樽 乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(9) (乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10) (集英社文庫)

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (530ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087488371

感想・レビュー・書評

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  • 以前鮎川哲也さんの「黒いトランク」を読んだ時に、このクロフツの「樽」に似ていると言われたとの本人あとがきがあったのでずっと読んでみたかった。
    確かに似ているけれど、それぞれに違う魅力があったので両方読めて良かった。

    ロンドンの埠頭で汽船から荷おろしされた樽の一つが一部破損し、中から金貨が何枚も出て来て、更に奥には女性の手らしきものが見えた!というシーンから始まる。
    第一部は迷走する樽と荷受け人の行方が分かり、遂に樽から女性の死体が出てくるまでを、第二部は被害者の正体と犯人としてある人間が逮捕されるまで、そして第三部は事件の真相、トリックが明かされ事件が解決するまでを描く。

    事件の最大の謎は死体の入った樽の足取り。彫像を入れてパリを出発した樽が、ロンドンに着いて開けてみると死体と金貨が出てきた。調べていくと第二第三の樽が現れて、樽ごとどこかで入れ替わったと思われるのだが、そのからくりが分からない。
    もう一つは犯人と目される人物のアリバイ崩し。電車に船に、電話に手紙、そして偶然入った店の目撃者。様々な要素を積み上げて作り上げられたアリバイをどう崩すのか。

    1920年に出版された作品だけに、車はあるが樽のような大きな荷物を運ぶのは荷馬車、イギリスからフランスに渡るには船、勿論メールや携帯電話はなく電報や交換手を介した電話、もしくは手紙で、時代を感じる。
    様々な制約があるだけにトリックを作り上げるのも崩すのも難しい。だが一方で現代のように防犯カメラがあちこちにある訳ではないので、人の目を欺いたり逸らしたりするのも出来ないことはない。そこが古き良き時代の面白さか。

    樽の行方と容疑者の足取りに付いては文章だけでは分かりにくいので読みながらメモを書いて理解しようとしたが、何しろイギリスやフランスの駅名や地名がよく分からないので調べながらで戸惑った。出来ればイギリスとフランスの地図を入れて欲しかった。

    種明かしをされてみればよくぞここまでと思う入念なトリック。しかし相当に人と金と手間と行動力と知恵がないと出来ないし、偶然のチャンスにも頼っているところがいくつもあるのは気になった。
    またイギリス、フランス両方の捜査も遺漏なくとは行かず、大雑把な感じで終了し犯人逮捕というのもあんまりかな。現代なら検察側で起訴出来ないと判断しそうな気がする。
    さらに犯人の並々ならぬ執念、ここまでするのかというその犯罪の割には動機がちょっと弱い気がして、被害者も巻き込まれた人間たちも同情しか感じない。

    それでも二転三転する展開や終盤の探偵の活躍は面白く読めた。最終的にはアッサリと勧善懲悪に収まるところもこの時代の作品らしくて良い。

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著者プロフィール

フリーマン・ウィルス・クロフツ(Freeman Wills Crofts)
1879年6月1日 - 1957年4月11日
アイルランド生まれ、イギリスの推理作家。アルスター地方で育ち鉄道技師となったが、40歳で病を患い入院。療養しながら記した『樽』を出版社に送ったところ採用、1920年刊行。名声を博し、推理作家デビューとなる。50歳まで本業の技師を続けながら兼業作家を続けていたが、体調悪化で退職して作家専業に。その後、英国芸術学士院の会員にまで上り詰める。
本格推理作家として、S・S・ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カーと並んで極めて高い評価を受けている一人。代表作に前述の『樽』『ポンスン事件』、フレンチ警部シリーズ『フレンチ警部最大の事件』『スターヴェルの悲劇』『マギル卿最後の旅』『クロイドン発12時30分』 など。

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