族長の秋 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087602357

作品紹介・あらすじ

架空の小国に君臨している大統領は、街道筋の娼婦を母に生まれた孤児であった。若くして軍隊に入ると、上官を裏切り、あくどい手段で昇進をかさねて今日の座についた。年齢は150歳とも250歳ともいわれ不詳。絶対的権力を持つ大統領の奇行、かずかずの悪業、彼に仕える部下たちの不安、恐怖、猜疑に満ちた日常を描く。

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル賞作家であるガルシア=マルケスの独裁者小説。

    ===
    架空の小国に200年の寿命を持ち君臨し続ける大統領の織り成す奇行と悪行とそして孤独。氾濫を企てた将軍は丸焼きにし、インチキ籤に関わった二千人の少年を殺す。美女は月食の中に消え、妻子は犬の群れに噛み殺され、娼婦だった母親の屍骸は聖女とされる。
    そしてただ君臨する大統領を操るように権力をほしいままにする部下たちの恐怖、猜疑。
    大統領が自分の周りの嘘を感じ真実を知ろうとするが、それを探りに来た神父は側近たちに消されかける。
    君臨しつつも利用され、それでも絶大な権力をもつ大統領が孤独かつ滑稽。
    ===

    6つの章からなりたち、そのほとんどは大統領の死体描写で始まります。
    大統領の死の噂を聞いて大統領府になだれ込んだ6人の民進がそれぞれ大統領時代を思い起している構造のため、同じ事柄何度も語られて行きます。
    目くるめくような魔術的レアリズム小説。

  • 南米某国の国家元首、ある大統領の男の日常をこってりと語り尽くす。そしてラテンアメリカそのものを、その独特の精神風土や特殊な政治状況が、重層的に描かれるのであった。
    こんな自由なスタイルの文学作品は初めてである。

    大統領自身の独白、母や妻、閣僚や将軍など大統領周囲の人物の証言が連綿と続く。口承文学の感じである。ちなみに、一文の中で語り手が次々に移り変わってゆくのだが、これはさほど読みづらいものではない。さらには大統領の老境や青年壮年期が、此の国の“現代史”が、躊躇いなく縦横に飛ぶ。
    うねるように、執拗に畳み掛けるように語り尽くす口承の叙事詩である。

    エグ描写が目立つのもラテンアメリカ的かも。
    軍部や閣僚の裏切り者への残虐な処刑、勝手気ままな思いつきのように発せられる政策。まさにやりたい放題の独裁者である。宝くじ抽選会のイカサマに従事させた子供達を、その秘密を隠蔽するため監獄に収容、その数2000人。親友と信頼して来た将軍の裏切りに、彼をオーブンで丸焼きにして宴会に供する。などなど残忍暴虐の数々。凄惨このうえない描写が多い。
    だが、殺戮人数がケタ違いだったり、殺し方がエグすぎて寓話的な域に到達しているためか、陰惨な感じよりお伽話のようなコミカルな感じを受けるのであった。

  • 全編を通して語り手が次から次へと変わったり、時間が過去へと未来へと行ったり来たりするので、内容がつかみきれませんでした。現実とファンタジーの混在っぷりもかなりのもので、何が何だかわからなくなってきます。大統領は一体何回死んで生き返ったのかわかりませんが、『百年の孤独』以上の孤独を味わった人なのではないかと思いますね。

  • 他も人も散々書いているが、これは読み手を選ぶ小説だと思う。
    大まかな章分けこそあるものの、50ページ前後にわたって段落もなければ、鍵括弧もなく、読点を多用した長文は視点がコロコロと変わり、その上時系列も飛ぶ。
    翻訳云々以前に原文の難しいのだろうと思う。
    悪文と言われればそれまでかもしれないが、読者を挑発する冒険的野心に満ちた作品ではないだろうか。
    文体にさえ慣れてしまえばグイグイと読むことができると思う。
    解説よると代表作「百年の孤独」とは遠い位置にある作品ということだったが、個人的には「百年の孤独」に連なるような印象を受けた。
    「壮大な長さに及ぶ孤独」という点は共通している。
    一族であるか一人の男であるかという違いはあれど、主題は似ていると思う。
    「百年の孤独」にもあった非現実的で幻想的な挿話も相変わらずだった。
    登場人物も少なく、描写も繰り返されるところがある「族長の秋」の方が孤独の深さを感じ易いとは思う。
    ただし冒頭にも書いたように文章のアクが強すぎるため、あまりお勧めはできない。
    そういうことを含めると星は一つ落ちるかな。
    文学的には「百年と孤独」と評価を二分するくらいの傑作であることは間違いない。

  • 架空の国の独裁者の愚行・奇行・残虐な行為を戯画化した長編小説。
    段落もなく止めどなく語られる饒舌な文章に誘われて、気づけば独裁者の異常な行動もスンナリ読めてしまっているのが恐ろしい。マジックリアリズム、ここに極まれりといった感じ。
    数々の奇行・愚行も目立つが、それと同等に目立つのは卑屈で、面従腹背という言葉がピッタリくる国民や取り巻きの官僚たち。判を押したように繰り返される欺瞞に満ちた取り巻きたちの態度こそが、独裁者の奇行を生み、政治を歪めているのではなかろうか。

  • ノーベル文学賞作家の作品『族長の秋』を読了。まず読み始めて思ったのが、とても読むのに体力がいる小説だなあという事だった。翻訳のせいではなく、著者がもしかしたあらわそうとした中南米での独裁政治による国の混沌というものに関係するのかも知れないし、ガルシア・マルケスの文体なのかもしれないが、文章の密度に誰もがやられる事と思う。次から次へと独裁者が動きまわる状況を描くディティールがこれでもかこれでもかこれでもかと続くので、休憩しながらよまないと本当に辟易としてしまったというのが正直なところだ。ただ誤解を招かないよう言うとつまらないという事ではない。中南米の独裁政治のでたらめ具合がきちんと想像できるし、なかなかその状況を多くの国の民衆が打破できなかった状況をとても素直に描いた結果ではとも思った。彼の一番の作品と言われる『百年の孤独』を読んでから好き嫌いを決めたいと思う。表現者が持つ偏執的なところがもろに文章にもでた作品だと思うのでそういう傾向の作品が好きな方は是非チャレンジを。

  • 一気に読まないとダメみたい。
    私には、気力もその気も湧きませんでした。

  • 所詮彼は奸智蠢く「大統領」の器ではなかった。
    むしろ「部族長」の器だった。
    残忍で甘えん坊な人間臭い人。

  • うまい!空気感が絶妙。

  • ラテンアメリカには独裁者小説というジャンルがあるそうな。よくいえば濃密、悪くいえば暑苦しくくどい描写が延々と続く。なんせ、改段もろくにないのでページにびっしりと活字が詰まっていて読むものをたじろかせるほど。好みは分かれるだろうけど、いったん引き込まれると最後まで一気に読まずにはいられません。

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