靴の話 大岡昇平戦争小説集 (集英社文庫)

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  • 集英社
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本棚登録 : 121
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520491

作品紹介・あらすじ

太平洋戦争中、フィリピンの山中でアメリカ兵を目前にした私が「射たなかった」のはなぜだったのか。自らの体験を精緻で徹底的な自己検証で追う『捉まるまで』。死んだ戦友の靴をはかざるをえない事実を見すえる表題作『靴の話』など6編を収録。戦争の中での個人とは何か。戦場における人間の可能性を問う戦争小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 「出征」... 妻と幼子を持つ30歳代の私。こんな中年男は3ヶ月間の教育召集が終われば除隊になると信じていたのに。。敗戦の色濃いなかで、何故かフィリピン戦線に送られることに。。出征前の1日限りの家族との面会日、旅慣れない妻は現れなかった。翌日の出発日、行軍の途中で偶然、妻と子供に会うことが出来た。この時二人は、涙を流すこのとでしか相手に気持ちを伝えられなかった。。こんな中年男を前線に送らねばならないほど日本軍は劣化していたのか。無謀な戦争に巻き込まれ、抵抗もままならない一般市民の姿が浮き彫りに。。

  • 昭和19年、35歳で召集。
    <私は改めて周囲の米兵を観察し始めた>
    捕虜となっても、冷静な姿勢を崩さないことに驚く、「捉まるまで」から。
    表題作「靴の話」は、ゴム底鮫皮の軍靴は脆く、山中の逃避行でダメになる。
    死んだ僚友から靴を奪いそれを履くというもの。
    <こういう脆い靴で兵士に戦うことを強いた国家の弱点だけが「事実」である>
    戦争の愚かさを淡々と語る。
    それだからこそ、読んでいて怖くなる。
    私は初の大岡昇平さん。
    いくつになっても、知ることは大切だと実感する。

  • 食わず嫌いで読んでいなかった大岡昇平。
    偏見なんだが、軍隊の悪口のオンパレード、何もかも軍のせい、っていうのかと思ってた。
    私の方が偏ってたわけである。

    なんでこうも冷静なのか。
    兵隊になったり、一般人になったりする瞬間が右往左往する「捉まるまで」
    戦争に行くとき、作家の仲間に「経験じゃなく魂を書け」と言われたのだっけ、生きて帰ってきたら。
    そのとおりにしたのだなぁ。

    今まで読んできている手記は、現役兵とか軍人が多くて、勉強になった。
    別の視点からの、戦争の記憶だろう。大事にしていかなければならない。

  • この作家の一連の戦争小説を読んでみて、何故この人が生き残って帰還出来たのか解る気がする。悪運の強さと要領の良さにはホトホト感心する。

  • 人生は運命によって定められているものではなく、その時の偶然の積み重ねでできているということを大岡昇平から学んだという友人の言葉に興味を持ち読んでみる。短い間短編集が、どれも戦争という大きな幕の中のそれぞれの出来事を書いている。出征から捕虜になるまで、色んな戦争の形がある。渇き、飢え、マラリア、襲撃。戦争というものにシニシズムな視点を持ち、現場の状況や心理に対して非常に冷静な分析力を発揮し、ガリガリと鉛筆で原稿用紙に出来事を刻んでいる様がうかんでくる。これを書くとき、とてもまともじゃいられないのではないかと思うのだが、さめた温度の文章がリアリズムを強く感じさせる。

  • 「野火」で初めて大岡昇平の作品を読み、壮絶な戦争体験の中での兵士の心理状態、とりわけシニシズムを余儀なくされる戦争の不条理が、深く心に刻まれた。
    それと比較するとこの「靴の話」(特に前半)は決して読みやすくはない。しかし本書は、出征前の兵士の心理状態や戦線外での日常生活について知ることができる貴重な書である。私たちは戦争のことを思うときはつい戦線のことばかり想起するが、敵軍やゲリラとの銃撃はほんの一部であり、兵士たちが専ら苦しんだのはマラリアや渇きであったことから、異国の地へと送られた先でも「生活」があったことを改めて実感させられた。
    最終章の「靴の話」は、死者の靴を奪うチャプター。靴の有無が精神の衛生状態を左右し、不当な靴の入手で良心が揺さぶられる。人間の尊厳が靴に上手く投影されており、大岡昇平の冷静すぎる分析力に、読み手としては一種の悲しさややるせなさを抱かずにはいられない。
    本書で書かれていることは「戦争」の中だけの話ではない。「死を意識した生活」は何も戦時中だけではなく、現代社会でも起こりうる。村上龍の解説(インフォメーションとインテリジェンスについて)は見事だと思ったが、本書を読んで「リアルな危機感を持つ」ことができない人間はインフォメーションで満足し人生を終える、という見解には脱帽した。

  • 戦争に関する本、特に小説を読みたくて手に取った。
    どの話も作者の体験がつづられ、でも淡々と描かれているからこそ、文章からだけではなく、それ以上に戦争というものを想像させている。
    戦後70年を過ぎ、この世を去った作家たちも増えてきている。残してくれた作品を読むこと、これも戦後の自分たちにとって必要なことだと思う。

  • 大岡昇平が実際にどのようにして捕虜になったのかわかる。分析がすごい。自分の心理状態はもちろん、哲学的な思考にいたるまで。さらに周囲の人間の感情、感覚をするどく見ている。
    ここから「俘虜記」「野火」などの心を打つ作品が生まれているのだなぁと感じた。まさに、後世に伝える義務を負っているがために、神か仏かが「生かしておいた」ような雰囲気がある。

  • 大岡昇平の戦争小説は前から読みたいと思ってたけど、読んでみたら期待通りの面白さだった。
    戦時下の戦場の日常なんていう戦争体験者しか書けない場面をとても面白く描き切っててとても読み応えがあった。今後時間があれば「野火」などにも手を出したい。

  • 100506(m 100602)

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著者プロフィール

大岡昇平

明治四十二年(一九〇九)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和七年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和十九年三月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、二十年一月米軍の俘虜となり、十二月復員。昭和二十三年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和四十七年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和六十三年(一九八八)死去。

「2019年 『成城だよりⅢ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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