生れ出づる悩み (集英社文庫 あ 60-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087520545

作品紹介・あらすじ

自分の才能を信じて夢を追うのか、それとも今このままの現実を生きていくのか-。画家になりたいという一途な想いを抱きながらも、家族の生活を支えるために、漁師という過酷な労働に従事しなければならない青年・木本。圧倒的な北海道の自然のなかで、「いかに生きるか」という青年の深い苦悩を描き切った傑作小説。著者の作品と人生を読み解く文庫オリジナルのブックガイドも収録。

感想・レビュー・書評

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  • 確実に表紙だけで買った。←

  •  初版が1955年。70年近く前の小説。「列車に乗っている私自身を見出した」とか、「渋り勝ちな筆を休ませる間に」など、素敵な言葉が並ぶ。比喩が多く、情景を組み立て、思い浮かべるのが面倒で時間もかかる。しかし、それが楽しいとは言わないが、興味深いことではある。
     北国の冬の鰊漁の情景は、壮絶だった。

  • 読み終わるとクソデカいため息が出た。

    おおまかな話の枠組みは、
    物書きである主人公のもとに少年が絵を見てくれと持ってくる。少年は「近々岩内に帰るから故郷である岩内の風景を描いたのを見て欲しい」という。
    5年ほどして主人公がそんな約束も名前もおぼつかなくなった頃に自作の魚臭いスケッチブックに木や山が描いてあるものが届いて懐かしく思い、「また札幌で会わないか」と少年に連絡する。
    再会した少年は以前のような線の細い男ではなく、どっしりとして日に焼けた男になっていた。聞けば「最初に絵を持ってきた時は実家の生活苦で戻るより他なかった。帰ってからは余裕の無い暮らしの中で時間を見つけては絵を描いていた。周りからはおかしな人と思われたがいざ自然を見るとそんなことはどうでもよかった。」という事を聞く。
    その後に続く章は主人公がこのエピソードから思い描いた彼の生活だ。

    他の漁師が必死に日々仕事をしている中で、自分の才能は果たして彼らを犠牲にしてまで成し遂げるべきことなのか?
    という箇所に、これを言語化するとはすごいな…と思う。
    趣味を仕事に!みたいな広告あるけどあれを見た時にモニョモニョする気持ち割とこれだなと感じる。創作する人は一度読んでみるといいかもしれんな。
    あと最終章の頭からいきなり激励が凄まじくて おお!? ってなった。勢いがいい。ずっと冬の話だったので春の息吹ってかんじで好き。

  • 生真面目な作者の人生感を自身を投影したような深い作品。「君」の漁業という家族の生業と画家という理想の職業の間で悩む気持ちを素晴らしく厳しい自然の描写とともに描かれている。漁業の下りはまるで参加したかのようなリアルな描写で読んでいて主観が入れ替わったかのような錯覚を覚える。山を描くシーンも含めて情緒豊かな表現力に酔う。
    ブックガイドでは、作者の生い立ちと純粋故にとった末路とを作品と比べ読むことで興味深い。

  • 画家を志しながらも、漁師としての生活に追われ
    苦しい日々を送る青年
    このまま絵を描き続けていいものかどうか
    悩んでいる
    彼と知りあった小説家は
    彼の手紙と談話を下敷きにして
    漁師にしか知り得ない生活苦と、海の脅威を作品にしたためる
    それはひとつの挑発でもあるだろう
    いまきみが描かなければ他の誰かに描かれてしまうのだぞ、という…

    非常にこう、白樺らしいヒューマニズムであるが
    しかし後にはこれが、体験至上主義となって
    有島武郎じしんを行き詰まらせたようにも思える
    それを突破するための
    「惜しみなく愛は奪う」だったにしても
    有島武郎は
    人を蹴落とすぐらいなら死んだほうがマシというタイプだった

  • タイトルからは柔なイメージがするが、人も自然も力強く感じる。

  • 希望の物語りだ。
    不思議と元気付けられている。

  • 芸術の道に進みたい若者が、夢を追うべきかいなか悩む話。
    芸術とは関係ない別の仕事をしながら、「あー自分は何のために生きてるんだろ」と考えるかんじ、すごく共感できた。
    だけど結局、その先どうするかというのは自分が決めなきゃいけない…という形で答えを出さずに終わってしまったことに絶望した。わたし自身、答えが欲しくて読んだからかもしれない。。誰も背中を押してはくれず、責任も持ってくれないから、とにかく自分が動くしかないっていう現実を突きつけられた。

  • 名作に星を付けるのは気が引けますが。
    自己陶酔的な表現や内容に全く共感できなかったので星二つで。

    情景描写なんかは秀逸です。
    秀逸過ぎて、文体に酔ってる感じが伝わってきます。

    そもそもこの”悩み”の種類がナルチシズムそのものであり、
    それを見抜いている語り手のナルチシズムが作品全体に感じられます。

    そんなナルチシズムに共感できないのは、私自身がナルシストだからに他なりません。

  • 夢をあきらめて、生きていけるのか?



    帯に書いてあるメッセージにひきつけられるものがあった。



    夢がある。

    諦められない夢がある。

    だけど、追いつづけられないことも分かっている。

    自分に自信が持てないから。

    平凡だけど与えられた人生、それを捨ててまで夢を追うことは出来ない。

    すべてが中途半端。

    だったら生きてる意味はあるのか?



    人に相談したって答えが出るわけではない。

    自分自身が乗り越え、

    導き出さねばならない答えだから。

    夢を追えと言えるのも、

    諦めろと言えるのも、

    自分自身だけ。


    そうだね、逃げてちゃいけないのかもしれない。


    人間、いつの時代も同じ悩みを抱えているんだね。

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著者プロフィール

1878年、東京生まれ。札幌農学校卒業。アメリカ留学を経て、東北帝国大学農科大学(札幌)で教鞭をとるほか、勤労青少年への教育など社会活動にも取り組む。この時期、雑誌『白樺』同人となり、小説や美術評論などを発表。
大学退職後、東京を拠点に執筆活動に専念。1917年、北海道ニセコを舞台とした小説『カインの末裔』が出世作となる。以降、『生れ出づる悩み』『或る女』などで大正期の文壇において人気作家となる。
1922年、現在のニセコに所有した農場を「相互扶助」の精神に基づき無償解放。1923年、軽井沢で自ら命を絶つ。

「2024年 『一房の葡萄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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