海の匂い (集英社文庫 し 5-13)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087496260

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  • 9編からなる短編集。
    家の終わりは
    伯父の克衛を見舞った恭子は昔父親の易のこだわりで方向が悪いということで少しの期間この伯父の家にお世話になり、活気に満ちた漢方の店から息子は跡を継がず寂れた家に変貌を遂げた恭子の視線でこの夫婦の昔の生活が書かれている。家の終わり、代の終わり、廃れていくもの哀しい戦中戦後の話。

    異国の旅
    恭子夫婦が、北欧、ドイツそしてパリを旅する最後のパリでの話。従兄弟の娘がフランスにいるから様子を見てくれと頼まれて娘の生活ぶりの話を聞く。まだ日本に帰る気のない若者にエネルギッシュと従兄弟になんて言おうか悩むところで終わる。

    二つの蝶
    良人=おっとと同じ大学の助教授の紹介で真美子に会う。真美子は不倫をしていたがそれまでの経緯を恭子に話す。そして、自分を捨てた母を憎んでもいたが、やはり同じ国に来るのは会いたいのもあると、母を紹介する。
    後日真美子の母親を恭子は訪ね母親の真美子を捨てたのではなく、義理両親が許さなかったので地盤を固めてから引き取るつもりでいたと話す。
    長い年月を重ね出会い和解し、恭子は2人の人生を異国の地で聞く。

    本郷菊坂
    友達の家を訪ねに行く恭子はここが樋口一葉の住んでいた場所でそこに一葉の生き方に思いを馳せる。

    海の匂い
    仕事をしながら息子を育て、そして月に一度秋子の勤め先に来る人との逢瀬が生活の一部。
    その男性と鮨屋で食事中に息子とその友達に遭遇。
    男は食事が終わってもソワソワしているのに対し秋子は息子が大きくなって、友達の中の女性が好意を示しているなら親に鉢合わせは別れるきっかけになりはしないかと息子の心配。
    息子が小さい時を思い出しながら、帰路に着くと息子が玄関先にいる。
    日常を描いた作品。

    下町の空
    早くに妻を亡くし、孫までできた老父を心配しながらも好きにさせている兄妹。
    孫に愛人なのか愛しい人、芸者の家に行くのを見られ、孫と師弟として三味線を教える事になる。
    その愛しい人は妻に似ていて兄妹はなんとも言えない感情になる。
    老父が亡くなり、兄妹でその話で盛り上がる所で終わる。

    雪女、
    うるわしき5月、
    有明海
    全ての作品が男のどうしようもなさを描いている。
    昔も今もほとんど恋愛は同じで、感情も同じなんだと思う。
    しかも、携帯のない時代、でも全然不自由な暮らしでもない。
    今は固定電話よりすぐ繋がる携帯が多いけど、それに伴う不自由さがあるのかな❓❓

  • 戦後の香りがする。
    昔の女の人の生き辛さは今とは別の形で不自由だと思った。

  • 出かけるときに家から本を持って出るのを忘れて、途中の本屋で買った。
    表紙の絵がいいなぁと思って買った。久しぶりのジャケ買いである。

    片山廣子さんを読んだすぐ後だったので読みやすかった。
    しかも片山さんと同様(というか片山さんよりはるかに)芝木さんは死の匂いがする。

    芝木さんの作品は死の匂いだけでなく朽ちていくもの、滅びるものの世界を描いている。
    加えて強さと弱さと孤独。

    こう書くといかにも暗そうに聞こえるけれど、決して暗い重いというのではない。静かに、ひっそりと、そういう空気が流れている。

    朽ちていくものや滅びゆくもの、死や孤独、そういう題材は私自身が描く題材と共通しているので、とても読みやすかった。
    「家の終り」を読んでいる時などは創作意欲が湧いた。

    私は「家の終り」と「下町の空」と「有明海」がとくによかった。

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著者プロフィール

芝木好子(しばき・よしこ):1914-91年。戦後を代表する小説家の一人。生まれ育った東京下町への哀惜を託した文章で知られ、芸術と恋愛の相克に苦しむ女性の生き方を描いた小説に独自の境地を拓いた。芸術院会員。文化功労者。主な著書に、『青果の市』(1941年、芥川賞)、『湯葉』(1960年、女流文学者賞)、『夜の鶴』(1964年、小説新潮賞)、『青磁砧』(1972年、女流文学賞)、『隅田川暮色』(1984年、日本文学大賞)、『雪舞い』(1987年、毎日芸術賞)がある。

「2023年 『洲崎パラダイス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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