ルール (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087478372

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  •  太平洋戦争末期、フィリピン・ルソン島を舞台にマラリア、滋養不足、そして飢餓に直面した一舞台の過酷すぎる行進を描いた戦争小説。

     戦争小説となると今一番に話題に挙がるのは『永遠の0』だと思います。永遠の0もとても完成度が高くいい小説でしたが、それを読んで感動した人にこんな戦争小説もあるんだよ、ということを教えてあげたくなる小説です。

     というのも、この小説で出てくる兵士たちというのは、マラリアを患いつつも満足な薬が与えられないどころか、カナブンや自分の身体にまとわりつくヒルですら食べてなんとか飢えをしのいでいるのです。

     そして彼らの絶望はそれだけにとどまりません。彼らがフィリピンで飢えに苦しんでいるころには、既に日本は沖縄戦もほとんど終わった後。すでに勝ち目がないと分かりきった戦争のために彼らは地獄で飢え続けなければならないのです。そしてなによりやり切れないのが兵士たち自身がそのことをすでに知っていることです。

     日本を守るため、という大義も失われ、せめて敵と戦って死にたい、と思いつつも実際には飢えと病死、そして日本兵同士で殺し合う事態にもおかれます。その理由もあまりにも悲惨で、兵士たちは肉体的にも精神的にも一つの臨界点を迎えます。

     その臨界点の先で生まれたルールとは何なのか。人が人でなくなってしまう戦争で、それでも人であり続けようとした兵士たちの姿というものがこの小説には描かれていると思います。それこそが永遠の0を読んだ人にこういう戦争小説もあるんだよ、と教えたくなった理由です。

     良くも悪くもドラマチックに描かれがちな戦争の中での兵士と死の姿ですが、その姿には栄光も名誉もないのだ、ということを再認識させられた本でした。

  • 戦争ものや自衛隊ものの小説も書いている古処誠二氏の戦争小説第一弾。
    飢餓の彷徨の末、ルールに生き、ルールに死んだ兵士たちの、人間としての強さと弱さを圧巻の筆致で描く。

  • たった70年前の話とは思えない。
    想像を絶する悲しい物語。
    薄めの文庫本だが読み応えあり。
    その悲惨さや哀しみは深い。

  • 戦時中の人肉食については大岡昇平の「野火」(創元社)が衝撃的でしたが、本書も第二次世界大戦中、フィリピンにおける日本兵による狂人的なカニバリズムの世界が描かれています。

    戦争中の南方戦線における飢餓の極限状況においては、人としての理性や道徳心は隠れてしまい、自ら生きるために人を食うことへの抵抗がなくなるという状態は、ぼくの想像を超えています。

    しかし注目すべき点は、本書の作者は完全なる戦後生まれでぼくと9歳しか違わないということです。

    戦争中の飢餓が徐々に極限的に追い込まれていく人の心理状態を描く想像力は凄いのですが、体験したこともないし想像もつかない世界をリアルだと感じさせる筆力には圧倒されました。

  • 極限状態で与えられたルールとは?
    それに対して、彼らはどう対処したのか?

    むしろルールそのものよりも、ルールを破らざるを得なかったその理由をあえて黙した兵士と、それを察して命がけで「言わない」名誉を守った戦友。

    正義が軽々しく口に上る昨今、自分で決断し、黙してその責任を引き受ける覚悟はどこにいったのか?

  • 【再読了】2023年8月8日

  • まさに一息で読ませる迫力。ドライな描写と、重いテーマがマッチ。新しいお気に入り作家を見つけた。

    希望が丘時代に通勤電車の中で覗き見して「何の小説だろう」と何年も心の片隅にあったものを見つけた。因縁の邂逅。

  • P314
    太平洋戦争末期、フィリピンにて小隊になった陸軍が餓えに耐え意味もなく行軍する物語。

  • 言葉にできない

  • 太平洋戦争末期にルソン島の飢えた日本兵達が縛られたルールとは…

    人が踏み外してはいけないルール。生か死かという選択に迫られた時、ルールを守ることが出来るのだろうか。余りにも悲惨な描写と次第に自分達が課したルールを破らざるを得なくなっていく過程に身震いした。

    現代作家の描いた『ひかりごけ』ともいうべき人間の禁忌に迫った傑作。

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著者プロフィール

1970年福岡県生まれ。2000年4月『UNKNOWN』でメフィスト賞でデビュー。2010年、第3回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。17年『いくさの底』で第71回「毎日出版文化賞」、翌年同作で第71回「日本推理作家協会賞(長編部門)」を受賞。著書に『ルール』『七月七日』『中尉』『生き残り』などがある。

「2020年 『いくさの底』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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