夏の葬列 (集英社文庫 や 14-1)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 97
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520149

作品紹介・あらすじ

太平洋戦争末期の夏の日、海岸の小さな町が空襲された。あわてて逃げる少年をかばった少女は、銃撃されてしまう。少年は成長し、再びその思い出の地を訪れるが…。人生の残酷さと悲しさを鋭く描いた表題作ほか、代表的ショート・ショートと中篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 本書はショートショート。
    タイトルから惹かれ『夏の葬列』のみ青空文庫にて読了。

    何か心響くものではなかった。
    自分のことで精一杯で、罪の意識すら美化する始末か。
    それも仕方ない。

    以下ネタバレ有り。(備忘録)

    戦時中のある夏の日、少年と少女が遊んでいると、誰かの葬式に出くわす。子供は葬式でお饅頭がもらえると少女は言う。二人は駆けっこで葬式会場に走る。その時、艦載機が現れる。白いワンピースを着た少女は、地面に伏せて怯える少年を起こし、一緒に防空壕へ逃げようと言う。しかし、白いワンピースが目立って、機銃の標的にされてしまうと、少年は少女を突き飛ばす。彼女は撃たれてしまった。大人に運ばれていった。それから少年と少女は顔を合わすことがなかった。

    時を経て、久しぶりに街に帰ってきた青年は、葬列を目撃し、あの日を思い出す。棺の上にあった写真を目にする。それは彼女であった。彼は歓喜した。当時、自分は彼女を殺していなかった。不謹慎であるが、彼は救われた。自分が人殺しをしていなかったことに安堵した。
    しかし、葬列に参加していた子供から真実を知らされる。この葬式は彼女の母親のものであった。少女が亡くなってから、気が違ってしまい、母親の若いころの写真しか残っていなかったそうだ。

    青年は何を思うか。罪の意識から逃れる術は無くなった。

    読了。

  •  最近夏めいてきたので読みたくなる小説。村上春樹の「午後の最後の芝生」と並んで、夏が来ると手にしてしまう。短い文章に込められた夏の記憶。また、暑い夏が来ますね。

  • 印象に残ったところメモ。
    - プレゼントはあげるものなのね。そのあげることが喜びになる相手だけが、その人の、本当に必要な人間なんだわ。本当に愛する人なんだわ。私、多分、あなたを愛していないんです。
    - 孤独とは、誰も手を下して自分を殺してはくれないと言うことの認識ではないのか。
    - 意思の衝突した話し合いは、実は衝突その文に過ぎない。目的の位置した話し合いは、事務的な取り決めの手続きでしかない。その意味で、この世に話し合いは存在せず、協調と言うのも、実はお互いが国境を引き合うことなのに過ぎない。

  • どんな人間にも、その人なりの苦労や、正義がある。その人だけの生き甲斐ってやつがある。そいつは、他の人間には、絶対にわかりっこないんだ

  • 山川方夫という作家が好きで
    夏の度に書棚から本を探し出す
    という作業を
    もう20年近く繰り返している。

    表題は、ひどく残酷で、重い、
    夏のある記憶。
    だが、
    ねっとりとした暑さと、
    喉を鳴らしたくなる饅頭の甘さ、
    重すぎる青空、
    むんと鼻を刺す芋の葉の匂い、
    破裂する戦闘機の音…
    そんな五感と共に
    やけに清々しいような印象で
    思い出すから不思議だ。
    そして、毎年、読み返す度に
    読後感が微妙に異なる。

    ちなみに今年は、
    決して免れることのない、
    免れてはいけない、
    一生背負うべき記憶があることを
    受け止める主人公に
    思いのほかシンパシーを感じた。

  • ぜんぜん大したことない。
    いくらショートショートとはいえ、「空襲のときに自分が突き飛ばした娘は死んではいなかった 自分は人殺しじゃない! と思ったらやっぱり娘は死んでましたー 写真は娘のお母さんでしたー」
    なんてのはあまりにお粗末。こんな風に死をもてあそぶのはおよそ作家の感性ではないと感じる。

    それに「彼」とか「彼女」という都合のいい三人称の使い方にも違和感。内省ばかりでほとんど一人称じゃん。と思いきや急に「彼女」視点に切り替わるのはもうやめてくれよと思う。

    「他人の夏」で、自殺しかけていた女性をあらかじめ偶然知っていて、しかもその女性が「今日真赤なスポーツ・カー」に乗ってきた、「いきをのむほど美しい若い女」だった時には思わずFuckしかけた。

    後二作はもう、「ハイハイ私小説私小説」という感じでなんらの感慨を得ない。自我の形成期における自己の苦悩や内省の云々なんてのは、もうちっともおもしろくない。
    「きわめて地味で平凡な作家」そのとおり。

  • 表題作のほか、「待っている女」「お守り」「十三年」「朝のヨット」「他人の夏」「一人ぼっちのプレゼント」「煙突」「海岸公園」を収録。
    いずれの作品にも、生への失望あるいは絶望めいたものが含まれていると感じた。罪悪感、といえば確かにそうかもしれないが、個人的には少し違ったもののように感じる。いずれの作品も夏の陰影の濃さを思わせて美しい。

  • 全く知らなかった著者と作品
    教科書に載っていたと聞いて買ってみた

    開くといきなり著者近影
    普通は表紙裏ちゃうん?と少し笑う
    次のページは幼少期からの写真集 あれ?
    どうやら若くして亡くなっているらしい
    そして短編集ということも知る

    表題作は期待したほどでは無かったが、少ないページで人間感情の激しい起伏が描かれており教材になるのも納得

    積読本が溜まっていることだし他の作品はスルーするつもりもあったが掌編が続いたのに釣られて読み進めた。この年代の文芸は久しぶりなので文体にも引き込まれた

    古い語句にやたらと脚注が入るが逆に今なら常識的なワードもあり、その背景を察するのも面白い

    各編は特筆するようなオチがある話ではない
    時代のギャップは感じざるを得ない
    だが読みやすいし理解も容易
    結局、短時間で全て読了した

    表題作より好きな作品は煙突
    弁当を分け与える話
    個人的にはむしろこちらを強くオススメしたい

  • 持ち上げたかと見せかけて突き落とす残酷さ。前半のショートショートは秀逸だけどちょっとつらい。

  • この作品の主人公になにも罪はないが、主人公は2人の人間を自分が殺したと思っている。ヒロ子さんを殺したのは戦争であり、ヒロ子さんの母を殺したのは戦争で死んだ娘の悲しみだ。主人公がやったことは艦載機の攻撃時にヒロ子さんを手で押しのけただけだ。それに殺人の意図はなかった。それでも彼は苦しみ、事実をもって救われたかったのだろう。大人になって、子供の頃より確かに強くなった心でヒロ子さんの生死の行方を受け止めようとしていた。人の死に関わったかもしれないという罪悪感は、生きているうちは頭から離れない。たとえ、忘れるようにしていても、頭の記憶のどこかには必ず残っているものだと思う。葬式の遺影がヒロ子さんなら彼はその重荷から解放されたが、彼は解放されなかった。子供のころのトラウマを誰にも話せずに大人になってしまった彼は、やり場のない孤独と不安と後悔に苛まれながらこの先生きていくのだろうと思うと、不憫でならない。自分はこんなに酷い人間だと自分で決めつけて生きることはどれだけ苦しく、辛い人生だろうか。

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著者プロフィール

山川 方夫(やまかわ・まさお):1930年、東京生まれ。慶應義塾大学大学院中退。「演技の果て」「海の告発」など5作が芥川賞、『クリスマスの贈物』が直木賞の候補となる。著作に『安南の王子』『愛のごとく』『目的を持たない意志 山川方夫エッセイ集』などがある。「ヒッチコック・マガジン」連載の“親しい友人たち”が探偵小説読者から高く評価される、謎を扱ったショートストーリーの達人でもあった。

「2023年 『長くて短い一年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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