オーパ! (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087504026

感想・レビュー・書評

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  • 開高健の『オーパ!』。昨2021年5月、家族が実家を整理してたらたまたま発掘されて出てきた。丁度コロナ禍でくさくさしていて、すこし後に友達に誘われるまま釣りに行ったり、行けないキャンプの妄想に駆られて塊肉を焼いてみたりしてたのよ、ワシ。タイミング的にちょうど良かったですよ。

    他の方のレビューによるとコロナ禍でけっこう売れていたらしい。この本の冒頭には、こんな言葉がある。

    "何かの事情があって
    野外へ出られない人、
    海外へいけない人、
    鳥獣虫魚の話の好きな人、
    人間や議論に絶望した人、
    雨の日の釣師……
    すべて
    書斎にいるときの
    私に似た人たちのために。"


    開高さん、好きなのです。私が読書を始めた最初の頃に読んでみてとても面白く、以来大好きな作家さん。私が読んだのは『パニック・裸の王様』『ベトナム戦記』『やってみなはれ、みとくんなはれ』『動物農場(翻訳と、作品にまつわるエッセイ)』。どれも大好きです。代表作『輝ける闇』『夏の闇』はまだ読んでない!

    『オーパ!』は家族の誰かが昔買って、頁数の半分は写真なのでパラパラとめくってそれを眺めていた。手元にあるのは1997年の版。当時とても人気のあった広末涼子が集英社のナツイチフェアのイメージガールで、広末の帯と栞がついているから笑える。開高健with広末涼子。ピラニアwith広末涼子。

    それと、大好きな田ちゃんこと田我流がこの本をレコメンドしてたことも、ちゃんと読みたかったきっかけ。他にお薦めしてたのは、有名な服部文祥さんの『サバイバル登山入門』と、ジェイムズディッキーの『救い出される』(村上柴田翻訳堂シリーズで復刊。『未来惑星ザルドス』のジョンブアマン監督により『脱出』として映画化)。

    『オーパ!』は『週間プレイボーイ』連載。だいぶ前に、プレイボーイの島地勝彦さんをモデルにした『全身編集長』というドラマで、ダンカンが開高さん役を演じていました。開高さんは鬱病(まで行ってたかはわからないが)を患っていたそうで、知らなかったので本当に驚いた。そのことを念頭においてこの本を読むと、最後の方は泣けて泣けてしょうがなかった。

    開高さんが当時46歳で、今の私も同年代になった。男は40代になると、くさくさしてくる、鬱々としてくるのですよ。具体的に言うと、いや具体的にはやめましょう。色んな部分の元気がなくなってくるのです。更年期障害までいかなくても、ホルモンバランスの崩れ、肉体の衰え、疲れやすさ、抜けない疲労、あちこちにくるガタ……泣。それから精神的なバランスも崩しやすい。
    娘さんがいるお父さんになると、娘もだんだん成長してきて、「お父さん臭い!嫌い!」と、家庭や社会の中でも扱いがヒドくなっていく。哀しきモンスターかよ!

    そんな鬱々とした日本の日常から脱出し、開高さん一行はアマゾンへ釣りに行く。狙うはドラド(黄金魚)や、巨大なピラルクー。最近やってるBSの『怪魚ハンター』のハシリですね。釣りに没頭すると同時に、当時のブラジル、アマゾンで野生味溢れた生活を送る。おかげで旅の間は身体の不調がすっかり回復したそうです。

    なので、多くの男性読者からは共感を得た連載であったに違いない。そして、女性にもぜひ読んで欲しいと思うのは、男性というのはこういう生き物だと知ることができるからです。寅さんと同じ。(いま現在の男性像とはだいぶ異なるとは思うけど……)

    オーパ!というのはブラジルで驚いたり感嘆した時に言う言葉だそうだ。この本の中にはオーパがいっぱい!

    旅といえばやはり食!食にまつわるエッセイは面白い。檀一雄『檀流クッキング』、伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』『女たちよ!』……。
    食に関する章ではタピオカの原料キャッサバ?(たぶんここの記述は若干間違っている。が、タピオカって元々ブラジル由来でポルトガル語なんですね、知らんかった)や、アサイーなど近年話題になった食べ物が出てくる。
    最後の方でカニを食う開高さん。太宰治の『津軽』と並んで、カニが美味そうな紀行文のひとつだと思う。牛の丸焼きの方法も、まさにオーパ!
    開高さんと食といえば、戦後の焼跡世代なので、食の原点は闇市のごった煮なんだと思う。アマゾンに行って色んなものを喰らうのは、そこと共通している。

    他に、ルポルタージュとしては『ベトナム戦記』からの流れ。東南アジアとアマゾン、『ベトナム戦記』を読んでからだとまた味わい深い。最後の方、人工都市ブラジリアについての記述。これは万里の長城をモチーフにしたディストピア歴史小説の傑作、『流亡記』と併せて読むと面白いです。

    最後に、各章のタイトルが文学作品等から取られているので、記しておきます。

    1.神の小さな土地
    (アースキン・コールドウェル)
    2.死はわが職業
    (ロベール・メルル)
    3.八月の光
    (ウィリアム・フォークナー)
    4.心は淋しき狩人
    (カーソン・マッカラーズ)
    5.河を渡って木立の中へ
    (アーネスト・ヘミングウェイ)
    6.水と原生林のはざまで
    (アルベルト・シュヴァイツァー)
    7.タイム・マシン
    (H・G・ウェルズ)
    8.愉しみと日々
    (マルセル・プルースト)

    さすが、素晴らしいセンス!
    どれも読みたくなります。

  • ステイホームの影響か、春先にランキング入りしていて、ずっと読む機会を伺っていた作品。
    奥付見たら、自分が生まれるよりも前に出版されていて、ひぇーと声を漏らした。

    私はインドア派なので、きっと世界のあれやこれやを見に行こうという気力がないままに、一生を終えるだろうなと思っている。

    でも、自分にこんな面白い話をしてくれる人がいたら、寅さんよろしく、旅の帰還を待ち遠しくしているんだろうなぁと感じた。

    概ね釣りの話がメインテーマにも思うのだけど、魚がキレイに骨だけになってるって、こういうことかとピラーニャの食い跡の写真に衝撃。
    よく、こんなのいる中で水浴びとかするわー。

    身体痒くなったり、2mのミミズいたり、河の水飲んでマイルドみたいに思ったり。
    一種の英雄譚と化している。
    でも、続編あるくらいだから、気に入ったんだろうなあ。

  • 世代の違いなのか、上手く言えませんが、沢木耕太郎の方が文体含めてスッと入ってくるのは否定できないけれども、まぁ何と言うか生命を感じるという意味ではこっちの方に分があるかな。
    釣りが本題だったのかもしれないけれども、それはたまたまの手段で、まさに全てに「喰らいつく」感じ。写真がその猥雑さというか、生命力をさらに際立たせて、とにかく凄いの一言。
    有名な本なんでしょうが、一読の価値ありです。ってほんと、当方レベルが言う話ではないんでしょうが。

  • アマゾンを舞台に、自然の神秘と脅威を始め、そこで生きる人々の営みや自然を前に感じた想いなどをカラー写真と文章で綴る、釣り中心のブラジル紀行。

    写真からも感じる蒸した空気、そこかしこに漂う生臭さ、照りつける日差し、四方から聞こえる動植物の音。まるでその場にいるような臨場感です。無茶できる時期にこの本を手に取っていたら、きっとブラジルの熱帯雨林に飛び立っていたと思います。自然への畏怖と、身体的に危険な面は重々承知の上でそれを越える好奇心に掻き立てられます。
    衝撃的だったのは見開き2ページ使ったアラクーという魚の散々たる姿。針にかけて5分ほど川に付けていざ水からあげてみると、残っているのは頭と背骨と尾びれのみ。ピラーニャ(ピラニア)によって肉はきれいにはぎ取られています。当のアラクーは自分の身に何が起こったのがまだ理解できていない様子でぴくぴくと動く始末。恐ろしい光景ですがピラーニャの神業に感動すら覚えました。

    30年以上前に書かれた本なので、当時と比べて海の生物について判明していることも多いだろうし、現地の文明も随分と進んでいるはずです。とは言え、自分の目の前に広がる世界は極々一部、世の中は未知に溢れている、という気付きとワクワクが同時に溢れてくる内容でした。

    視野が狭くなっているなぁと感じた時にこの本を手に取って、時間に囚われない大らかな心を取り戻したい。

  • 初めて読む開高健の本。この旅は何と1977年に行われている模様。それなのにアマゾンの環境破壊について、地元の人もかなり嘆いていて魚が昔ならここで取れたのに、上流に行かないといないと言った記述が多い。この時点でそうなのであれば、今はどんなになっているのだろうと思う。相当自然は後退しているのだろう。しかし川の水を飲んだり現地の生活に溶け込んで生活していて、良く身体壊さないなとか思う。でも本は最高。文章も引き込まれる。他の本も読んでみたくなった。旅の本は擬似体験が出来て良い。羨ましいと思った。

  • 川魚が好きで本書を読んたが、アマゾンの魚達は全く趣きを異にしている。ピラニア、ドラド、カショーロ、なんと個性的で魅力のあることか。

  • 昭和53年2月号から半年間PLAYBOY誌に連載された、開高健の70日間アマゾン釣行旅行記。文庫化される前は3,000円近い価格にも関わらず10万部を超える売れ行きを記録。この文庫版も30刷を超える版を重ねている。
    類義語を反芻する開高健ならではの独特の文体は健在。日本語を自在に操ると言い換えても良い、他に類を見ない文章は病みつきになる。

  • すぐ読み返したくなった。きっといろいろな要素がどれも良いから。

  • 魚や釣りには興味がないものの、アマゾンの恐るべき怪魚たちの描写にはびっくり
    いつものように濃い開高健節は健在だけど、それよりも写真がとてもいい!!!
    解説にこの写真家が有名な賞の最終選考まで残ったが残念ながら受賞には至らなかったと書いてあったけれど、素人目から見ても迫力のあるいい写真
    特に人の写真が良かったナ(←開高健風)

  • 名前だけは知っていたが一度は読んでみたかった著者の代表作。死の三年前に書かれたとは知らなかった。舌なめずりせんばかりの心で、雄大なる自然に飛び込んでいき、さまざまに考察しつつこだわりを見せつつも、存分に転げ回り、のたうって、楽しんでいる感。抜けた歯が新しく生えてこない老齢のピラーニャの悲哀。何を塗っても効かないダニが満足したとみるやサッと去っていく去り際。現地の住民を怠惰の芸術家だと讃嘆。釣りの史前的豪奢。極貧のはずの人々の淡々と鷹揚なところ。海水魚が淡水に棲み、ポロロッカで海から上流へ逆流する、アマゾン河の不思議。といったあたりが印象に。黄金色のドラドをつりあげて、どうだといわんばかりの笑みを浮かべる著者の写真が印象的。現地のものとして、アサイーが紹介されていて、まさか何十年後かの日本で、一瞬の嵐のように流行するとはこのときは思わざりしだろうなあ、と。

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著者プロフィール

1930年大阪市生まれ。大阪市立大卒。58年に「裸の王様」で芥川賞受賞。60年代からしばしばヴェトナムの戦地に赴く。「輝ける闇」「夏の闇」など発表。78年「玉、砕ける」で川端康成賞受賞など、受賞多数。

「2022年 『魚心あれば 釣りエッセイ傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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