車輪の下 (集英社文庫(海外))

  • 集英社 (1992年1月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (308ページ) / ISBN・EAN: 9784087520217

作品紹介・あらすじ

南ドイツの小さな町。周囲の期待にこたえ、難関の神学校にパスした少年ハンス。だが、厳しい生活に失意を深める…、学校や社会に押しつぶされる少年の運命。(解説・高本研一/鑑賞・畑山 博)

感想・レビュー・書評

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  • ヘミングウェイ、カミュに続いて3人目のノーベル文学賞作家を読む。ハンス少年は母が他界し、厳格な父親と祖母に育てられる。彼は無理をしながら難関の神学校合格するが、友人関係のゴタゴタにより勉強に興味をなくし、神学校を退学する。ハンスは他人を蔑むことで精神の安定を得ていたため、退学したことに究極の劣等感を抱く。その後、彼は一度も開花せず人生を終える。厳格な父親の期待に応えることに執着し、また母親の愛情を受けずに育ったハンスの無残な人生には日が当たらず、故に車輪の下での生活という、無力感を突き詰めた作品だった。

  • この小説は愉快でも無ければ感動するものでもないだろう。
    周囲や近所の大人たちによって神童と呼ばれた彼の感じやすい精神が無責任な期待の積み重ねに屈し、青春の姿の断片を人生の全てと思えてしまう景色にのめり込み、社会に潰されてしまう物語。

    本来の読み方であれば、突き詰める問題やテーマは「教育制度のあり方」や「拘束からの開放、または脱走」だと思う。しかし、自分の場合は、神学校に入学してからの主人公ハンスと真逆の性格をしている少年ハイルナーとの出会いとふれあいによって育まれた友情とも愛情とも形容出来ない関係について焦点を当ててもいいと思った。
    ハンスが持った学校内の環境に対しての意識、自分が勉強すべき理由、などに対する疑問は、どちらも少年ハイルナーと関わるようになってからだ。これはある意味、考えること、生きることに気付かされた、悟らされたと言ってもいいのではないだろうか? 過去にハンスはよく釣りをしていたり、悪童とつるんだりして過ごしていた。この頃のハンスは人間らしく感じられた。しかし本書の序章のハンスはまるで自意識が無いように思えた。それは常に勉強・試験と彼の意識はそれだけであったからだ。実際試験が終われば趣味の釣りをするワケだけれど、しかし間もなくして勉強に再び取り組む。確かに「教育制度のあり方」について疑問を持ってしまうのもわかる。話しを戻して、ハイルナーと関わった後のハンスは、みるみると行動が変わっていく。学校を出て、実家に帰り、恋をして、働き、友人と飲み歩く。これらは根本からではないにしろ、ハンスの意思で選び取った行動だ。そして最後の結果も…。
    だからこそ、この物語は大半の人にとっては悲しい物語に見える―ー実際そうだと思う。それでも自分は(高校を出て働いてる身だからかもしれないが)、ハンス自身が選んだ結果をそのままに実行しているのだから、たとえそれが逃避だったとしても、本人にとっては幸せだったのではないだろうか、と思わずにはいられない。

  • ヘルマンヘッセによる
    教育について批判的に捉えた小説。

    主人公ハンス・ギーベンラートは、
    頭がいいことで街でも有名な少年。

    学業面において、ハンスに肩を並べられるものはおらず
    ハンス自身も勉強をして知識を蓄えることに喜びを感じていた。
    そんな秀才は、州の神学校に合格し、将来も保証され
    安定な人生のレールを踏んで行く。

    親、教師、町全体の期待を一身に受け
    全てを勉強に捧げ、結果を残し続けるハンスは
    優秀な生徒が集まる神学校でも
    頭角を表し、一躍注目を浴びる。

    しかし常に孤独に勉学に向き合ってきたハンスに
    一人の友人ができたところから、
    ハンスの人生は大きく動き出す話。

    「へたばらないようにするんだよ、さもないと車輪の下に圧し潰されてしまうよ」
    常に勉強し、社会の歯車から外れないように、
    努力し続けることこそ、正だと考える社会に
    ハンスがどのように向き合うかが注目となる。

    【学んだこと】
    結論から言うと、ハンスは決して恵まれない。
    ただその原因を考えることが重要である。
    大人が教育を押し付けたから?でもそれは立派な大人になるために必要なこと。
    加えて、ハンス自身勉強は好きであった。
    私は、多くの選択肢をハンスに与えるべきだったと考える。
    勉強は重要で大切だが、それができないから見捨てることは子供のためにならない。
    勉強以外の、友情や愛情や自然の豊かさなど感受性を高める機会をもっと与えられたら、
    ハンスの人生はもっと豊かになったのではないかと思う。

    それは各人の人生にも同じことが言える。
    仕事や受験で結果を残さなければ、
    誰かの期待に応えられる何かにならなければと
    自分を殺して必死になることがある。
    でも本当に大切なことって、
    その周辺にあるのではないかと思う。
    追い詰められた時こそ、支えてくれる人や大切な人に真摯に向き合うことで、少しリラックスできるのかなと思う。
    ハンスは追い詰められていくことが多すぎたのではなかろうか。

  • 多感な青春時代に挫折と脱落という、にがく苦しく恥ずかしい思いを味わった内気な少年の物語。周囲の期待に応えようとする姿勢や、第二の人生でも見せた好奇心などから、まだ「自分」を確立する前の素直であやうい人物像が見えてくる。小説全体を通して「僕の人生なんだったんだ」という被害者的なにおいは確かにあるし、教育者への反発あるいは教育のあり方を問うているように感じられなくもないが、やはり主体は主人公である少年であり、容易に動かしがたい壁を乗り越える方法も壊す方法も見いだせなかった未熟な己からの離脱願望がああいう形となって表れたのではないかと思う。それにしても少年たちの描写の魅力的なこと……文章も読みやすくよどみないが、ヨーロッパの雰囲気をぶち壊す「骨皮筋衛門」などの言葉には脱力感が……(苦笑)。

  • 僕はこんなに勉強を強いられると流石に出来なくなってしまうと思う。ハンスやハイルナーはよくこの先生たちの厳しさに耐えたなぁと思った。
    校長クソやん

  • 主人公に共感しながら一気に読んでしまった。
    私は主人公ほど真面目ではないからあのような結末にはならなかったが、勉強ばかりでやりたいことも見つからず悩んでいた学生時代の自分と主人公の姿が重なる。学問も大事だが、親は子供の感受性を大事にしてほしい。

  •  小さい時にエリートの男の子話なんだろうなあ~自分もそうなりたいな~と思いながら読みましたが、途中で断念(笑)ただ、ラストだけ見てすごくびっくりしたのを覚えています。
     そして、4年後。かなり見方が変わりました。
     ハンスの結末を知ってしまったからこそ、序盤も読むのが苦しかったです。本当の幸せなんて本人次第だけど、自分はそういうものを掴みたいな~とか・・・また何年か後で再び読みたいです。

  • 非常に読みやすかったです。
    言葉がすごくきれいで情景を思い浮かべながら、
    どんどん読み進めることができた。

    青春ってなんだろうとおもう。
    そして青春って必要なんだと思う。
    神経症になったとき、
    ハンスの名誉とは何だったのだろうかと思った。
    ハンスにとっての名誉はただ、外的名誉であり、
    誰かに褒められ認められることであった。
    彼は自分で内的名誉を得ることができなかったのだろうと思う。

    靴屋はそれを知っていたんだ。

  • 社会人になって初めて車輪の下を読んだ。

    多感な思春期の少年が、絶え間ない勉学が要求されるエリート学校に入学するもその後上手くやっていく事が出来ずにリタイアしてしまう、、現代の日本にも通ずる物語だと感じた。

  • エリートが破滅する話。「脱落」について。この結末を救いとみるかどうか……。ただ一つ。受験生は読むな!

  •  多感な少年が厳然たる体系を持った教育制度に押しつぶされる物語。タイトルの車輪とは、教育制度の比喩であることをわざわざ言うのは野暮であろう。

     毎日夜中まで勉強し、友だちから引き離され、釣りや散歩を禁じられた少年。試験が終わり、当然与えられるべき休みすら許してもらえなかった。彼は根本から優しいのだ。父親や数人の教師のくだらない名誉心を満たし、彼らを喜ばせなければと自分を追い詰めてしまうほどに。そして、悲しいほどに感じやすかった。周囲の期待に応えられない自分に存在価値を見出せなくなるほどに。
     時代も国も違う物語なのに、少年の気持ちを想像しやすく、すんなり自分の中に入ってきた。「期待」が人を簡単に壊してしまうことを改めて認識できた一冊。

  • 読み比べて井上訳を購入。精彩な自然描写が趣を深めるこの物語は、小さな町で育った秀才の少年が、牧師への道を約束された神学校に優秀な成績で入学するも、心と体のバランスを崩して退学し、休養中に失恋も経て、鍛冶職人への道を歩み始めるも、休日に仲間と飲み過ぎて川に流された、という話。勤勉な彼は思春期を迎え、ありありと敏感過ぎる程に感じられ始めた生と、空疎な机上の学問とに引き裂かれてしまった。再生を試みるも、繰り返しの日々が待ち受ける未来展望に絶望し死に至ったのだと解釈した。賞味期限を過ぎてしまうと味わえない、もしくは味気なくなる経験が人生にはある。私の人生には忘れ物が多いかもしれない。だからこそ、今を大切に生きたいと思った。

  • 天才と教師の間の対立。
    異端とされ社会から追放されたものが名を成し、のちに社会で賞賛される。
    逃避のような死因に納得はいかないが、幼少時からエリートとして育てられてきた少年の感性が踏みにじられ、一切の苦労が徒労に終わる時の虚しさは心にぐさりとくる。

  • この作品では、大人たちによる「教育」によって、自分を見失ってゆく少年が辿る運命が描かれている。

    いたるところに、大人や、とりわけ学校教育に対する痛烈な批判が見られる。
    子どもの頃は違和感や反発を感じていたことに対して、気づけば何も感じず、同化している。
    そして、子どもたちに対して、あの頃反発していた「大人」と同じことを言っている。
    それは自分が大人になったからなのか、それとも「大人たち」によって少しずつ、しかし確実に角をそぎ落とされ、他人と同じような、言うなればただの球になってしまったからなのか。
    読んでいて、心が痛んだり、はっとさせられるところがいくつもあった。
    それは私自身が大人であり、そして教育者だからだ。

    それにしても、多感で繊細な思春期の少年の心理を、これほど巧みに表現した作家は、未だかつて見たことがない。
    訳も素晴らしい。
    サガンを読んだ時も翻訳の素晴らしさに感動したが、それをはるかに上回る。

    私がこの作品で最も心を揺さぶられたのは、神学校に入った後の、少年から青年へと移ってゆくハンスの心の変化だった。
    周囲の大人の期待にがんじがらめになり、母親のいない厳格な少年時代を過ごしたため、友人たちと他愛ない情緒的なやりとりができず、苦悩するハンス。そこで初めて出会った、自由奔放で詩的な少年ハイルナーへの戸惑いと、初恋にも似た友情。
    この、ハイルナーとの友情が築かれて、ハンスの裏切りを経て、再び築き直され、そして別れてゆく過程、二人の関係とそれぞれの心の変化、これがとにかく身悶えするほど鮮やかで繊細で素晴らしい。
    ただ、これは共感できる人・・・つまり、そういった心の動きを経験した人でないと、おそらく理解できないだろう。

    また、詩的で芸術的なものを愛し、ものの本質を見極める力をもつハイルナーの感覚を通した古典に関する描写は、それらをほとんど読んだことのない自分でも心が震えるほど素晴らしかった。
    人や風景や物に対してはともかく、文章に対してこのような表現を使った例が、他にあるのだろうか。

    心に響いた表現をあげていけば本当にきりがないほど、この物語中盤は一節一節が心を揺さぶる。
    (特に印象に残った表現は、本棚の「引用」で記録しておきます)

    最初に述べたとおり、「教育のあり方」は本作品のメインテーマの一つだ。
    タイトルである「車輪の下」という言葉は、(私の記憶違いでなければ)p141で初めて、そして唯一登場する。
    校長が、自分たちの思い描いた方向から外れだしたハンスに対し、次のように語りかける。
    「へたばらないようにするんだよ、さもないと車輪の下に圧しつぶされてしまうよ」
    結局、その言葉通り、ハンスは「車輪の下に圧しつぶされて」しまう。

    結末を、救いがないとみるか、ハンスにとっては救いだったのかも知れないとみるか、人によって違うのかも知れないが。
    最後の靴屋の「あなたもわたしも、この子にはもっとしてやることがあったのではないですかな。そうは思いませんか?」という言葉が、胸に刺さる。

    教育者として、ずっと戒めにしたい。



    レビュー全文→http://preciousdays20xx.blog19.fc2.com/blog-entry-446.html

  • エリートが欝になる話、って説明するとすごくちゃちな感じがすりけど
    読んでみると重くて暗くて辛い
    最後の方になって「おい、もう終わるけどちゃんと救いがあるんだろうな!?」ってヘッセに喧嘩腰になるぐらい
    でも二人の学生の会話は精神的で美しい
    少女より少年のほうが儚さや脆さが際立ってより印象的

  • 青春小説の古典?
    青臭さがこれでもかというくらいに突きつけられるが、今読んでもみずみずしい文章で素直に受け入れられる。
    全体的にあっさり流れて行く気もするが、なんとなくこれは何度も読み返し、その度にまた違った感想を抱けそう。
    そういう意味で、手元に置いておきたい一冊。

  • 将来を嘱望されながらも、教育という名のシステムに押し潰され堕ちていった少年ハンスの物語。
    「酷使された小馬は、とうとう道ばたにへたばって、もう使いものにならなくなってしまった」
    この決定的な一文以降の哀れな少年の末路に、読んでいて複雑なものを感じた。それが何かは、まだ分からない。

  • くるしい

    昔の作品なはずなのに共感をしてしまったり、似ている人間が周りにいてて、人間って精神は変わらないのかななんて思った。この落ちていく感じ。もともと人生の目的なんてみつけてなんていなかったのかななんて思って主人公が可哀想に思えたけど共感してしまってることがもう、なんともいえなかった
    周囲に押しつぶされて自分でも潰して最終的にぺちゃんこ
    車輪の下っていうタイトルがほんとぴったりだと思う

  • 大分昔に読んだ本
    なんか、不純な動機で読もうと思ったような……←
    段々と堕ちて行く少年の姿が痛々しかった
    周りからの、過度な、重すぎる期待
    自分には経験無いけど、すごく重圧なんだろうな
    それで苦しんでいる人は、私の周りにもいるかもしれない

  • 悲しかった。主人公ハンスの気持ちが痛いほどわかってつらくなった。ハンスは神学校での抑圧された環境から逃げ出して、みんなから遅れて機械工になるんだけど、結局悲劇的な最期を遂げることになる。神学校から抜け出すことは作者ヘッセと重なる部分があるんだけど、ヘッセ自身は「詩人になりたい」という夢があって、そこに向かうことができた。でもハンスはその目標みたいなものがなかったんだよね。「夢」「希望」って安っぽいほど言われているけれど、そういう命の瀬戸際みたいなところに於いてはやっぱり大切なものなのかもしれない。もう少し早く読みたかったなと思いました。

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著者プロフィール

1877年ドイツの南部カルヴに生まれ、スイス・バーゼルの牧師館で育つ。「詩人になるか、でなければ、何にもなりたくない」と神学校を中退、町工場や書店で働くかたわら、独学で文学の勉強を続ける。1902年、後に『青春詩集』と増補改題された『詩集』を発表。1904年『郷愁』を書きあげ、一躍人気作家となる。同年に結婚、ライン河畔の寒村に移り、長編『車輪の下』(1906)、『春の嵐』(1910)を発表。両大戦に対しては平和主義を表明する。その間、『デミアン』(1919)、『ガラス玉遊戯』(1943)などの小説を書く。1946年、ノーベル文学賞、ゲーテ賞を受賞。1962年、85歳で死去。

「2025年 『ヘッセ詩集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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