エミリー (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478181

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    ふと「コルセット」を読みたくなって。
    自殺に失敗して、二度と死のうという気持ちが湧かなくなる、あのシーンがどうしても読みたくなって。
    これを初めて読んだのはたしか中学生のときで、「僕」と「君」のやり取りにイライラしたんだけど、今読んでみると思ってたほどじゃなかった。しかしやっぱり「僕」との関係が彼にバレた時の「君」の対応はあまりにも酷すぎて失笑を禁じ得ない。


    「同じ孤独を持つ者同士は、こうして互いを知らず知らずに呼び寄せるものなのでしょうか。」(本文80頁)

    惹かれ合う孤独な二人、みたいな話をこの人はよく書く。それを書かせたらこの人に勝る者はいないかもしれない。
    実際わたしは「コルセット」も「エミリー」もあまり好きではないんだけれど、
    「この残酷な世界に生み落とされたのは、きっと貴方に出逢う為だったのですよね。」(本文214頁)
    この一文だけはどれよりも秀逸な気がした。


    人の名前があまり出てこないのも心地いいよね。

  • 天使のように微笑む君に声をかけることが出来たのは、僕が死ぬ前の人生最高の贅沢でした。どんな美しく洒落たブランドの御洋服より、愛おしく壊れやすく貴重な君との日々だ。
    背伸びをし、憧憬だけで手に入れた美しさは、鏡に映る本来の姿を引き立たせ、夢見がちだった自分と共に、そっと箪笥に仕舞い込みました。それでも私は手放すことが出来ず、自分の弱さに着込みぎゅうぎゅうに締め付けるコルセットの如く、愛してしまったのです。
    白い閃光。コルセットが僕を締め付ける。堕ちる。落ちる。朽ちて枯れ果てる。平凡でも退屈でも良かったのだ。ただ、孤独だったことに気付き、君の存在を感じ、締め付けていたそれを脱ぎ捨てたら30年分の涙が頬を濡らした。

    そのお洋服に身を包み、ラフォーレ原宿前で座り込むお人形。Emily Temple Cuteだけが私を生かす支えであり、世の中の穢れを遮断してくれる美しきものでした。どれほど残虐な行為も、Emily Temple Cuteが忘れさせてくれます。彼女の強さの秘訣も全て、エミリーという居場所があるからでしょう。しかしいつしか、SUPER LOVERSに身を包み同じく闇を抱えた少年こそが、彼女の居場所となり強くいられる御守りになっていました。彼等はいつしか自然と離れていく時期が来るような気がします。新たな出会いがあり、お互い好きなブランドのお洋服を卒業する時が来るのかもしれません。でも初めて闇を分かち合い、暴れ狂うほど掻き乱し、心を涙を番った大切な記憶は永遠のものでしょう。

  • ゲイの男性とノーマルな(しかし男性恐怖症だったりもう男ウンザリだったりな)女性が結婚するのって、私はとてもありだと思っていて、人としての相性がよければ、とても穏やかで、理想的なパートナーだとさえ思っている。表題作はそんな穏やかな関係が始まるといいなと期待させてくれる作品でした。

  • 『ミシン』でどっぷりその世界観に浸かった私。流れるようにこの本を手に取りました。『ミシン』よりも若干毒が強めですが、とてもいいアクセントにもなっていたと思います。やはり嶽本野ばらさん、お耽美でお美しい……
    以下、拙い感想です。(かなり長いです)


    『レディメイド』

    文章は短いながらも、嶽本野ばらワールドへの入場にはぴったり。希望を持たせる終わり方と二人の関係の行方……憧憬の世界であります。


    『コルセット』

    世の中の皆は重たいコルセットをつけて生きている……。そんなふうに「生きづらい世の中」を表現し、明日こそは死ぬ──と無聊を慰める日々を送るイラストレーターの「僕」と、意味の無い笑顔を振りまく「私」の歪んだ、それでいて儚い恋愛物語。

    この話に出てくる「私」のように、生きることに迷っている(とでも言うのでしょうか)姿には共感できる部分も多く、男性版ファムファタールの「僕」に婚約者を置いておいてでも逢いたい、交わりたいといった感情には少なからず私も至ったことがあります。羨ましい……。

    読み始めは、死ぬ死ぬ言っている主人公の「僕」が運命の人と出逢って死ぬ事を止めるのかなーなんて浅いこと思ってましたけど、終わり方はハッピーエンドでこそあれ、何か蟠りが残るような、想像していたのとは違った、儚い終わり方だったようにも思えます。

    なんか支離滅裂ですが、まとめると、すごい作品です(笑)


    『エミリー』

    我が乙女を貫け!

    表題作にして私が1番好きになった作品。『レディメイド』『コルセット』と読んできて現れる衝撃としか言えない作品……!! くるくるシイタケはトラウマもんやろ…。

    とまあ、シイタケは置いておいて、今作は特に主要キャラクターの不憫さが目立ったような気がします。居場所がなく、ロリータファッションに生きる「私」と、男性にしか興奮しない「貴方」の「永遠」に終わる恋愛物語。胸糞度高め、毒もモリモリって感じでしたが、2人の姿がこれまた逞しくて、強くて、耽美で……流石嶽本野ばら先生! 感涙でございまする。

    さて、感想を書くにあたって、特に私が印象を受けたことを書き残しておこうと思います。

    ──それは、主人公「私」のロリータファッションに対する気持ち、というか考え方です。

    彼女はロリータファッション愛しますが、それは決して、自分に自信を持たせる為だとか、ロリータファッションに身を包む自分に酔うためだとか、この現実への逃避でも、抗いでも、はたまたファッションですらないのです。彼女はたとえ学校で苛められても、Emily Temple Cuteの服を着れば大丈夫だという趣旨を述べている一方で、学校から逃げ帰って来た日は、大切なお洋服を逃げ場にしてはならない、これでは自分が駄目になる、と言った考えをしています。この後「貴方」は「君は何時からそんなに強くなったんだい」と驚きますが、読者の私も驚いたし、感動したシーンでした。このやり取りで、彼女がいかに美しい乙女心を持った少女なのかが窺えると思います。そしてそれは、この『エミリー』において、一番伝えたいことではないのかと思うのです。つまりはこういうことなのです。

    他人の偏見にかまうな。自分の美意識を貫け。自分らしい乙女になれ。

    ……ですが最後のホテルの場面で彼女は、何時しか自分はEmily Temple Cuteを卒業するだろう、と考えます。ですが、それでもいいのです。二人の番いの時間は必ず戻ってくるのです。ずっと待ってくれているのです。

    我が乙女を貫け!
    私の価値観を大きく変えてくれる、素晴らしい作品でした。


    『まとめ』
    めちゃめちゃ長くなりましたが、本当に素晴らしい作品たちでした!嶽本野ばら先生、本当に尊敬します!

  • 空白をどうにか埋めることに必死な男女関係に飽き飽きとしていた。認められたい気持ちを埋め合うために、身を寄せ合うのだと感じて、恋愛は人間強度の弱いときに嗜むものだとまで考えていた。しかし、それは、エミリーを読んで変わった。心が奥底まで通じ合っても、性的趣向が違い肝心のインサートができない。それは、絶望ではなく、心と体温のみで孤独を孤独のまま受け入れる行為だとかんじて、あまりの、美しさに涙した。
    服や芸術に熱狂していると、少数派になることが多く、数奇な眼差しを向けられるが、これを読むと本当の乙女心が分かるし、ファッションは、気高く孤高の心のあり方であると再認識させられる。服に着られるようではいけない。

    スーパーラバーから、アンダーカバーに移行したあの先輩の揺らぎを、服で表現するのは秀逸すぎた

  • とても過激な三つの愛の物語。毒薬のような文章なのに、苦しい苦しいと言いながらつい飲み干しては、うっとりしてしまう、そんな作品でした。

  • お洋服やアートへの愛がひしひしと伝わってきます。
    milk、エミリーテンプルキュート…私も大好きですよ!

  • 野ばらさんが売り出され始めた頃(かなり昔)は敷居が高い作家のような印象を感じていましたが、今更読んでみたらポップな青春小説でした。いじめの描写などはしんどいですが。
    この方、付き合い始め位迄のもどかしい恋愛を書くことが大好きなんですね。その辺りの嗜好もラノベ的。読みやすくて好ましいです。

  • 野ばら作品を読んでると
    不意に物が飛んできて
    当たったような衝撃をうける
    あれ?今回は無いかなと油断してたら
    出てきたよ…シイタケ 笑

    大切な人や物や場所があると
    強くなれるんだ な
    同じじゃなくてもいいんだ
    自分にとって 強くなれるお話でした

  • 誰もが経験する童話。でも、大人になれば宝物のような記憶も感触も全部忘れちゃう。だけど、今の幸せな時間はここに存在してる。儚いものほど愛おしい。

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著者プロフィール

文 嶽本 野ばら
京都府宇治市出身。作家。
1998 年エッセイ集『それいぬ̶ 正しい乙女になるために』(国書刊行会)を上梓。
2000 年『ミシン』(小学館)で小説家デビュー。
2003 年発表の『下妻物語』が翌年、中島哲也監督で映画化され世界的にヒット。
『エミリー』(集英社)『ロリヰタ。』(新潮社)は三島由紀夫賞候補作。
他の作品に『鱗姫』、『ハピネス』(共に小学館)、『十四歳の遠距離恋愛』(集英社)
『純潔』(新潮社)など。『吉屋信子乙女小説コレクション』(国書刊行会)の監修、
高橋真琴と共書絵本『うろこひめ』(主婦と生活社)を出版するなど少女小説、お姫様をテーマとした作品も多数。

「2021年 『お姫様と名建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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