無伴奏 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 488
感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087482126

作品紹介・あらすじ

学園紛争、デモ、フォーク反戦集会。1960年代、杜の都・仙台。荘厳なバロック音楽の流れる喫茶店で出会い、恋に落ちた野間響子・17歳と堂本渉・21歳。多感で不良っぽい女子高生と男からも女からも愛されるような不思議な雰囲気の大学生の危険で美しい恋。激しい恋をひっそりと見守る渉の特別な友人、関裕之介。三人の微妙な関係が引き起こす忌まわしい事件はやがて20年後の愛も引き裂いていく。

感想・レビュー・書評

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  • 小説自体は25年くらい前のもので、舞台は1960年代後半の仙台。学園紛争やデモなどが激しかった時代の、ひとつの恋とミステリー。
    高校生の響子と大学生の渉。そして渉の親友の祐之介と恋人のエマ。四人の想いが交錯して、ある事件が起きる。

    小池真理子さんの小説を読むのは思えば初めてで、どうして今まで手に取らなかったのか自分でも不思議。
    全編通して美しい。人間の醜さが表れる場面もあるのに、なぜか穢れを感じない。始めに事件を予感させる描写があり進んでいくせいもあるのか、常に死の匂いが漂っていて、どこか物悲しい。

    勝ち気な高校生・響子と暗い過去を背負った大学生・渉の恋と一時の出来事を、二十数年後の響子が振り返る形で描かれていて、結果を知ったあとに過去について語る形式だから悲運を予感させる言葉がそこかしこに散りばめられてあるのに、それが何であるのか全く予想がつかなかった。そしてその事件は、個人的には想像もしなかったものだった。
    背徳的、というのか。
    最後の三分の一はとくに、先が気になって一気に読んだ。

    映像化、向いてるかもしれない。
    映画を観るつもりはあまりなかったけど、ちょっと気になり始めている。

    ミステリの感想は難しいからそこそこに。笑
    また読みたい作家さんが増えちゃったなぁ…と、嬉しい悲鳴。
    無伴奏というタイトルなのに、しっとりしてて哀しい曲がバックでずっと流れているような物語。「悲愴」を流しながら読みたい。

  • この時代を生きてきてはないけど、体験できた気がした。若い頃のこういう恋愛の経験ってトラウマになりそうだけど人として成長もできそうだよなと思いました

  • 小池真理子さんの作品を読むのは、「愛するということ」「望みは何と訊かれたら」「恋」に続いて4作目。
    ああ、これも面白い。
    またもアノ時代なのです(というかこれは「恋」の前に書かれた作品で、「恋」につながっていく作品ということなのですね)。
    60年代後半。デモ、学生運動、ストーンズ、バッハ、ビージーズ、煙草、コーヒー、喫茶店。音楽は他にも色々。ラフマニノフとかも。
    チャイコフスキーも出てきます。チャイコフスキーは男色で「悲愴」はその悲しみを込めて作られたのだとか。
    「無伴奏」という喫茶店は本当に仙台にあったクラシック喫茶だそう。
    阿佐ヶ谷の「ヴィオロン」を思い出してしまった。筆談するところとか。
    小川洋子さんは「メロディアスライブラリー」で、「カノン」と書いた文字が滲んだところが、この先の展開を暗示させるとおっしゃっていました。

    舞台は仙台。主人公の野間響子は、小池さん自身あとがきで書いているように、小池さん自身がモデルです。

    渉と響子、裕之介とエマ。
    渉を愛し始めた響子。しかし渉には大きな秘密があった……
    「恋」で兄と妹という禁断の関係が描かれていましたが、この作品では男同士の愛が描かれています(といってもそれほど詳細に愛し合う様子が描かれるわけではない)。

    この先に何かが起こるぞ、何かあるぞ、と思わせる部分が、もっとも読み応えのある小説。滲んだ文字といい、不吉な予兆?が随所にちりばめられているのですね。

    いざ、隠されていた事実が明らかになってからは、ああやっぱり…と思わされます。読めました。この関係は。

    こんなに壮絶な経験を経ながら、普通に結婚して日常を営んでいる主人公……というのは「望みは何と…」もそうだし、「恋」もそうだなあ。

    小池文学はホント読み始めると止まらない。

  • 響子の心から渉やエマや無伴奏で過ごした若かった日々は決して一生消えないだろう。しかし、20年経った後、無伴奏もなくなり町も変わり、祐之助も勢津子も新しい人生を歩み始めている・・・。そんな中、響子は一人十字架を心に背負いつつ生きていくのだろう。衝撃的なお話。「恋」とはまた違う、心を揺さぶられるものがある作品。(08年4月20−21日)

  • とても好きで、何度も読んでいるのに、いつも読み始めると呼吸が浅くなってしまう。あのシーンにたどり着くと、胸が締め付けられる。そして渉の手紙で泣いてしまう。
    この時代には生まれていないし、知らないのに、とても鮮やかに情景が見えるのは、やっぱり真理子さんの書く文書のが繊細だからだと思う。
    ここ数年の作品は好きになれないけれど、「恋」三部作は大好きです。

  • 恋3部作の第1作。第2部の「恋」を先に読んでしまった私にも充分楽しめた作品。
    70年代の若者の混沌を知っている私には、時代背景がスッと入って来てわかりやすかった。響子の心の描き方、渉の仕草や言葉遣いの描き方、私が小池作品を好む理由。
    恋を先に読んでしまいそちらのインパクトが強過ぎた故の評価となってしまった。星半分もあればいいのになぁ

  • 途中から一気読みした。なんと…。
    普段呑気にBLを読んでいる身からすると、何だか申し訳ないような気持ちになった。
    重いけど、読後感は軽い。面白かった。

  • ごくありきたりの物語。と言ってしまったら身もふたもないかな(殺人事件まで起こってるのだから)。結末も予想できてしまうし。
    作中の時代にノスタルジックな思いを抱けないと、主人公に共感はできない。
    ただ、語り口は良かった。滑らかで。

  • 本作は、作者の小池真理子氏が、1960年代に仙台のある女子校に転入し、自身とその時代を下敷きにして書いた物語である(あとがきより)。
    実は私の母が、その当時、モデルとなった女子校の生徒で、在学中の小池さんのこともよく覚えていた。ちなみに母は小池さんより2学年下で、学生運動が最も高揚していた時期に入学したという。
    作品と合わせると、主人公・野間響子が、制服廃止闘争委員会の委員長になったのが高2生で、母は中3。響子もこの時がいちばん『闘争』として、反戦デモやアジビラ刷りに加わり、その渦中にいたが、渉と祐之介、エマらとの出会いにより、運動から徐々に疎遠になっていく。
    高3生の頃には、予備校と学校をサボりながら、渉という若く美しい男性に惹かれ、ある意味、普通の少女として、恋に夢中になって日々を過ごすようになる。
    思春期と時代が、響子の何者かである、という自尊心を突き動かしたものの、恋に傾倒するにつれ、何者でもなかった自分を知る倦怠と虚しさ、くすぶった熱情が、余計に渉への恋慕として注がれるようになったのだ。
    響子の恋は、残念ながら成就してしまう。そして突然に喪われる。
    しかし、この恋を失う過程で、響子にとって、超えられなかったのは性差ではなく、祐之介という人間であり、膨れ上がる憎しみも怒りも、祐之介の「存在」に向かうのだ。
    だからこそ、響子は渉と祐之介の結びつき/セクシュアリティを、最後まで胸の裡に納めたのだろうし、20年後もきっかけはありながら、告白はしなかった。そうすることで、彼女はあの熱に浮かされ、唐突に途切れた青春を、過去にしたのだと思う。
    蛇足だが、小池さんの卒業から2年後、高3生になった母は生徒会長に就いて、卒業式では答辞を読んだ。学生運動盛んな時代、母の答辞は、事前に教師たちから「検閲」を受けたという。
    その青春時代から5年後、母は私を産むのだが、卒業式の写真の少女は、今も口をへの字にして、挑むように私を見ている。母が笑っていない写真は、このたった1枚だけである。
    【追記】
    映画『無伴奏』も、たいへん良かったです。原作を読んでからの鑑賞をおすすめします。

  • その時代を描いた作品。言葉遣いが丁寧だとやっぱり羨ましくなるんだよなあ。男性もそうだが、特に女性。
    しかしお互いから離れるために女の子と付き合う、それを見せつけ合うって完全にホモソーシャルだよな、つーかホモでしたね。それで妊娠した相手を殺すとか女を道具としかみてない感じがまるで好きになれなかった。自分たちがホモであることを否定したいために女の子巻き込むなや

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池真理子の作品

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