おっぱいとトラクター (集英社文庫)

制作 : 青木 純子 
  • 集英社
3.10
  • (5)
  • (16)
  • (21)
  • (16)
  • (2)
本棚登録 : 195
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087606096

作品紹介・あらすじ

母が亡くなって2年後、元エンジニアで変わり者の父が、ウクライナからやって来た豊満なバツイチ美女と結婚すると言い出した!父84歳、美女36歳。母親の遺産問題で仲の悪くなっていた2人の娘は一時休戦、財産とヴィザ目当てに違いないその女性から父を守るべくタッグを組み、追い出し作戦を開始するのだが…。ヨーロッパで話題騒然のイギリス発世界的ベストセラー、日本初上陸。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 世の中のほとんどの男は
    おっぱいと機械工作が大好きだ――という話。

    原題は "a short history of tractors in Ukrainian"。
    元エンジニアのニコライおじいちゃんが綴ろうとする
    論文のタイトル、
    第5章の章題でもある「ウクライナ語版トラクター小史」。
    インパクト大の邦題は
    第6章でニコライの長女ヴェーラが
    父の若い後妻ヴァレンチナを腐して零したセリフ(p.98)
    から。

    妻に先立たれた老人が
    若いバツイチ女性と再婚すると言い出し、
    相手が外国人で、
    財産と滞在許可が目当てに違いないと踏んだ娘たちが、
    普段の不仲をよそに結束して結婚を阻止しようとする
    ドタバタコメディ……だと思って読み始め、
    確かにそういう物語なのだが、
    裏にある真のテーマは、
    ロシア革命と戦争に翻弄されたウクライナの
    とある一族の小史で、
    ウクライナ出身の両親を持ち、
    イギリス国籍を取得した著者自身の家族史が
    ベースになっているらしい。

    大学講師を務める49歳、
    マイェフスカ家の次女ナージャは、
    反りが合わないからと距離を置いていた父と姉の
    過去の苦しみを、
    すったもんだの渦中で聞き出すことになり、
    戦後生まれの自分は
    今の今まで痛みを知らない甘ちゃんだったと反省する。

    という具合に、なかなか深みのある小説なのだが、
    個人的にはどのキャラクターにも感情移入出来なかった。
    利己的で周囲の迷惑を顧みない老人も嫌だし、
    その老人に辛く当たる女も醜いし……。
    トラブルの元となるウクライナ人巨乳美女ヴァレンチナが
    もっと可愛げのある女性だったらよかったのになぁ。

  • ウクライナ系移民作家の自伝的小説。背景は事実に基づきつつもウクライナの人たちの置かれた苛烈な状況までもが上手にユーモアに包まれているので読みやすいです。ストーリーは80を過ぎた老父がビザ発給が目当ての40以上も年下の子連れの金髪グラマーに誘惑され(というより勝手に恋に落ち)結婚してしまい年が離れていて育った環境も性格も考え方も違う2人姉妹が振り回される、というもの。実はそのドタバタを通してウクライナの激動の時代背景やそこで暮らさざるを得なかった一般市民の現実などが語られます。80の爺さんも、娘たちもビザ目当ての嫁も、みんな自己中心的なのに率直で憎めないいいキャラクターで面白かったです。

  • びっくりするようなタイトルだが、原題は「ウクライナ語版トラクター小史」。邦訳の方がずっといい(カバーを掛けずに読むのは勇気がいるが)。

    2年前に亡くなった母の残した遺産をめぐっていがみ合う、主人公のナジェジュダと姉のヴェーラ。だがその間に、とんでもないことが起きていた。愛妻を亡くし悲嘆にくれているはずの父ニコライ(84歳)が、ウクライナ人の巨乳女(36歳)と結婚するというのだ。どう考えても財産目当て、イギリスのビザ目当ての女から父を守るべく、あわててタッグを組んで対抗しようとする姉妹だが・・・ 。

    イギリスのコメディ賞を受賞しただけあって、とにかく読み始めたら面白くてやめられなくなる。特に、ナジェジュダとヴェーラの「最強姉妹コンビ」と対等以上に渡り合う、ウクライナ女ヴァレンチナのキャラが見事。頼りないばかりの男どもの描写は耳が痛いが、アップテンポで展開されるすさまじい「女のバトル」を読むだけでもこの本を読む甲斐がある。

    だがそれだけではない。コミカルな展開の裏側に見えてくるのは、世界大戦でドイツやソ連に徹底的に蹂躙されたウクライナのすさまじい歴史であって、略奪や強制収容所の日々を生き延びてきた父母の人生。頼りない一方に見えた父がラスト近くにつぶやく一言が印象的だ。 . 「いいかねナージャ。生き延びてこそ勝ちなんだぞ」

    思えば戦争をくぐり抜けてきた人々の多くが、多かれ少なかれこうした体験をし、そのことを語らぬままに私たちの隣で人生をまっとうしているのだ(日本で言えば従軍体験や、あるいは空襲や原爆、沖縄の地上戦体験やシベリア抑留などが当てはまる)。そのことを私たちは、あまりにも忘れ過ぎているのではなかろうか。

  • ウクライナ難民出身のイギリス老人のもとにウクライナからの美女がやってきた

  • 2017/05/08 初観測 どうやら、ドタバタ、と社会派小説を一緒にしようとしてみた小説のようで、それに、トラクターの歴史(ポリティクスで自国の産業が衰退する話)もあり、けっこう凄そう。いつ読めるかな。

  • 文学

  • 元エンジニアで変わり者の84歳の父親が、
    ウクライナからやって来た金髪バツイチ
    巨乳美女と再婚すると言いだしたところ
    から話は始まる。

    それまで仲の悪かった娘ふたりは、その
    女から父親を守ろうと一転タッグを組んで、
    これでもか!とバトルを繰り広げる。

    と書くとただのコメディに見えるけれど、
    実はこの小説、ベースにあるのはウクライナ
    の悲惨な歴史。
    おそらく、まともに書くと悲惨過ぎてリーチ
    できる読者は限られていたんじゃないかと
    思える歴史。

    事実、ウクライナ生まれの両親を持ち、英国に
    移住してきた著者は、当初はシリアスな社会派
    小説を書いていて、さっぱりうけなかったらしい。

    ところが、あるきっかけでユーモアに目覚め、
    その後書いた本書が大ヒットを記録したんだとか。

    ドタバタ劇の部分がやや長くてくどい気もするけれど、
    こうした著者の経歴を理解すると、それも許せる。

  • なかなかインパクトのあるタイトルがお見事。原題の「ウクライナ版農業トラクター小史」のままだったら記憶に残らないだろう(訳者と編集者のお手柄)。

     本書は二層構造になっている。現在イギリス在住で、男寡となった84歳のウクライナ出身のエンジニアが、豊満な美女をウクライナから迎え再婚しようとする騒動を、娘の視点から描いたコメディをメインストーリーとして、その背後にウクライナの20世紀の歴史とエンジニアである父親の専門、トラクター開発の歴史が描かれる。表の再婚騒動が遺産問題と移民ヴィザ問題絡みの泥仕合の様相を呈していくが、大国の都合に翻弄された祖国と、その祖国からイギリスまで遠く旅をしてきた家族の半生が描かれ不思議といろいろ考えさせられる。著者58歳のデビュー作にしてベストセラー、コメディ賞(Bollinger Everyman Wodehouse Prizeとやら)を受賞しているとのこと(著者紹介欄より)。

     家族の来歴はほぼ自伝的な内容だと思われ、実際に父親は刊行に至らなかったが「ウクライナ版農業トラクター小史」を記していたという。おそらく引用されているトラクターにまつわる文章は父親の文章だろう(原書のタイトルもそこから来ている)。実父へのオマージュとして、男寡となった(登場人物の)父親が原稿が出来たと娘婿に語って聞かせる体裁で時折挿し挟まれる。実の父親の見解なのかどうか、トラクターの開発からそこはかとなく、20世紀後半の世界の勢力図のようなものも見えてくるあたりも面白い。本書が単なるドタバタ喜劇に終わらないところ。曰く、
    ― トラクター用に開発された無限軌道、つまりキャタピラはソ連が誇る伝説の名戦車T34へ受け継がれていく(その他のテクノロジーも兵器に応用されていく)。
    あるいは、
    ― 産業立国を目指すスターリンが農業地帯の産業化を目指す。コルホーズ(集団農業)化推進徹底地域としてウクライナに”鉄の馬”、つまりトラクターが導入された。
    さらに戦後、
    ― 疲弊したヨーロッパに代わりトラクターのエンジンを改良したアメリカのジョン・ディア社のモデルGが、世界のトラクター市場を席捲し、戦後のアメリカを世界経済の覇者へ押し上げる、 等々。

     トラクターから見た世界史が興味深く語られる。こうしたロシア革命から世界大戦、米ソ冷戦を経てソ連崩壊までの歴史の中で、如何に祖国ウクライナがパワーポリティクスに振り回されたかが、父親の書いたトラクター史とともに綴られていくのだった。 

     一方で、色ボケ親父の再婚問題は、滑稽すぎるほど滑稽で「魅力的」な美女にいいように翻弄されるのであるが、ウクライナ美女の魅力が読者にまったく伝わらないのが非常に残念だ。容姿は相当に色っぽいのだろうが、片言英語が下品で粗雑、立居振舞も横暴を極め、どう贔屓目に見ても良さが伝わらない。この女性(と連れ子)も祖国ウクライナの歴史に翻弄された犠牲者のひとりであろうことは想像に難くない。イギリスへの移住を必死に画策するのも、いろんな事情があったと斟酌する。この女性側にも同情を寄せるべき過去があれば良かったのだが、単なる金の亡者か結婚詐欺まがいの言動に終始していて、いただけない。「実は…」と彼女のほうにも裏事情があるとなしではストーリーの深みが違ってくるのに実に惜しい気がする。まぁ、ある意味振り切れていていいのかもしれないけど。

     ウクライナ美女のブロークンな英語や、時折ウクライナ語(ロシア語も?)のクセや訛りが出る父親の言葉。訳者もなかなか翻訳に苦労したと思われるが、面白おかしく表現出来ていたと思う。父親の相槌の「タク タク」(うん、そうだな)も、そのまま使ってるところがいい。その他、父親の返事で「あは」というのが頻出するが、ひらがなで書いてあり、相手から指摘されたのを笑って誤魔化しているのかと最初は思ったが(「あはは」と)、これも、どちらかといえばロシア語の「ага」(驚き、喜び、同意)っぽい受け応えなんじゃないかなあ(ウクライナ語でも同じなのかどうかは知らないけど)。なんて、翻訳前の原書の表現を想像しながら読むのも楽しかった。

     さて、祖国のウクライナでは翻訳が出ていないと漏れ聞く。ウクライナの窮状を外から書き立てられても困るのかと思いながら読み始めたが、どうやらウクライナ人の描き方が酷すぎて、ウクライナ国内じゃ読まれないと判断されたのかもしれない。自国人をここまで悪しざまに描かれては、コメディとして誇張された話としても心情的に割り切れまい。
     両親はウクライナ出身、祖国を離れイギリスに落ち着くまでの途上の難民キャンプで生まれたという著者。家族の半生記とも言える本作品だけど、出自となるウクライナへの愛情、郷愁はあまり持っていなかったのかな。少し残念。

  • ヨーロッパの流れはよくわからなくて。
    ウクライナとかイギリスの関係も
    よくわからないんだけど。

    わかるのは、じじぃになっても
    女性を好きになるってこと。
    好きになるというより
    エロぼけに陥ってしまうってこと。

    怖ぇー
    ボクの亡くなった祖父の行動を顧みると
    そんな風になる可能性も大きい…
    ボクも女の人は大好きだー!
    おぉー、恐るべきはDNA!

    もうひとつわかるのは
    家族がばらばらになって
    お金や体裁に縛られても
    なんやかんや姉妹で協力していく姿に
    少しほっとできた。
    まぁ、兄弟ももしかしたら
    仲良しに戻れる可能性もあるって事、かな。

  • 図書館で。そういえば大分前に友人が読んでいたな。前に読んだ小説の訳者さんが同じなので借りてみました。

    うっわ、ありそう、といういわゆるグリーンカード狙いの偽装結婚のドタバタとウクライナから逃げ出してきた思い出したくもない過去の悲しい記憶とがうまい具合にブレンドされてるなあと思います。特にウクライナは今も内戦が激しくなっていて心が痛みます。何で殺しあわなくてはいけないんでしょうね。

    このお話はお父さんが好きな人が読む本だろうなあなんて思いました。私なんかにしてみると放っておけばいいじゃない?なんて思うんですけどね。そうはいかないのか。日本と違って一人暮らしのお父さんを引き取るとかそういう考えではなく近くの老人施設に呼ぶとかそういう解決法が向こうらしいな、と思いました。
    まあでも命からがら共産主義から逃げてきたらイギリスで生まれた娘は社会主義運動に参加した、とかこれ以上の皮肉は無いですなあ。

全27件中 1 - 10件を表示

おっぱいとトラクター (集英社文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする