失われた時を求めて 9 第五篇 囚われの女 1 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ P 1-9)
- 集英社 (2007年1月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087610284
作品紹介・あらすじ
語り手はアルベルチーヌをパリに伴って行き、二人の同棲生活が始まる。しかしアルベルチーヌを他の女から引き離してしまうと嫉妬は鎮められ、あとには倦怠しか残らない。アルベルチーヌは真実を語らず、語り手は彼女の行状に疑惑の目を注いで、ありとあらゆる可能性を想像してはひとり苦しむ。そんななかで、語り手はヴェルデュラン夫人のパーティに出かけようとして、ごろつきのような若者を従えてやってくるシャルリュス男爵に出会う。
感想・レビュー・書評
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「私」のいう「愛」の実態がどうもわからない。「アルベルチーヌを永久にわが家におくというのはプラスになる快楽であるどころか、だれもが順ぐりにこの花咲く乙女を味わうことのできる世界から彼女を引き離したという快楽」と語られるのであり、それは一面で主体性をはなはだしく欠いたものである。これでは、たしかに彼女は「囚われの女」でしかないだろう。あるいは、作家の強烈なまでの自意識と、そして自己の意識に対する徹底した分析がこのように語らせるのだろうか。一方、シャルリュス男爵の眼を覆うばかりの凋落は階級のそれでもあろうか。
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2.7
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いよいよアルベルチーヌと同棲することになった。アルベルチーヌの行動を監視するために、アンドレやフランソワーズ、運転手などをフル活用するのだが、彼らがアルベルチーヌと結託しているのではないか、またはアルベルチーヌの本心がわからないという理由で嫉妬は全く収まらない。そのくせたまに優しくされると嫉妬も収まるのだが、嫉妬が収まると同時に愛情もさめてしまう。嫉妬から解放されて孤独を楽しむことができるといって喜ぶのだから、この男は何を考えているんだと思う読者もいるかもしれないが、ここを理解できるかどうかで話し手への共感ができるかどうかが決まる(と思う。)私は共感した。
ギリシャ神話やローマ神話の引用が多い。そろそろヤヌスが出てくるんじゃないかと思いながら読んでいたら、案の定ヤヌスが登場して少しうれしかった。 -
アルベチーヌを家に置くことで生まれる安心と疑念と懊悩。主人公が働きもせずばかすか金を使って彼女に貢いでいるのがすごい。貴族こわい。
304頁から展開される、ワーグナーの四部作、バルザックの人間喜劇などを引き合いに「こしらえものでない統一」についての語りは、この「失われた時を求めて」についてのプルースト自身による語りのようで興奮しました。
シャルリュス氏の隠していた特性が目立ってくる。最後の方、女のファッションに対する観察力を今で言う女デザイナーと例えたところはさすがでした。
シャルリュス氏と、書き手に遂に狂人とまで言われだしたモレルがどうなるか気になります。
解説は加賀乙彦先生。今から読もうと思っている作家さんなので興味深く読ませてもらいました。小説の文よりずっと現実にモデルとなった地は色褪せて見えた、というもの。「いろいろ書きたいとは思うのだけれども、」紙数がつきた関係でかかれなかった「男色とマゾヒズムの世界」気になる‥‥ -
凡例
はじめに
囚われの女
訳注
主な情景の索引
本巻の主な登場人物
エッセイ イリエとコンブレーと『失われた時を求めて』 加賀乙彦
(目次より)