十八歳、海へ (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087503340

感想・レビュー・書評

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  • 秋幸三部作に見られるような神懸かった才能はまだ発出していない。しかし独特な文章表現や着眼点は天才の片鱗を感じさせる。「愛のような」で何処か既視感を覚え、そうだ、大江健三郎に似ているのだと思う。調べてみると少なからぬ影響を受けライバルと目されてもいたようだ。

    『枯木灘』のときと比べてプロットやレトリックの巧さは本作のほうが上かもしれない。但しさきの述べたように大江氏と類するところがあり、同土俵であれば文筆家としての軍配は大江氏に上がる。やはり中上健次の良さは「路地」でこそ生きると感じる。


  • 強い初期衝動を感じた。
    中期の完成されたごってり文体を既に読んでいたので、勢いや感傷が入りすぎた本作はうまくハマらなかったかもしれない。。

  • 「若い」の一言。衝動に溢れていて良くも悪くも「十八歳」の若さが全面に出ている。「十九歳の地図」でもそうだが、紀州サーガ系以外の作品だと時代性というか世代間ギャップや荒い部分・若者特有のエネルギーが鼻についてしまう…。もっと前に読んでいたらもう少しその衝動に共鳴出来たかもしれないが…今はそこまでノれない

    突然現れた謎の「ユビ」との生活と未来への不安を描いたカフカ的、或いは安部公房的な作風の「愛のような」を執筆していたのは少し意外。下地にはやはり若者特有のナルシズム、傲慢さがあるが…意外性は最もある。
    作品としては「眠りの日々」が最も良かったが紀州サーガの下書きとも言える。
    星2つに↑の意外性で1つプラス。中上健次ファンとして読んで楽しむ作品、という印象

  • 読み漏らしていた中上健次を補完してみる。こちらは初期の短編集。主人公はおもに十八~二十三歳くらいまでの若者。解説によると中上自身がその年齢の頃に同人誌(今コミケで売ってるようなのとは違うちゃんとしたやつ)で発表したものらしい。そのせいか感傷的な余韻のものが多かった気がする。「JAZZ」や「海へ」はほぼ散文詩。

    異色だったのは「愛のような」。右手首から先だけの<あいつ>、女性のものとおぼしき<ユビ>と同居している青年。恋人とは週に2回デートしているが、部屋に帰れば<ユビ>の愛撫が待ち受けている。もしこの<ユビ>が他人にみつかればバラバラ殺人犯として逮捕されるかも、とカフカ的恐怖に怯えたりしつつも、細やかな愛情表現をしてくれる<ユビ>との生活に満ち足りてもいる。オチはいまいちだけれど、シュールな手首だけの存在というのは面白かった。

    「眠りの日々」は設定がのちの路地もの、秋幸のシリーズなどと同じく主人公の生い立ちが中上自身の私小説的な設定になっており、ここから後期の作品へ発展していったのだなという萌芽がみられた。

    ※収録作品
    十八歳/JAZZ/隆男と美津子/愛のような/不満足/眠りの日々/海へ/解説:津島佑子

  • 日比谷図書館で借りる。
    最終ページに手書きで
    「6/15ぼくも今18歳 世界をもっと拡げたい」
    と書いてあった。
    「愛のような」「隆男と美津子」もいいが、やはり「海へ」だろう。

    俺と海、全てを無に還元する衝動が3月の雨の降る海、決して爽やかな風が吹き抜けるわけでは無い、どんより重たい鈍い海に溶け込んでしまう主人公。

    思わず二度と読んだが、意味を捉えようとはせず言葉の抑揚を愉しむ読み方をしたらええんやと思った。やはり中上健次はジャズが似合う。

  • 2015/05/09 読了

  • 見城徹の自伝かなんかに、「中上さんと出会って、ああ僕は表現者にはなれないなあとを思った」みたいな一節があったと思います。それはとても印象的で、私の心に深く残っている。なんとなく、分かるなあ、と。多分そういうものなんだろうなあ。私もそういう風に感じるんだろうなあ、と思わせるような、見城徹の表現だった気がする。中上健二がいかに表現者でいかに生きていたかっていう。これを読んで、いや、そうなんだよね、と改めて。世界はとても難しくて、若さはそれに耐えられなくて、なんというか、それは言葉にできません。できないから中上健二はこういうものを書いていたんだろう。体を内側からナイフで切り刻んでるみたいな小説だった。おとこのひとの書くものは結構こういうことが多い。つらいですよね、って言いかけた。

  • 60年代の若き男女の肖像。

    都市や路地、ゲバなどのもろもろの情景。

    特に雨に関する表現は秀逸、うなっちゃう。

    でもあくまで文豪の若書き、かな。

    主要作品を先に読むか、初期作品を先に読むか。

    あなたが決めよ!

  • 中上健次が23歳までに書き上げた短編集。後半2作品が特に心に直接訴えかけられた。読んでる間、ごうごうと頭の中で音が鳴っているような錯覚に陥る。10代のうちにこの本に出会えてよかった。成人したらまた読み返したい。

  • どれもすばらしい。やはり中上健次の初期短編群が僕は好きだ。津島佑子の解説にもあったが初期の中上作品には時代を見に引き受け、そこから多く表現している。大江の初期のものもそうだが僕の嗜好にあっているのだろう、こういうふうな態度や文体のようなものが心地よく感じる。個人的には「愛のような」が一等よかった。

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著者プロフィール

(なかがみ・けんじ)1946~1992年。小説家。『岬』で芥川賞。『枯木灘』(毎日出版文化賞)、『鳳仙花』、『千年の愉楽』、『地の果て 至上の時』、『日輪の翼』、『奇蹟』、『讃歌』、『異族』など。全集十五巻、発言集成六巻、全発言二巻、エッセイ撰集二巻がある。

「2022年 『現代小説の方法 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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