- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087605785
作品紹介・あらすじ
原爆戦争勃発!イギリスから疎開する少年たちを乗せた航空機が、南太平洋の孤島に不時着した。戦争をよそに豊富な食糧に恵まれた無人島は大人のいない楽園にみえたのだが…。内部抗争から凄惨な闘争へ、漂流する少年たちは心の底にひそむ野性にめざめ、無益な殺戮をくり返す。極限状況のもとで獲得した新しい秩序とその崩壊をとおして、人間と社会のあり方を諷刺的に描く衝撃の名作。
感想・レビュー・書評
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恐ろしい世界の一端をかいま見ることのできる、そのような安全で無邪気な好奇心に駆られた野蛮さの発露が、現在の自分の安全を再保障するエンターテイメント性は、何ともいえず空恐ろしい。この物語を面白いと思ってしまう軽薄さと残酷さこそがベルゼブブでしょう。
個人的な話になってしまうけれど、私自身も能力が秀でている訳でもないのにリーダーに推されること(あるいは、立候補すればすんなり通ってしまうこと)が子供の頃は良くありました。能力のないリーダーというのは、えてして、その構成員も自身と同程度の能力と熱意を持っているものと想定して行動しがちです。私は完全にその口で、それゆえに権威を示してみせる必要性が全く理解できませんでした。
リーダーは隣にピギー(できれば美少年)を。
それはよいとして、上記のような境遇からラーフに肩入れして読むと、ジャックとの攻防戦としてストーリーをたどっていくことになります。ジャックのような権威指向でおつむの弱い、そのくせ集団を率いる能力に抜群に秀でた人間は割と多くいます(名前からしてジャックですし。もちろん、名前も出てこないその他大勢の方が多いですけど)。そういう人間との戦いは、とても不毛ですがリーダーには必要なことです。私はいまだかつてうまく事を運べたことがないので、当然わくわくしながらラーフを応援します。それにもかかわらず、ラーフの何とふがいないことか(人のこといえませんが)。失策に続く失策、結局破滅を迎えてしまうのはとても人ごととは思えず、身につまされる思いで辛い気持ちになります。
この物語のどこに平穏さがあるのか、その序盤からして崩壊への予兆はそこかしこにあり、全体が不穏な雰囲気で覆われています。人間は状況次第で蠅の王に取り付かれてしまう、なんてのは嘘っぱちです。ラーフからみれば蠅の王はジャックその人であり、その他大勢は取り巻きの蠅ですらないのですから。サイモンは何やら重要な役割を与えられているようですが、単に蠅の王に魅入られる場面が描かれているにすぎません。敵か見方かというゲームでしかないのです。でも実は、ジャックを見方にできなかった時点で最初からゲームオーバーです。極限状況でもなんでもなく、日常的に行われている出来事であり、その大半はもっと残酷です。目を覆っているか、本当に気づいていないか、あまりにも無垢なその他大勢であるにすぎず、その方が幸せに人生を送れます。
本書で気に食わないところがいくつかあります。まず、少年たちがあまりにも純粋に大人を尊敬しているところ。中学生にもなろうという子供が大人を尊敬するなんて、今では考えられません。これは時代背景的には仕方のないところです。二つ目は、あまりにも実際の子供の言葉を忠実に文字にしているため、読みづらいところです。難しいことを言おうとして言いよどんだり、何度も同じことを言うのは、いかにもこの年代の子供たちにありがちな話し方ですが、文字に起こすといかにも文字情報の無駄遣いですし、必要以上に頭が悪いように感じられます。最後に、心理描写と必ずしも関係のない風景描写が多すぎて、かえって情景が浮かばないことです。これは小説として致命的ではないでしょうか。「意識の流れ」の手法も今となっては古くさいだけです。 -
本能のままに生きることの困難さ。
理性も大切。 -
なんか山田悠介読んでるみたいだった
これから課題の書評書く -
戦後最も重要な物語のひとつとされる作品だけれど,この歳になって初めて読む。
グイグイと先を読みたくなるので,やはり名作なのだとは思うけれど、漂流記の形をとった社会構造批判と言われればそうなのかとも思う。ピギーの不幸の理不尽さや、ジャックのポピュリズム、大衆迎合的な煽動は、いまの商業主義や政治の有り様みたいだし、といってラルフの烽火にこだわる正義というのもわかりにくいのかもしれない。最後はわずかに「大人」が現れるけれど、この社会に「大人」が出現するわけもなく、解決策もなく立ちすくむだけなのか、考えさせられるな。
「蠅の王」とは聖書に描かれる悪魔ベゼルブブのことらしいが、ここら辺のヘブライ人とペリシテ人の風習の違いからの罪のニュアンスは、東アジア的価値観のオレにはなかなか理解できないところだ。 -
孤島に不時着した飛行機の生存者は少年たち。彼らは無人島の中で派閥を作り殺し合いを始める。秩序とその崩壊を通して現代社会の縮図を描き出した名作。十五少年漂流記から蝿の王が生まれ、近年の小説や映画に影響を与えてきたことは一目瞭然。秩序を失った社会では良心も常識も通用しない。神も悪魔もいない。ただ野生に戻った彼らを通して様々なことを考えさせられる
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人間は「最終的に達成したいが日々の欲求を満たせない目標」を集団で目指すのはとても難しく理性の強さや教養の豊かさを求められるのに対し、豚を狩猟して食べるという「眼前に迫った生存欲求を満たす目標」のためには安易に流されてしまい、最終的に達成したいはずの目標を忘れてしまうという教訓を得た。
どうせならばもっと残酷な結末にでもしてくれと思ってしまった。 -
貴志祐介のエッセイに出てきたので読んでみた。
世界大戦後まもなく世に出たことを考えると、作者がこの寓話で表したかったものが薄っすら見えてくるような。でも現実で既に日々辛いことと直面している大人としては、読むのが途中でしんどくなる。少年たちの無邪気なやり取りの体裁をとっているが、そこにちょいちょい人間の暗黒面が現れるものだから。
病気や体格のことで、明らかに優劣をつける発言を認める書き方が地の文でされているのも辛い。時代だとか、当たり前に出てくる差別だとか言ってしまえばそれまでだが、ただでさえ現実は容赦ないのだから、小説の中でくらい救われたい。唯一の良心はサイモンだが、早々に舞台を退場するものだから結局登場人物の誰にも感情移入できない。正に地獄、題名は非常にシンボリック。 -
「どうせなら面白い本が読みたい」
怪我のため、メンバー漏れした私が幼馴染に頼んだ本。
もうちょっと優しい本を期待していた春…
怪我をした高2の時点で文庫本なんて読んだこと無かった。
彼女が持ってきたこの本、後で親父に「いい趣味だな」なんて、言われたけど、俺の功績ではないので、複雑… -
えーっと。
何かの本で、SF小説を勧める一つとしてこの本があったと思ってずっと読みたかったんだが。
なんじゃこりゃ。
子供達の残酷さで色んなことを寓してる意図は判るが。
文章が読みづらいというか子供っぽいことも含めて、別段生涯出会わなくても問題はない。