嫉妬 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087507058

感想・レビュー・書評

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  • ◇あらすじ◇
    心躍るようなときめきはなくとも、穏やかな夫婦関係に満足していた妻。
    しかしその妻の考えは、ある事故をきっかけに一変する。
    事故で意識がもうろうとする中、信じていた夫に浮気を告白されるのだ。
    変わりゆく夫婦関係、そして妻と夫の心の揺れ動きを繊細描いた作品。

    ◇感想◇
    感情の捉え方が繊細で女性らしく、美しい作品だなと思いました。
    もっと暗くドロドロした感じを想像していたのですが、案外さらっと読めます。
    メインは妻と夫の関係、そして妻と娘の関係。
    どちらもどことなく納得できてどことなく納得できない考え方が浮き彫りにされちて、非常に興味深く読み進めることが出来ました。

    表題以外では気になったのは「海豚」。
    少し前に非常に話題になったイルカ漁の問題について言及した作品で、kの問題の難しさが叙情的に描かれています。

    もし時間があれば、一度手にとってもらいたい作品です。

  • 表題作「嫉妬」のほか、短編3作を収録しています。

    「嫉妬」は、麻衣とその夫である壮一郎の家庭に訪れた危機を描く作品です。ある日壮一郎は、高波にさらわれたカップルを救出するために果敢にも海に飛び込んでいきます。ところが、陸に上がった彼は、命の覚悟をしたのか、妻以外の女性と関係を持っていることを告白します。幸いにも壮一郎の命に別状はありませんでしたが、その日から麻衣は嫉妬に苦しめられ、夫と果てしもない諍いを繰り返すことになります。

    「凪の光景」は、海上に漂うヨットの上で、夫と妻が自分たちの間のどうすることもできない隔たりを確かめる話。「彼女の問題」は、やはり結婚生活にいら立ちを募らせている女性の心情が描かれています。

    もう一つの短編「海豚」は、他の作品とは違う主題が扱われています。人間に殺されるときの海豚の眼に、悲しみを越えた感情の深淵を揺り動かされた女性の話です。

  • かなり前の作品ですが、人の内面や情景などが丁寧に描かれていて、登場する人たちの気持ちに寄り添って読むことができます。
    いつの時代になっても、男と女、親と子の感情は変わらないものなのかもしれません。

  • 「他に女がいる」と夫に告白される妻。浮気相手とは今後も会いたい、でも妻は大切な存在だと非常に身勝手な事を言う男に苦しめられる妻の心情が描かれています。

    • christyさん
      オトコとオンナを書かせるなら、森さんだよね。これ、読んでみたいです。
      オトコとオンナを書かせるなら、森さんだよね。これ、読んでみたいです。
      2015/07/26
    • reader93さん
      christyさん、コメントありがとう!
      森さんの小説は登場人物の気持ちに感情移入してしまいます。恋愛小説のエキスパートですよね。
      christyさん、コメントありがとう!
      森さんの小説は登場人物の気持ちに感情移入してしまいます。恋愛小説のエキスパートですよね。
      2015/07/26
  • 消化するのには時間が必要そうなお話。子どもに対してのキモチは共感できるなぁ…

  • 夫が浮気をして、それを知った妻が嫉妬に苦しむ話。
    母親に愛されなかった過去を持つ妻(麻衣)が 精神的自立出来ないまま大人になり、依存する事で自尊心を満たしていた。夫の浮気により傷つくが、「自分の問題」なのだと孤独と共存する折り合いをつける。

    しかし、こんな夫 追い出せばいいのに。

  • 浮気を告白した夫への感情と、自分が愛されなかったが故に娘を愛することできないの難しさと、自分を律することのできない様々な葛藤に揺れる麻衣の物語。

    嫉妬という感情は麻薬のようなものだと思います。

    「でもそれはあなたの問題なのよ」
    ほんとにそうだ。

  • 印象的だった一節。
    おそらくこの作品の主題を端的に表した部分である。
    昨日本を返してしまったので、文言ははっきり覚えていないのだけど、夫婦のこのような会話を空を眺めながら妻が回想する場面。


    ―人類はどうしてこの空にロケットを打ち込むのだと思う?
    ―他の星に生物が住んでいるかを確認するため?
    ―他の星に生物がいないことを確認するためだよ。
    ―同じことじゃないの。
    ―前者と後者じゃ大きく違う。人類は自分たちより優れた存在が在ることを恐れているんだ。つまり嫉妬なんだよ。


    しかし、元々知らなければ嘆くこともない。
    「何かいる」んじゃないかと疑うから不安になるのだ。
    この物語は夫の突然の告白で夫の愛人の存在を知る。知らなければ何事も上手くいっていたわけだが、「知」ったことによって夫婦間に亀裂が生じる。

    相手はどんな女性なのか、自分の知っている女性なのか、自分より若いのか、仕事をしているのか・・・。
    妻は夫を問い詰め、それを聞いてまた苦しむ。
    夫は妻の苦しむ様を見て、告白したことを後悔するが、告白したことで居直り、彼女の存在を暗黙の了解に入れていく。

    愛人は恋人との秘密を共有していたと思っていたが、突然の告白によって秘密は破られ、恋人は妻を共犯に選んだのだと感じる。


    夫の助けた青年が言う。
    ―それじゃ、どんな人でも気に入らないよ。自分より年上でも気に入らないし、仕事をしていなくても気に入らない。
    ここはかなり的を得ているように思う。結局どんなに尋ねたって知らないのだから、自分より優れているように感じてしまう。
    ここの台詞の切れ味に少し感動した。


    大人の小説である。
    同書の巻末解説で島村洋子氏が興味深いことを書いていた。

    源氏物語に寄せて、この夫は誠実な夫である、と。
    誠実故に愛人の存在を明かし、秘密は愛人とではなく妻と共有したというのだ。
    源氏はその都度、自分の通じた女性の話を紫の上にしていた。それは源氏の誠実さだった。
    しかし、ただ一度、明石の君と結ばれ、明石の君が懐妊したことを黙っていた。
    そのことで紫の上はひどく苦しむこととなる。
    それは夫が浮気して子供まで作ったからではなく、秘密を共有できなかったからである。


    現代に生きる私には到底理解が及ばないが、愛人の側からすれば、恋人と二人だけの秘密を共有したいと思うのだから、その美学もあながち間違いではないのか。


    世の愛人、セカンドの中には、「自分の存在を恋人の妻(もしくは本命の彼女)に知らしめたい」と単純に思う者も多いだろうが、恋人と二人だけの秘密を共有したいと考えている者も多くいるのではないだろうか。と島村氏は言うが、むしろ後者の方が多いように思う。
    私なら間違いなく後者である。

    誰にとっても未知の存在は恐れを伴うものである。
    存在しないと思ってもらいたいのなら、完全に隠し通す。恋人ではなく妻(本命)と共犯になりたいのなら、全てを明らかにしてしまう。
    疑われながらも密会を重ねるのが一番苦しいのではないか、と思った。

  • ドロドロとした夫婦の世界です。題名と内容の怖いものみたさで読んでみました。大人の世界を垣間見たような気がしました。

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著者プロフィール

森瑤子(もり ようこ)
1940年11月4日 - 1993年7月6日
静岡県伊東市生まれの小説家。本名、伊藤雅代。
幼い頃からヴァイオリンを習い始め、東京藝術大学器楽科入学。この時フランス文学にのめりこんだうえ、様々な人々と積極的に交流し、卒業後に就職。結婚と育児に追われる。1977年に池田満寿夫が『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞を受賞したことを機に、初の作品『情事』を書き、すばる文学賞を受賞しデビュー。
37歳でデビューしてから52歳で没するまで、小説、エッセイ、翻訳など100冊を超える著作を生んだ。作品の多くがテレビドラマ化されている。代表作に、『スカーレット』『夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場』など。

森瑤子の作品

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