逃がれの街 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087508482

感想・レビュー・書評

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  • 久し振りの作家さんシリーズ第3弾。北方謙三さん。

    電気屋で配送の仕事をしている水井幸二は、ある晩、高校の同窓生を泊めたことをきっかけに誤認逮捕されてしまう。

    ん~。昔はもっと面白いと思ったはずなんだけどな。
    年を取ると読書の評価も変わるのかもしれない。
    以前に読んだことがあるかもしれないと思ったが、わからなかった。
    まあ、犯人を推理したり、ストーリーを楽しんだり、どんでん返しを楽しんだり、するようなタイプの小説ではないから別にいいのだが。

    解説にもあるようにストーリー至上主義ではない。
    むしろ逆だろうと思う。
    ストーリーを表すための駒としてのキャラクターではなく、キャラクターを浮き彫りにして磨き上げるためにストーリーが用意されている。

    つまり、この水井幸二というキャラクターに心酔できるかどうかで評価が分かれるのだろう。

  • 奥深く、簡単には言い表せぬ感情を巧みに描かれている。読者の想像に委ねる部分が多い為、ハードな読書になった。

    主人公は水井幸二。
    あまりにも理不尽な出来事をきっかけに、彼の人生は狂ってゆく。

    以下ネタバレ有り。(備忘録)

    誤認逮捕、女、仕事。行きついた先は、ヒロシという少年との逃亡生活。しかし、どこか満たされた逃亡生活だ。絶望の中でも、水井幸二は夢を描いた。罪を犯そうとも、守ろうとしたものがあった。

    人は強く生きる。守るべき相手がいれば、自らを犠牲にしてでも戦う。たとえそれが歪んだ感情であり、自分本位で、世間から逸脱した行為であったとしてもだ。

    読者として、重ねる罪に嫌悪感を抱くと同時に、憐れみを感じずにはいられない。一つのきっかけから、ここまで人は追い詰められ、そして生き甲斐を感じ、強くなってゆくものだろうか。幸二について、どこまで同情し、どこまで肯定すべきであろうか。

    小さな幸せがいっぱいある。
    だけど悲しい物語。

    読了。

  • かつて夢枕獏が読んだ歌に「立てば立松、座れば椎名、歩く姿は北方謙三」というものがあります。
    全くもって意味不明なのですがとても印象深く頭の中にこびりついて離れないのです。
    彼はその存在感からしてステロタイプのハードボイルダー(造語)。マセラッティを乗り回し葉巻をくわえる。
    そのディフォルメされた姿が与える印象を、自ら面白がっているのであろうと思う次第です。
    北方謙三好きと言いながら指折り数えると片手位しか読んでいない現状を反省し、これからちょぼちょぼ読んで行きたいなと思っております。

    本作は純文学出身の筆者が、初めて書いたハードボイルド小説で、編集者から売れないと烙印を押され一度お蔵入りになったらしいです。
    ほぼ処女作に等しいながらも貫禄充分な佳作だと思います。

    主人公の水井は自分の女だと信じて疑わなかった牧子を巡り、暴力団の渡辺を図らずも殺害してしまう。
    散れぢれの心でさまよううち、公園で捨て子のヒロシと出会う。ふとした気まぐれで連れ帰り面倒を見ているうち、
    彼の心に温かい火が灯る。それは牧子に傷つけられた心を癒して余りあるものだった。
    ヒロシを守る為さらに暴力団員1人を手に掛け、とうとう水井はヒロシを連れ逃避行を開始する。
    しかし水井はただの電気工事師で、格闘の特殊技能も何もなく有るのは若さゆえの勢いと、頑丈な体だけ・・・。

    仕事も辞め、女も失い悶々としている中で5歳児のヒロシと出会う訳なのですが、この水井の疑似家族ごっこがとても泣かせるんです。水井自体がまだ21歳で子供からやっと脱却したばかりなのに、
    「ヒロシには俺しかいない、甘やかしているだけではろくな男にならない。俺が一人前の男にしてやるんだ」
    こんな感じのセリフが所々に出てきて、大人になってしまった今ではその夢の儚さに胸が締め付けられますが、確かに自分がこれくらいの年の頃には、青臭い責任感に酔った事も有りました。でもその時は本気だったなあとしみじみ思い出します。

    2人の心の交流は、親子とも兄弟とも言える信頼感に溢れて、いつまでも見ていたいような温かさに包まれています。
    ところが彼らを追う暴力団、警察の包囲網は容赦無くその輪を狭めてゆくのでした。

    おしまい

  • 逃れと書かずに逃がれとなっている。この語感は、逃れと書かれるよりもどっしりと、どこか堂々とした印象を受ける。

    逃げることは、女々しいことではない。自分の引きうけたものに、最後まで責任をとる。その手段としての逃がれなのだ。

  • 研ぎ澄まされた文章。これぞ北方謙三、と言うに相応しい作品。

  • 遅ればせながら、北方謙三を始めて読んだ。面白い。大沢在昌とはまた違った、世界観。理屈では推し測れない、息吹が全編に漂う。話自体は暗く、破滅的ではあるが、少年との魂の触れ合いが涙を誘う。しばらくはまりそうだ。名作との評判に納得。

  • 主人公は不器用だけれど、何か芯が通っていて、その心の機微にヒヤヒヤしながらおもしろく読みました。なんでこんなに上手くいかないんだろう?って感じがもどかしいながら、おもしろかったです。

  • 泣ける....。

    ひとつの間違いから、
    ドンドン悪いほうに転落していく様は
    読んでいて辛すぎる。

    しかも主人公がいいヤツだから、
    早く逃げてーと思うことしきり。
    最後くらいはもちっと幸せに終わらせてほしかった....。

  • だめだと分かりつつも、逃げてくれればと。
    パーフェクトワールドを思い出した。

  • とにかく面白いです。北方謙三の代表作と言えます。一人の男の持つ性質━たとえばそれは優しさだったり凶暴さだったり、強さだったり━を、見事な文章と構成で描いています。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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