大人は泣かないと思っていた

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 678
レビュー : 67
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087711448

感想・レビュー・書評

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  • 市町村合併で名称だけは「市」となっても、その外れの限界集落のような場所にある古びた家で、酒ばかり飲んでいる父親とふたりで暮らしている翼。
    地元の農協に就職し、日々をそつなく淡々と過ごしている彼をとりまく人々の物語だ。

    リレー形式で各編ごとに語り手の視点が移り変わって一巡する連作短編集の形になっていて、閉塞した田舎町を倦んだり愛おしんだりして暮らす人々の生活は、大きな波乱はないけれど、丁寧に各々の気持ちの動きが描かれていて、読んでいてしっとりと面白い。

    ちょっとイヤなヤツそうなキャラクターも別の視点から見ると案外いいところもあったり、総じて登場するキャラクターがみんな憎めず、かつ魅力的だった。
    変人のような描かれ方は誰一人していないのに個性が際立っていて、それは各々が持つ矜持というか、芯となる部分がしっかりと語られているからだろうなと思う。

    一年後、一ヵ月後、下手したら明日にだって何が起こるかわからない。世界情勢も人の気持ちも移ろっていく。でもだからこそ、毎日を大切に生きていけたらいいよな、と思える物語だった。

  • 私も子どもの頃、大人は泣かないと思っていた。
    ついでに、大人は転んで膝小僧をすりむいたりもしないし
    アイスクリームを食べたりもしないとなぜか思っていた。
    裏を返せば、泣かなくなって膝小僧を擦りむかなくなってアイスを食べなくなったら大人なんだと思っていたのだ。
    その法則に乗っ取ったら、半世紀以上生きてる私はまだ大人じゃないな。

    世の中にはまだまだへんてこりんな法則が溢れている。
    金髪の娘=不良少女だし
    お菓子を作る男=軟弱だし
    女はだまってお酌するのが当たり前なのである。
    実にアホくさい。

    へんてこりんな法則をちゃんと変だと気付いている主人公たちと
    変だと思わない環境で過ごして来た人たちと
    間に起きる摩擦が
    緩く温かい目で描かれている。
    あなたの人生で本当に大切なものは何ですか?と
    耳元でそっと尋ねられたような気がした。

  • 一つの物語の中で、年齢、性格、立場が異なるそれぞれの人物が登場し、それぞれの思いが綴られている。
    小さな頃に経験した両親とのやり取り、青春時代に過ごした友達との日々、社会人での人間関係のやり辛さ、そしてこれから自分が向き合うであろう老後の生活など、自分が経験してきた事、これからするであろう事柄が描かれていて、懐かしいようでいて、今感じていることにも共感できる内容であった。
    10年後あたりに、自分の生活ステージが変わった時に読み返してみたい本。

  • 翼くんと小柳さんの距離が少しづつ近くなっていくのが良かった。
    九州の田舎の設定は中途半端だけど、人物の気持ちの部分は淡々としつつも温かい。
    これからの作品に期待!

  • 寺地さんの作品を初めて読みました。タイトルや装丁を見て勝手に恋愛がメインなのかなぁ、と思っていましたが少し違っていました。短編ですが、最初に登場した人物達のそれぞれの生き方や悩みや考え方があり、それが恋愛のもつれだったり、夫婦関係だったり、友人の事だったり、と。何かに迷って誰かの言葉で覚醒し前に進んでいく。大人になっても悩んだり苦しみながら自分に合った答えを探し求める。いくつになっても正しい意見と感情を持ち合わせていたいなぁ、と思いました。

  • 庭のゆず泥棒や、お菓子作りが趣味の三十二歳男性と幼馴染男性の自然体な気の置けなさ、二十二歳女性と再婚母、結婚挨拶の気遣いと恋人側に付く彼等、九州の田舎村の家族模様とそれに繋がる恋模様の連作。方言がなくて少し寂しい。具体的には残り辛いけれど淀みを主張せず流れる空気が滑らかで柔らかくて心地好くて愛しい。

  • ‪多彩なの?それとも、今の時代よくあること?‬
    ‪それぞれの人生をしっかりと歩んでいる人たちの物語。
    農協勤務の、時田翼32歳。独身。
    優しいだけが取り柄だと思っていたら、意外にもキラッと光るようないいことを言ったりする。
    P148
    「昔のことにたいして罪悪感を抱えるんじゃなくて、
    そうしてまで選びとったものを大切にして生きてくれるほうがいい、そのほうがずっといい」
    母への言葉。翼、いい男だった。‬

  • *恋愛や結婚、家族の「あるべき形」に傷つけられてきた大人たちが、もう一度、自分の足で歩き出す姿を描きだす。人生が愛おしくなる、始まりの物語*

    大人だけど、大人だから、なんだか泣きたい時ってあるよなあ…

  • 九州の地方都市で農協職員として働く時田翼を軸とした7篇の短篇による連作長篇。特に大きな事件が起きるわけでもない日常の風景を、当事者それぞれの一人称で綴った短篇小説は、誰もが人生の主役なんだという当たり前のことに気付かせてくれる。そして自分一人で生きているわけではなく、他人との関わりがあり生かされているということを考えた。最終話の「君のために生まれてきたわけじゃない」では思わず涙が出た。大人は泣かないと思っていたのに……。

  • 3冊目の 寺地はるな作品
    母に出ていかれ、ことばよりも先に手が出る大酒のみの父と2人
    九州の田舎に住む 主人公 時田翼
    農協で働き、人と争うことをしない 基本穏やかで菓子作りが好きな32歳 独身
    主人公 翼を取り巻く人たちの
    大人であるからこそ 周囲とのしがらみを慮り
    そして 意思を持って抗っていく
    そんなドラマが短編連作となって繋がっていく。

    作者の文章の中に漂う やさしい空気が心地よく、
    読み手を緊張させずに 小説の世界に連れていく。

    大人は何でも思い通りに生きていると思ったら 大間違い。
    いくつになっても どんな立場でも
    泣きたくなること あるんだよ。

    長引く梅雨 優しい雨の音を聞きながら 読むのにぴったりな1冊です。

著者プロフィール

寺地 はるな(てらち はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞。
著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。

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