こころ (集英社文庫)

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レビュー : 347
  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520095

作品紹介・あらすじ

「私」は、鎌倉の海で出会った「先生」の不思議な人柄に強く惹かれ、関心を持つ。「先生」が、恋人を得るため親友を裏切り、自殺に追い込んだ過去は、その遺書によって明らかにされてゆく。近代知識人の苦悩を、透徹した文章で描いた著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • これが「岩波文庫読者が選ぶ100冊」の一位に選ばれたのは、納得です。見事なエンタメ推理小説でした。最初に「謎」が提示されて、「伏線」が張り巡らされて、「事件」が起きる。そして「真の原因」は「何処か」に隠されている。

     私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚かる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。(6p)

    冒頭である。「先生」と呼ばれる過去形の人物は一体何者なのか。この書き方自体に何かの「事件」の匂いがぷんぷんする。

    38pには意外な展開が書き込まれていた。まさかこれが青年の先生への同性愛の恋物語だとは知らなかった。しかも、青年はそのことに気がついていないが、先生はきちんと気がついていながら「私は男としてどうしてもあなたに満足を与えられない人間なのです。それから、ある特別の事情があって、なおさらあなたに満足を与えられないでいるのです。私は実際お気の毒に思っています。あなたが私からよそへ動いて行くのは仕方がない。私はむしろそれを希望しているのです。しかし……」と断る。 こんな生々しい会話もしているわけです。しかも、ここで「ある特別の事情」と伏線が張られる。

    「あなたは本当に真面目なんですか」と先生が念を押した。「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だから実はあなたも疑っている。しかしどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るにはあまりに単純すぎるようだ。私は死ぬ前にたった一人で好いから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたははらの底から真面目ですか」「もし私の命が真面目なものなら、私の今いった事も真面目です」私の声は頸えた。(87p)

    この頃になると、死亡フラグ立ちっぱなし。

    事件の真相らしきものは、第三部の「先生と遺書」によって展開されるのではあるが、実はテーマとしては第一部の「先生と私」で出尽くしていると言って良い。名探偵ならば第一部で「解決したよ、小林くん」と云うべきところだろう。

    「私は嫌われてるとは思いません。嫌われる訳がないんですもの。しかし先生は世間が嫌いなんでしょう。世間というより近頃では人間が嫌いになっているんでしょう。だからその人間の一人として、私も好かれるはずがないじゃありませんか」(50p)

    一般的に事件の蚊帳の外に置かれていたと云う評価の「奥さん」ではあるが、常に先生の側に居て約15年、彼女が先生の自殺の「真相」に気がつかなかったわけがない。この言葉に自殺の真相が集約されている。と私は観る。単純に親友Kへの罪の意識でもなければ、「明治の精神」に殉死したのでもない、「人間は淋しい」といったウジウジした気持ちでもない。そして奥さん自身はとっくにそんな夫を馬鹿な男と客観視出来ていることも、この言葉から読み取れる。

    人間の心の不可思議さを位置づけた素晴らしい推理小説でした。
    2013年7月21日読了

  • 私は子供の頃、良い人間になりたいと切実に思っていました。
    学校の先生は、人に親切にする優しい人間、
    人の痛みをわかる人間になりなさいと
    口すっぱく言っていたから、
    そういう良い人間になろうと思っていたのでした。
    そしてそれは容易なことだとも思っていました。

    大人になったからよくわかるのだけど、
    人に親切にし優しく、
    他人の痛みをわかるということは一筋縄ではいきません。
    自分が親切と思ってやった行為が他人を傷つける行為になったり
    他人の痛みと自分の痛みを平等に見極めることは
    とっても難しいことだと思います。
    勿論、傷つけたくはない、でも自分が傷つくことも怖いのです。

    こころを再読して、そういうことを考えていました。
    だれが先生を責められるでしょうか。
    自分がこうありたいと思う理想の自分と
    自分が行う行動とが必ずしも一致しないことを
    大人になるたび、切と感じます。
    今もわたしは良い人間になりたいと
    心から思うけれども
    そうはうまくいかないだろう、ということも
    きちんと解っているつもりです。
    そうして、そんな自分を
    追いつめたりしないぞ、と思っています。

  • 何十年ぶりかの再読。

    実に重い話だった。
    重すぎてなかなか読めない。

    音だけを追うと
    すらすらと音読できるのに不思議なものだ。

    「K」の死も
    「先生」の死も
    先生を慕う「私」の思いも
    理解できたかというと、大人になっても
    今一つ理解できなかった。

    お嬢さんの本心はどうだったのだろう。

    先生は結局、
    自分が一番大切だったのか。。という気がしてならない。

    自分以外の人を大切にできれば、
    悲劇は避けられたのかもしれないと。

    しかし、
    今、私自身が考えることなど
    実に単純すぎて情けないことこのうえない。

    愛情の形が屈折してるわぁ。

  • 手段を選ばず目的を達成したことで、
    生まれた状況が、自らを傷つける。

    そうまでして手に入れたものではなく、
    そうまでして手に入れたことでなくしたものの大きさを知る―。

    自分の中で、どうやって、
    そのおとしまえをどうつけるか?

    人間は、「見えない」生き物なのかもしれない。
    そのために、「見る」ためには、大きな物を失う。

  • 深い!ものすごくこころ深く何かを感じた。さすが夏目漱石。学生の時に読んでおけば良かった。でも、今だからこそわかる何かもある。

  • もっと早くに死ぬべきだったのに何故今までいきていたのだろう が悲しすぎる。
    どうしたらよかったんだろう。

  • 先生にはいれ込めないなぁ…男女の違いか?

  • 妹にごり押しされて気が進まないながらも読んだ。

    『こころ』は中学校の国語の教科書に載っていたので、一部分だけではあるが読んだことがあった。

    ちょうどKが想いを寄せていることを知りながら「私 (=先生)」が先手をうって御嬢さんの母親に結婚の許可を取ってしまい、それを知ったKが自害する場面あたりだ。

    当時の自分は「私」のことは嫌なやつだと感じたし、Kは失恋ごときで自殺だなんて心が弱すぎやしないか、と思っていた。

    場面が場面だっただけにあまりいい気持ちのしない話という印象を受けたので、妹に勧められなければおそらく読まなかっただろう。

    しかし最初から読んでみて、教科書に載っていた部分だけでは全く話の本質まではとても理解できないと感じた。

    自分が弱かったためにKを死なせてしまったことを悔やみつつも誰にも事実を明かせぬままだった先生。

    失恋だけでなく色々な要素が絡み合って限界を迎えてしまったK。

    生々しいくらいの心情を鮮やかに描いていて、最初から最後まで読むからこそ味わい深いのだろうと思う。

  • 回りくどい感もあるが丁寧に丁寧に人間の内面を著している。

  • 平成29年3月 歳39

    この年になるまで、夏目漱石を読んだことなく、題名をしているだけでした。
    そんな中、中身を何も知らずに読みました。

    最初は、なんでこの私は、先生をそんなにも気になってるんだろう。ただ黙って、散歩する仲ですよ??
    男同士で恋心でもあるのかな?BL的展開?って思いながら、ドキドキして読み進めると。。。
    先生の告白が。。
    ここからは、きっと有名な話なんだろうな。
    友人が好きな娘を先生も好きで。。
    友人が娘に告白する前に、先生は、娘の母に娘を貰いたい旨の話をし、実際に成功する。そして、友人は死を選ぶ…。
    その後、友人を追う形で、先生も…。
    こういう話って誰もが経験する話ですよね。
    自分も昔・・ってすごくいろいろと懐かしく思い出し
    結論は寂しいけど。。
    人間の性なんだろうな。
    きっと読んだ人ひとりひとりの心に突き刺さる本です。
    そして、若い人たちは、これを読み、友人を裏切らない。正面から戦えって思って欲しい。
    が、それがなかなかできないんだよね汗

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著者プロフィール

慶応3(1867)年、現在の新宿区生まれ。明治23(1890)年、帝国大学文科大学英文科に入学。明治28(1895)年から29(1896)年には『坊っちゃん』の舞台となった松山中学校で教鞭を執る。明治33(1900)年9月、イギリス留学出発。明治38(1905)年、『吾輩は猫である』を俳句雑誌「ホトトギス」に連載。明治40(1907)年、朝日新聞社に入社。以降、朝日新聞紙上に『三四郎』『それから』『こころ』などを連載。『明暗』が未完のまま、大正5(1916)年12月9日、胃潰瘍にて永眠。

「2018年 『道草』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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