トルストイ ポケットマスターピース 04 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 集英社 (2016年1月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (832ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087610376
作品紹介・あらすじ
大長編『戦争と平和』を抄訳と加賀乙彦のダイジェスト、合わせて約300Pに集約! ほか『ハジ・ムラート』など、ロシアの文豪トルストイの初期から最晩年までの作品を新訳で紹介。(解説/加賀乙彦)
感想・レビュー・書評
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戦争と平和。抄訳&ダイジェストだけど、読んで十分楽しめる内容だと思う。ナターシャ一代記というか、生気にあふれた少女が、家に悩み、恋に落ち、ヤリチンに誘惑され、しかも騙され、それからロシアの美しい自然と民族の歴史に触れ(特にアニーシヤの料理の場面とか、農民の自給自足的な美しさ。イワンのばかに通じるような感じ)、戦争に巻き込まれ愛する人を失い、それから子をたくさん産んで、いいお母ちゃん(多産な牝)になる。それを本筋としてまとめつつ、ニコライがギャンブルでぼろぼろにされたり、古狼を犬で狩る場面の迫力、ドーロホフやら次々出てきた悪役良い役みんな戦争でぶっ潰される爽快感と悲惨さ、特にフランス軍相手に、悪役が戦争時に頼りになる奴となっているのが面白いし、若いペーチャの死にゆく場面は、ストレスがたまりすぎて自ら死の誘惑に導かれる若者を見事に描写していると思うし、本当に楽しめた。
「五月のセヴァストーポリ」の、将校達とまわりの兵隊がただ戦功を自分のものにしようとしつつ、ぼろぼろ死んでいくぐだぐだな感じや、「吹雪」の、埴谷の乳白色ばりの雪の描写のしつこさ(これ朗読したんだろうけど、そりゃ解説にあるように不評のはずだ)もさておき、やっぱり特徴的なのは「イワンのばか」だろう。これは何なんだろう。原始共産制? 仏教か? 経済と武力の否定? 最も鍵となるのは最後の一行で「手にまめがある者は食卓につくがよい。まめなき者には食べ残しを与えよ」だ。こう、読む人によれば、とても感動するし、一つのたたき台かもしれないし、それにイデオロギーでもない気がする。「こうあってほしい」という願いだろうし。イワンのばかって、素朴に「そうだよね!」って受け取っていいのだろうか。理想主義なんだろうか。皮肉なんだろうか。イワンのばかが謎すぎる。詳細をみるコメント0件をすべて表示