山背郷 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087477641

感想・レビュー・書評

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  • 熊谷達也『山背郷』(集英社文庫、2002年)は東北地方のマタギや漁師、川船乗り、潜水夫らを描いた短編小説集。山背は東北地方で春から夏に吹く冷たい東よりの風を指す。この山背が吹く厳しい自然の中で暮らす人々を描く。
    「川崎船」は戦後すぐの青森県下北郡脇野沢村のタラ漁村を描く。タラ漁の場所取りは迫力がある。集英社文庫編集部編『短編工場』(集英社、2012年)にも収録された。
    川崎船は沖合漁業に利用した比較的大型の漁船である。江戸時代から使われている。蟹工船に付属する発動機付小型漁船も川崎船と呼ぶが、それとは異なる。後者の川崎船は小林多喜二『蟹工船』にも登場する。そこから「川崎船」も『蟹工船』のような話と先入観を持つかもしれないが、異なる。
    主人公の少年は漁船の機械化を目論むが、昔気質の父親に拒否される。頭の固い父親と思っていたが、鮮やかなどんでん返しになった。父親への疑惑、漁師として一人前になること、ライバルとの対立、恋の成就などが物語の主軸になるかと思いきや、見事に裏切られた。しかも、全体に予想できないオチではなく、きちんと前もって結末の可能性は語られていた。無骨な人々の物語であるが、小説の書き方として洗練されている。
    村の中の人間関係の確執はもっと根深い話になると思ったが、尾を引かずにサッパリしている。厳しい自然の中で生きる人々は、そのようなものだろうか。しかし、これは小説の主題ではなかったということで、現実の昭和の村社会は陰湿なところがあるだろう。
    父親と息子の対立は大塚家具など同族企業の経営方針の対立に重なる。息子は先を見ているように見えるが、直近の目の前のことしか見ていなかった。父親の方が先の先を見ていた。借金して過大な設備投資をしたが、好景気が続かず、借金だらけになり、借金を返すために事業を続けるような事業者は日本に多い。

  • 短編集。昭和20年代の東北を舞台に、山だ海だの自然の中で生きる人々の営為。家族愛を描く作品多し。

    抒情的な少年時代の回想「メリイ」
    ホラー味の「モウレン船」
    直球勝負でイイ話の「川崎船」

    自分が読んだ作家との比較で言うと、ジャック・ロンドンを思い出す(特に「旅マタギ」とか)。

  • 熊谷達也ぽさ100%のナイスな短編集。熊撃ちと船乗りとオオカミの話が多くて、どれもいちいち素晴らしい。一番好きなのは、メリイの話で、飼い犬との触れ合いの描写はとても良かった。

  • 3週間ほど前に熊谷達也の『邂逅の森』を,そして先週は『氷結の森』を読んだ。

    これらの本は,まだ読んでいない『相剋の森』と合わせて”森シリーズ”ということらしいのだが,『邂逅の森』は正真正銘の純文学だと感じた。

    けれど『氷結の森』の方はこりゃもう,どこからどう読んだってハードボイルドでございますがな。
    大沢せんせの鮫島が戦時中にいきなり出現したみたいだった。凄かったね。

    そして”シリーズ”というのはどうやら題名だけなのだろう,と正直思いました。

    でも,なんだか「マタギ」という言葉がこの森シリーズには関連しているらしのです。今はそれ以上は分かりませんが。

    で,この『山背郷』の感想はどうなったかというと,それは文庫本『山背
    郷』は・・・解説がむちゃ良いのです。

    それはなぜかと言うと。なんと,解説を書いているのが池上冬樹さんだからなのです。

    あたしゃ,池上さんのことは良く知らないし,著作も読んだことはないですが,池上さんってだけで,もうOKって感じですね。

    いやー,やれやれ。

    ♪東京のタクシーは今夜もまた,銀の川を飛んでゆく♪

    あ,いや,すまんこってす。すごすご。

    • ryoukentさん
      おけいさん。
      花丸ありがとう♪
      おけいさん。
      花丸ありがとう♪
      2012/06/12
  • 今までであればたぶん自分からはなかなか手を出さないジャンルの小説だったが、「幻の漂白民・サンカ」を読んでいてその話をM浦さんにしたら、「ちょうどこんなのを読んでいるよ」と言って貸してくれた。

    タイトルからしてもう少し山の民や生活によっているかと思ったが、実際には「旅マタギ」「御犬殿」「皆白」以外はどちらかというと海や川といった水周りを舞台とした作品だった。「潜りさま」「旅マタギ」「御犬殿」「ひらた船」がよかったかな。もう少し民俗学的なところに寄っていてくれると個人的にはもっとおもしろかったんだけどな。

    解説を読むとだいたいの作品が昭和20年代の東北を舞台にしているとのことで、ふと、そういえばM浦さんも秋田出身だったなと思い出した。サンカではないが、戦後という激動の時代の中でマタギのような山の民がどう変わっていったのかという小説が読みたいなあ。「邂逅の森」か「相克の森」どちらかの長編を読んでみたい。

  • 東北を舞台にした珠玉の作品集。どの短編も日々の暮らしを必死に生き抜こうとする人々への筆者の深い愛情を感じさせる。

  • 昭和の東北を舞台にした短編集。

    「少しでも早く先を読み進めたい」とここまで思わせてくれた本は久しぶり。東北の田舎ではある意味当たり前だった”生活文化”を丹念に理解した上で、そんな生活者の一人である登場人物の想いを、派手ではないが丁寧な話の流れで描き、ほっこりとした感動短編や、ちょっと切ない短編として仕上げている。

    「想いはあっても、あまりそれを表に出したがらない」東北の人によく見られる考え方も含め、東北出身のこの作者でないと描けない素朴でいて情動的な人物描写が秀逸。そんな人物が丁寧な時代考証・文化考証に裏打ちされた物語の中で、じわじわと躍動する。

    堵殺行為も行うマタギ生活者や、川船輸送生活者など西日本ではやや扱いにくい生活者の姿や生活感が、東北ではまた違った形で捉えられている。文献では少し知っていたこととはいえ、それを物語という形でこうも活き活きと理解出来るとは思ってもいなかった。
    「作者のすごさ」と「物語のすごさ」、それを両方感じられた一作。

    NHKラジオ文芸館で「モウレン船」の朗読が2017年9月16日に放送。

  • (01)
    9つの短編からなるが、近代東北の群像劇(*02)の様にも読める。人生のある瞬間というだけではなく、一人の一生や、数代にわたる因縁も綴られ、必然的に戦前戦中戦後の東北の生活が現れる。特に山に生態する狼や熊という動物や、漁業や運送に駆使された船が題材となって、現代では省みられなくなった習俗(*03)などにも焦点を当てている。

    (02)
    オチを知らないものにとっては、これらの短編がバッドエンドに終るのか、ハッピーエンドに終るのか、あるいはその間に宙吊りにされるのかを楽しむことができる。どちらかと言えば、「旅マタギ」や「モウレン船」などの唐突な終結が出色であるが、「艜船」のハラハラさせる展開と様相が最も出来がよいと思う。

    (03)
    近代マタギの分類、海上での漁法や操船術、漁村の人々の営み、北上川の舟運などは、調査とまとめが行き届いており、ストーリーとは別に読み応えのある生活誌となっている。東北地方ならではの鉱山に関わるエピソードも興味深い。

  • 邂逅の森がとても良かったので、手に取った。良いのだけど、やはりこの方の本は長編で読みたい。途中まで。

  • 東北という地の厳しさ、優しさ。同じ日本でもその地域の空気感はまるで違う。各編様々な物語であるが、全体を通して人間の思いの強さを感じさせてくれる。

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著者プロフィール

1958年仙台市生まれ。東京電機大学理工学部卒業。97年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2000年に『漂泊の牙』で第19回新田次郎文学賞、04年に『邂逅の森』で第17回山本周五郎賞、第131回直木賞を受賞。宮城県気仙沼市がモデルの架空の町を舞台とする「仙河海サーガ」シリーズのほか、青春小説から歴史小説まで、幅広い作品に挑戦し続けている。近著に『我は景祐』『無刑人 芦東山』、エッセイ集『いつもの明日』などがある。

「2022年 『孤立宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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