- Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087603378
感想・レビュー・書評
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貧民街で娼婦が殺された現場には大物銀行家の一人息子の持ちものが残されていた。
上流社会を巻き込んだ犯罪に乗り出したピット警視は、丹念な捜査の果てに犯人を逮捕するが…。
ビクトリア朝ロンドンを舞台にしたピット警視シリーズ。
16作目にして日本初お目見えの一作。
淡々と人や風俗を描写するアン・ペリーの筆の冴えは相変わらずお見事。
本作は娼婦のおねいさんたちのセリフにいろんなところを抉られたり、階級社会の惨さに地団駄踏んだりで辛くて仕方がない。
わずかな救いも、ピットの優しさも重くこちらにのしかかってくるようだ。
ことの真相は想像の範囲内なんだけど、そんなのどうでも良くなるくらいの話だった。
アン・ペリーはやっぱりすごいな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ピット警部シリーズ。ヴィクトリア朝のロンドン。
相変わらずの階級社会に切り込むストーリーで、作者はブレてない。
上流から貧民窟までイキイキと描かれていて、ミステリだけでなく、その時代にどっぷり入り込めるところがすごくいいです。 -
「…ある晩、自分に力があって他人を支配できると感じたくてたまらなくなり、ちょっとばかり行きすぎて娼婦を殺してしまった。自分のしたことを見て焦って逃げた。思ったほど怯えてないのは、父親が夢を守るために何とか助けてくれると想像してるからでしょう」声が厳しくなる。「当然の罪悪感さえないのは、エイダ・マッキンリーのことを自分と同じ種類の生き物だとすら思ってないからなんです。犬を轢いたようなもので。気の毒だし、わざとやろうとは思わない。だからといって、それで人生を棒にふる気もない」
「娼婦殺し」アン・ペリー P163 -
トーマス・ピット夫妻シリーズの第16作のこの作品は、アメリカ探偵作家クラブ賞の候補となっているが、日本では初の訳出作品。
犯罪の多発するヴィクトリア朝のロンドンの貧民街で、ある日娼婦が殺された。縛られ手足の骨を折られると言う死体の姿は猟奇殺人を思わせたが、死体の下からは大物銀行家の息子・フィンレイ・フィッツジェラルドの名が刻まれた「業火クラブ」のバッジが見つかった。
上流階級を巻き込んだ殺人事件の捜査に、ピット警視が召集される。フィンレイは容疑を否認したが事件当夜のアリバイはなく容疑は濃厚だった。けれどこれと言う決め手には欠け、フィッツジェラルド家に恨みを抱くものの陰謀とも思われる難事件を、ピットは少しずつ追い詰めて行くのだが・・・・・
上流階級の優雅な生活の影でぎりぎりの暮らしを余儀なくさせられる貧民街の人々を、優しい視線で見つめるピット警視が暖かく描かれている。颯爽としたヒーローではなく、よき父よき夫よき家庭人の彼が、苦しい立場に追い込まれながら必死で踏ん張る姿が好感を持てて、一気に読めました。
このピットは第一作で上流階級の娘だった妻のシャーロットと知り合った。今は二児の母として家庭に落ち着いているシャーロットは、ピットの窮地を見かねて妹のエミリーとともに、事件の解決の為に働いたことがあるらしい。この作品でも、彼女はその有能さの片鱗を見せて楽しい。また妹のエミリーも活躍しており、その他エミリーの夫ジャック、おばのヴィスペイシア等、魅力的な人物が登場し面白かった。
先にこのシリーズの「16歳の闇」を呼んだときに感じた不満感を一掃させる作品で、このシリーズ、もっと探したくなってきました。