたので、ピアノは力を込めて乾いた布で体を磨き上げていました。きゅっきゅ、きゅっきゅ。しんとした部屋に小さな音が鳴り響きます。
洗濯日和だ。窓の外の水色を眺めながらハンガーはぼうっと考えていました。散歩でも朝ごはんでも、何をするにもさぞかし気持ちのいい朝だろうと思うのに、ハンガーは自分が起き上がる気にはならないことを知っていました。それでそのまま空を眺めていました。
音のファは電話機の前でじっと電話がくるのを待っていました。特に誰かからかかってくる予定があるわけではありません。ただ電話というのはいつも突然鳴るもので、音のファはそれがひどく苦手でした。それで、ある時待っていればいいのだと思いついたのです。鳴るのを待っていれば、ベルの音に驚かされることはないのですから。音のファは今朝はかれこれ1時間も膝を抱えてじっとしていました。
ファからこの話を聞いた時、ピアノは驚いた顔をして、それからファに同情してくれました。なんなら、ファにかかってくる電話は全て自分の部屋につながるようにしようとも申し出てくれました。ファはその申し出にひどく痛み入りましたが、丁寧に辞退しました。ピアノから電話があったことを受ける電話を、結局とらなくてはいけないことに気が付いたからです。
そばで聞いていたハンガーは、電話線を引っこ抜いちまえばいい、とあっさり言い放ち、ファはそんなハンガーに憧れました。
3人それぞれに時間が過ぎる冬の朝のことでした。
✳︎はじまり
ファとハンガーが初めてピアノの部屋を訪れたのは雨が降り頻る梅雨の夜のことでした。
その日ファは自分がどうにもしっくりきていないように思えてなりませんでした。自分は本当に音のファだろうか。もしかしたらそう思い込んでいるだけで実際はそうでないかもしれない。一旦不安になるとファは中々気持ちを落ち着けることができないたちでしたので、一日中そわそわとし、耐えられなくなりピアノの部屋を訪ねていったのです。
ピアノとは顔を合わせれば挨拶をする仲でしたし、ひと目見た時から互いに相手を好ましく思っていました。なんと言ったってピアノと音のファですから、気が合うに違いないのです。それでピアノは、よかったらいつでも部屋に来てください、と顔を合わせるたびにファを誘っていました。ファもぜひそうしたかったのですが、何も用がないのに人を訪ねるなんてことは出来ませんでしたので、ぜひ喜んで、と答えるに留まっていました。
ピアノの部屋の前に立ち、玄関の横の小窓から光がもれていることを確かめると、ファはほっとしました。いくらなんでも人が寝ている時に訪ねていくわけにはいきません。
呼び鈴を鳴らして出てきたピアノがとても嬉しそうでしたので、ファは心の底からほっとしました。
「さあどうぞ。」ピアノはファを部屋に招き入れました。「いつ来てくれるかとずっとお待ちしていたんですよ。お茶は好きですか。」ファはもちろん、と答え、差し出された椅子に腰掛けました。
ピアノの部屋は何もかもがこげ茶色でしっくりきていました。ザアザアと雨が降っているのに窓は開けてありました。
「雨の音を聞くのが好きなんです。」お茶がなみなみと注がれたカップを手渡しながらピアノは言いました。2人は雨音に耳を傾けながらゆっくりとお茶をすすりました。
ハンガーがピアノの部屋の呼び鈴を鳴らしたのはファとピアノが互いの仕事について質問をしあっている時でした。ピアノがドアを開けると、ハンガーは困った顔をしてそこに立っていました。
「すみません。」と困惑したようにハンガーは言いました。「急にこんなことをお願いするのは心苦しいのですが、バケツをお持ちではありませんか。」
ピアノはすぐに部屋にとって返し、木の持ち手がついたそれを差し出しました。ハンガーはホッとしたようでした。
「雨漏りがするんです。」ハンガーはバケツを受け取りながらそう言いました。「鍋もコップもすぐいっぱいになってしまって。」それは大変、とファも部屋の奥から身を乗り出しました。「よかったら、たらいをお貸ししましょうか。豚を丸ごと洗えるくらい大きなやつです。」
ピアノとファはたらいや新聞紙を抱えすぐさまハンガーの部屋に行き、雨漏りを一時的に修復しました。
「月曜日になったら大家さんに相談します。」ハンガーはとても安心したようでした。「どうもありがとう。」ピアノとファは何かあったらすぐ自分たちの部屋に来るようにと言い、それぞれの部屋に帰って行きました。
雨は絶え間なく降り続いていましたが、その夜3人はとても心安らかに眠りに落ちたのでした。
こういうわけで、3人は友達になったのです。
✳︎散歩
物憂げなサックスの音色が部屋を満たしていましたので、ハンガーはもうすっかり日が落ちたことにも気がつきませんでした。ノックの音がしてファが訪ねてきたことに気づき、そういえば今日は木曜日だった、と思い出しました。木曜日は3人が夜の散歩に出る日です。ドアを開け顔を出すとファは安心したように笑みを浮かべました。
2人でピアノを呼び出しに行って、3人揃うとアパートの敷地を抜け出しました。木々の間に埋もれる街灯の光は寂しげですが、確かにそこにある、という感じがして目にするだけで心強いものでした。
散歩は誰かと一緒にしたほうが絶対にいい、というのが3人が見つけ出した結論でした。初めて3人で散歩に出た時、それは夏の始まりの涼やかな夜だったのですが、3人はすぐ意気投合し、散歩をするときはお互いを誘うことを誓い合ったのです。
散歩はすぐに3人の生活に定着しました。外に出るというのはそれだけで新鮮な気持ちがするものですし、誰かと一緒なら夜の街も怖くありませんでしたから。
「週末はきっと嵐が来るな。」ピアノがそう言い出したのでファはぎょっとしました。「嵐が?こんなにいい天気が続いているのに?」そうさ、とこともなげにピアノは返しました。「嵐ってのはたいてい思わぬ時に来るもんさ。」
それもそうかもしれない、とハンガーは考えていました。嵐がくる、と思うとワクワクするような心持ちになりました。
「ベランダの植木たちを部屋にしまわなくては。」ファがおろおろしながら言いました。「自転車も木にくくりつけないといけない。食べ物もたっぷり買っておかないと。」
「酒がほしいな。」ピアノはのんびりと呟きます。「嵐の夜にはどうしたって酒がいるんだ。」
「それじゃあ、明日は買い出しに出かけましょう。」ハンガーがそう言うとファは嬉しそうに、ピアノは満足げに賛同しました。夜の道はしんとしてどこまでも続くようでした。
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真似っこ。敬愛をこめた模倣、オマージュのつもりです。 -
『帽子』『きゅうり』『数字の2』
3人の生活と交流を描く、童話のような優しい話。
何年後かに、もっとゆったりとした生活になったら、また読みたくなるのかも。 -
登場人物(人物でいいのか?)にびっくり。
タイトルと表紙だけで購入していたので、数字の2にきゅうりに帽子が出てきた瞬間びっくりした同時に癒された。
他の方のレビューにもあった通り、大人の絵本。
今の私にはあまり響かなかったけれど、読む時期年齢が変われば感じ方も変わると思った。 -
街のはずれにある石造りの古くくたびれたアパート。
そこには帽子ときゅうりと数字の〝2〟が住んでおりました。
3人はとても仲が良く、しばしばきゅうりの部屋で夜を過ごします。
しかし、3人は初めから今のように仲が良かったわけではありません。
大雑把でギャンブルとウイスキーが大好きな帽子、おおらかで家族想いで筋肉バカなきゅうり、少し神経質で怒りっぽい真面目な〝2〟
それぞれ性格の違う彼らの物語。
人と人が出会い打ち解けてゆくのに大きな理由はない。
それでも私たちには好きとか嫌いとかいうものがあって、仲良くなったりならなかったりする。
帽子「人にはそれぞれ事情があるな」
大きな出来事はない。
そこにあるのは人生の機微。
自分とは違う価値観や考えに驚いたり感心し、時に反発もするけれど、互いを認め合いながら育まれる友情。
旅行、ギャンブル、どんちゃん騒ぎ。
そして別れ…。
帽子「世の中に、不変なるものはないんだ」
それでも私たちは出会いと別れを繰り返しながら生きている。
数えきれない出会いの中で〝友達〟と呼べる出会いがあったことを当たり前と思って生きている。
変わりゆく日々の中で、疎遠になったり遠く離れてしまっても変わらないことを当たり前だと思って生きている。
彼らの愉快でちょっぴり切ない物語に寄り添いながら、自身の友達に感謝したくなる一冊。
あなたに会えて良かった
今年の26冊目
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ホテルを題材にした作品は、小説に限らず好きなのですが、これはホテルではなく、アパートの話でした。
性格も趣味も違う3人(?)、帽子ときゅうりと数字の2が友達になるお話。
お互いを羨ましく思ったり、変だと思ったり…。
何だかもの哀しい感じがするのは、挿絵のせいかもしれません。人気のない螺旋階段。
でも、物語は、はじまりがあれば、終わりもあります。別れがくれば、出会いを懐かしく想うものです。
こういう雰囲気、結構好きです。 -
感じ方が違ってもあえて口に出さなかったり、たまにモヤっとしたり、でも息苦しさは全くなくて。なんてことない日常がかけがえのないものだと思えるような、少し切なくもあるけど温かいお話だった。
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読み始めてすぐに、一気に大好きになってしまった本。好きにならないわけがない。
2や帽子やきゅうりを語る言葉の妙な真面目さに何度も笑わされて、心の中が、切なく温かく、何度も癒されて。
「どうか終わらないで」と思ってしまいました。永遠に続いてほしい、あたたかくて哀しくもある小さな日常。
読み終わった時、なぜだか泣いていました。
小さな宝物のような本です。 -
昔幼い頃に江國さんの小説をよく読んでいた時期を思い出し、このアプリ内で見かけたこの本を前情報なしに手に取りました。
…ので、冒頭の帽子ときゅうりと数字の2が出てきてとても驚きました(笑)
『擬人化的なものかな…?』と思いきや、きゅうりの果肉の様子や帽子を被る描写があり、『あ、言葉の意味そのまま帽子やきゅうりや数字の2なのね…』と二度驚きもしました。
単調になりやすいので普通は語尾が重複するのはよく避けられますが、今回は絵本的・メルヘンチックな雰囲気に合っていて、なおかつ飽きさせないのは流石江國さんだなと思いました。
詩的な表現とどこか現実的な表現が独特にミックスされていて、江國さんの小説はどこかで江國さんの別の小説と世界が繋がってる感じがして好きです。
解説のように、江國さんは魅力的な「もの」を語り「ひと」と「ひと」とをつなぐ描き方が素敵な作家さんなので、この登場人物自体が「もの」であるのもある意味納得かもしれません。
帽子の「音楽は、個人的なものだな」というセリフが出てくる話が印象的でした。 -
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1番好きと言ってもいいくらい、大好きな作品!!!
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数字の2と、きゅうりと、帽子。
ホテルカクタスで出会い、そして、またそれぞれの場所へ。
不変的なものは何もない、普遍的なものも。 -
宮沢賢治のメルヘンチックな大人の童話の世界に紛れ込んでしまった様な良い気分になった
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「ホテルカクタス」という風変わりな名前のアパートに住む、三人(?)の友情のお話。住んでいるのは帽子、きゅうり、数字の2。見事に趣味も性格もみんなバラバラ。それでも、彼らはお互いの価値観を尊重しながら毎日楽しく暮らしている。
「登場人物が人間以外のものって読み進められるかな…」と不安に思っていたのに、読み終えてみれば帽子もきゅうりも数字の2も、昔からの知り合いのように親しみを覚えている。あたたかくて、ちょっとだけ寂しくなって、三人の友情が羨ましくなる。
友情は居場所を生み、居場所は思い出を生む。
世の中は諸行無常だけれど、思い出はいつだって変わらぬあの場所に連れて行ってくれるから、今日も安心して変わってゆけるのだろう。 -
再読。
知人に、「私におすすめの本は?」と尋ねて返ってきたもの。
大人の絵本。
3人(人でいいのか?!)のキャラがそれぞれいい。
誰か一人じゃだめで、3人いるからいい。
静かに、寝る前に、少しずつ読み進めた。
すばらしいときは
やがて去りゆき
いまは別れを 惜しみながら
ともに過ごした 喜びを
いつまでもいつまでも
忘れずに
中学でうたった合唱の曲を唐突に思い出した。
別れはやっぱりさみしい。 -
とても優しい気持ちになれるお話だった。作中では擬人化されている帽子、数字の2、きゅうりはそれぞれ"個性"や"性格"の象徴であると思えた。人生や生活とは人と人とが関わり合うことに目を向けがちだけれども、この本の中ではそのもっと手前に"個性"の認め合いが存在することをよりわかりやすく描かれていた。登場人物たちは性格はもちろん姿形まで異なったまったく別の存在だからこそ、人間の物語とはまた違う受け止め方ができた気がする。とても素敵な気持ちでいっぱいになれた。
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2に感情移入しちゃうなあ
彼らの距離感の変化が口調に現れてるのが好き
00年代初頭の雰囲気も相まって、不思議な郷愁を抱いてしまいました -
久しぶりに読んだけど、やっぱり好き。
初めて読んだときは「数字の2?」と、ちょっと戸惑ったけど、今回はもう受け入れてた。
挿画も好き。 -
『ホテル』とついたアパートに暮らす
3人の若者。
すでに登場人物の時点で不思議世界です。
メルヘンなのか童話なのか、という感じですが
彼らがやってることは、普通の日常と変わりなく。
のんびりだらっとした日々が綴られています。
若干の変動がある、ただの日常なので
淡々と始まって終わっていきます。
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