彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087607109

作品紹介・あらすじ

飛行機事故で唯一生き残った少女は誰の子なのか。少女を取り合う二つの家族、そして真相を追う私立探偵を巡って事件は錯綜をきわめていく…。フランス・ミステリ界の新たな金字塔が登場!

感想・レビュー・書評

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  • 飛行機事故で生き残った少女は、誰なのか?
    思いつめて失踪した彼女を、兄が探し続けます。

    1980年12月、飛行機の墜落事故が起きた。
    乗客全員が絶望と思われたが、たった一人生後3ヶ月の赤ちゃんが生き残り、奇跡の子と呼ばれる。
    ところが、この飛行機には月齢も特徴もほぼ同じ赤ちゃんが二人、乗っていたのだ‥
    両親とともに写真すら失われ、どちらの一家もトルコから引き上げてきたので他に証拠もないという。

    富豪と庶民という全く違うタイプの2つの家族が、どちらの子供なのか、裁判をして争うことに。
    その結果、赤ちゃんのリリーは庶民の家にひきとられ、兄のマルクとともに育ちます。
    お金持ち一家の祖母は諦めきれず、リリーのための資金を提供し、一方では私立探偵に身元を突き止める調査をリリーが18歳になるまで続けるように依頼します。

    そして、18年後。
    私立探偵が自殺を考えるような状況だったのが、初めてある事実に気づいて、思いとどまることに。えっ、それは何故?
    リリーをひたすら愛する兄のマルクは、妹の行方を追って、探偵グラン=デュックの手記を手に入れます。
    富豪一家の姉マルヴィナもまた、妹を諦めきれず、事件に絡んできます。

    美しく優秀なリリーは、出来過ぎのようですが、これが意外と実在感があり、若さがはちきれるよう。
    何といっても純情なマルクが一途で初々しく、二人を応援したくなるので、心地よく読めました。
    偏屈というかトラウマで歪んでしまったマルヴィナも、ある意味では一途?

    「その女アレックス」のピエール・ルメートルと同時代作家とわかる感じで、ルメートルほど強烈じゃないので、読みやすくて売れているのかも。
    ほとばしる感情の流れを描くのに疾走感があり、フランス人はこういうところが文化的に上手なんじゃないかと感じますね。
    最後のプレゼントにほろっとしました。
    読後感は良かったです☆

  • 記憶に新しいフランスのミステリーといえば、やはり『その女アレックス』。これはその著者ピエール・ルメートルよりも売れた作家ミシェル・ビュッシの作品なのだそうです。

    1980年12月、イスタンブールからパリへと向かっていたエアバスが墜落。約170名の乗員乗客は全員死亡したと思われていたが、ただ1人、生後数カ月の女児が生存していた。ところが、乗客名簿によれば、同機には生年月日があまりに近い女児が2人乗っていたことが判明。どちらも両親とともに搭乗しており、もちろんどちらの両親も死亡。双方の祖父母が女児は自分たちの孫にちがいないと主張。片方は超金持ち、もう片方は極貧。しかし孫を手放したくない気持ちは同じ。DNA鑑定などない時代のこと、世間が注目するなか争われた結果、女児は後者の孫と認められる。女児が18歳になるまでとの契約で前者から雇われた私立探偵。その期限が切れる直前、私立探偵は真相に気づき……。

    650頁超のボリュームながら、私立探偵の調査記録ノートを読み進める形を取った細かい章仕立てになっているので、とても読みやすい。 この事故、いや事件によって人生が大きく変わったのは、祖父母よりもむしろ双方の姉と兄。金持ち家庭で可愛い妹と過ごすことを夢見ていた姉は、妹が死んだと言われて納得できず、容貌にも人格にも異常を来します。極貧家庭の兄は、妹のことをいつしか女性として見てしまうようになり、近親相姦的な思いを抱く自分を嫌悪。生存者だった彼女はいったい何者なのかが気になって、どんどん頁が進みます。面白いことは確かですが、個人的に「それはないやろ」とツッコミたくなる部分があります。あまりに込み入り過ぎ。かといってわかりにくいわけではなく、読後に爽快感もあるので、まず良しとしておくかなというところ。

  • つかみは謎でぐいぐい引っ張られていくけれど、途中からやや失速、進むにつれもどかしさが勝ってしまった。長さが冗漫に感じられてきてしまって、もったいない。後半でもスピードを保ってほしかった。
    手記でストーリーが進んでいく場合、その割合やスピード感が難しいように思う。

    目立った齟齬はないし、面白いキャラもいるが、着地が無難すぎのような。。。
    陰影のようなものはちょっと見当たらなかったかな。

  • 日本人はフランスに憧れ、愛してきた。
    料理、絵画、音楽、服飾、美容......そして、小説も。
    本書はそんなフランスを愛する人にとって(そうでなくても)、またしても夢中になれる物語だ。

    主人公のマルクは妹のリリーを愛している。
    その愛は兄妹間のものなのか、それとも、男女間のものなのか。
    あってはならない過ちにおののきながら、彼は真実を探し求めて奔走する。

    マルクが読んでいるのは、私立探偵グラン=デュックが遺したノートだ。
    「遺した」だって?!
    そう、グラン=デュックはしょっぱなで死んでしまうのだ。
    そこに書かれていたものは、「あの事故」のこと。
    もったいぶった文体にマルクはイラつきながらも読み進めていく。
    そんな彼の前に立ちはだかるのはリズ・ローズの姉、マルヴィナ。
    彼女は度重なる証言や妹を失ったショックから精神を病んでしまっている。
    言葉も行動も破天荒。
    マルクを追いかけ、殺そうとする。

    一方、兄、マルクの前から姿を消したリリー。
    彼女もまた誰かを殺しに行こうとしている。
    しこたま酒を飲んで。

    姿の見えぬ殺人者と、過去と現在を行き来しながら絡み合っていく謎。
    それが全て解かれたときのこの喜びといったら!

    ゾクゾクする、一気読み、そんな煽り文句もまさにこのこと。
    看板に偽り無しと知った時のたまらぬ快感!

    兄は誰を愛したのか。
    遺伝子が語るものとは。
    事故によって翻弄され続けた子供達の未来はどうなるのか。
    安心なさい、すべて答えは明かされる。

    最後のマルヴィナの姿に思わず笑み。
    彼女を脇役だなんて呼ばせない。
    力強く、逞しく、そんな形容詞がぴったりだ。
    彼女の「贈り物」はきっとあなたの心を震わせるだろう。

    もう一度読んで伏線を回収したくなるミステリー。

  • 年末年始の積読消化を兼ねて読んでみた。

    飛行機事故でただ一人生き残った乳児(女の子)の血縁として、2つの家族が名乗り出る。様々な駆け引きと司法判断の末に、彼女の身分は確定されるが、そこで排除された一方が完全にあきらめたわけではなく…という、一人の人間を取り合う話、とざっくり読めると思う。

    主人公は18歳になって突然失踪した彼女を探す兄・マルクであり、「血縁ではない」とされた側のカルヴィル家に雇われた探偵・グラン=デュックなのだと思う。この探偵は渦中の人物・エミリーが18歳になるまでに証拠をつかむよう、巨額の報酬で雇われ、細密な記録を残している。しかし、この記録が非常にエモーショナルで、グラン=デュックさんに文才がありすぎてかなり華麗な仕上がりとなっている代物で、こういうものが記録として本当にアリなのかはちょっと怪しいんだけど、文章を操るフランス人はまあそういう感じなんだろうということと、私は書簡体を効果的に使った小説が非常に好物なので認めておく(笑)。

    手掛かりがありそうでなさそうな過去の事件、自称「姉」・マルヴィナの常軌を逸した行動と、読みどころの材料は盛りだくさんだし、パリの地理がわかる人間なら、メトロのチェイスは結構燃える。まあミステリーなので人はそこそこ死んでいるんだけれども、ハードな描写は抑制されていると思われるので、きっちりと最後まで読みとおせる。音楽の引用も多いので、ロック・ポップスのフレンチミュージックに詳しい人も楽しめると思う。

    個人的には、エミリーの愛称(ただし一般的ではない)「リリー」が効果的に使われていて上手いと思う。一応、司法によって身分は確定しているんだけれど、双方の家族から見ると彼女は「自分の家族」であってほしいから、少しでもつながりを持って呼びたいし、その一方で、実は「そうであってほしくない」と考えている人もいるから、その人にとっては他人として扱うために都合がいい。そしてそれが彼女のアイデンティティを不安定なものにする。名前に本人と彼女の周りの人間が振り回される息苦しさというものがじわっとにじんでくる気がした。それとは別に、誰かに惚れるということに関して、どうしてこうもフランス小説は心情と行動を描くのが上手いのか(笑)。

    割と中途半端な年月を記して終わるなあとちょっと思ったんだけど、それは現在までに経過している(はずの)年月を「察しろ」ということなんだろう。私はこの余韻の残しかたが嫌いではない。実は地味に、ルメートルよりおすすめですよ。まったく個人の感想ですが。

  • 最近話題のフレンチ・ミステリ。この作品も例に漏れず、一筋縄ではいかないお話でした。

    十八年に渡る調査を依頼された私立探偵は、契約が切れる前夜に自らの命を絶とうとするが、事故を報じた当時の新聞を読み返して驚愕する。その探偵から調査ノートを受け取った「リリー」は、兄のマルクにノートを渡して姿を消す──こんな意味深なスタートで、600頁を超すボリュームもさくさく読めてしまった。

    物語は、探偵の調査の記録ノートと、妹の行方を捜す兄の追跡が同時進行で展開していく。最大の謎は、生き残った「リリー」がどちらの家族の子なのか? というところにあるが、進むうちに死体は増えるわ、謎は深まるわで、徐々に混迷していく。手掛かりとなる探偵のノートがこれまた実に思わせぶりなので、吸引力は落ちるどころかどんどん強くなっていく。

    マルクが二十歳ってこともあって、全体的に危なっかしい雰囲気に満ちている。先が見えそうで見えない不穏な空気に窒息しそうになるけど、結末の感覚は、“予想通り”と“予想外”。フランス人ってもっとドライなのかと思い込んでました。そして無駄な死体が多い。破天荒なマルヴィナはいいキャラ。あとがきで触れた、「『リスベット』を彷彿とさせる」には、首を傾げながらもそうかもしれんねー。

  • ピースの嵌めていき方とかラストのもってき方とかめちゃいい感じ。
    本読む醍醐味はこういう作品に出会えることやね。

  • フランスの作家ミシェル・ビュッシの長篇ミステリ作品『彼女のいない飛行機(原題:Un avion sans elle)』を読みました。
    ここのところフランスの作家の作品が続いています。

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    飛行機事故で唯一生き残った少女は誰の子なのか。
    少女を取り合う二つの家族、そして真相を追う私立探偵を巡って事件は錯綜をきわめていく…。
    フランス・ミステリ界の新たな金字塔が登場!
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    2012年(平成24年)に刊行された作品… フランスで最も権威のあるミステリ賞であるフランス推理小説大賞で最終選考に残った作品で、世界各国でも翻訳されているとのことだったので期待して読みました。

    1980年12月23日の深夜、イスタンブール発パリ行きのエール・フランスのエアバス5403便がフランス/スイス国境の恐山(モン・テリブル)に墜落… 乗客乗員169名の正存が絶望視される中、唯一、生後間もない女の子が生存しており、マスコミは「奇跡の子」として大々的に取り上げる、、、

    しかし、同機には身体的特徴が著しく似た2人の生後間もない女児… エミリー・ヴィトラルとリズ=ローズ・カルヴィルが乗っており、どちらの両親も事故死しており、残された女児がどちらなのか見分けられる者は誰もいなかった。

    DNA鑑定のない時代、ヴィトラル家とカルヴィル家の2組の家族が女の子は自分たちのものだと主張する… そして謎を追うべく雇われた私立探偵クレデュル・グラン=デュックが、18年の時を経て最後に見つけた手がかりとは―? 仏ミステリ界の金字塔!

    650ページ近い大作でしたが、、、

    探偵グラン=デュックは事故から18年も経て当時の新聞を読み返して真実が分かったのか? 何度も読み返した新聞なのに、どうして今まで気付かなかったのか? そして、飛行機事故で生き残った女児は誰なのか? このシンプルな謎解きに焦らされて最後まで引っ張られたことと、真実を探ろうとするエミリーの兄マルクに感情移入したこと、リズ=ローズの姉マルヴィナの独特なキャラが印象的だったこと等から、なんとか集中力を切らさず読み終えることができました。

    できれば、1/2か2/3くらいのボリュームに抑えてもらえると、もっと読みやすかったかと思いますね… ハッピーエンドだと思うし、納得できる結末だったので良かったかな、、、

    意外?な真相は、タイトルから類推できちゃいましたけどねー 翻訳時に、もう少し考えて欲しいな。

  • 延々と引っ張ってこれかあ

  • ※以下はっきりネタバレしてるつもりはないけど、念のため…!

    正統派フレンチ・ミステリ。ほぼ全ての謎の原点となる探偵の記述がまわりくどくて、分かりにくくて…、血縁、家族愛、近親相姦、時間による風化、一人の赤ん坊の出生をめぐる複雑で重層的な物語。話題や視点が何度も変わる中、すべてが明らかになる結末と最後の場面には痺れるものがあった。
    読む前と後でタイトルのもつ意味が変わってくる。
    確かに真実は18年経たないと分からないな。当時の裁判では絶対に分からない。後半、特にDNA検査結果の封筒が云々以降の展開はしてやられたな〜という感じ。なるほどな〜。もっと率直に言えば、こんなのってありかよ〜って感じ。

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