- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087712162
感想・レビュー・書評
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九つの物語で成り立つ連作短編集に、幽霊の兄が作る九つの料理と、九つの純文学が登場します。
置かれた現状といびつな家族の形と忘れていた悲しい記憶にもがく女子大生の「ゆきな」の姿に不覚にも泣いてしまいました(そんな若い年齢でもないのに)。
でも、恐怖や悲しみや苦しみを抱えて時に誤った選択をしそうになりながらも、幸せな瞬間を噛み締めて季節の巡りとともに歩み続けたゆきなと、お兄ちゃんの大雑把で曖昧なくせに真理をついた人生哲学に救われました。
料理が美味しそうと話題の本でしたが、九つの料理とともに終焉に向かって過ぎ行く時間の中でゆきなの環境と心に寄り添った九つの純文学も併せて読みたくなりました。
そして、読み終わってみると、なぜこの物語のタイトルが「九つの物語」ではなく「九つの、物語」であるのかわかった気がしました。
あと、何故かわからないけど、この物語を読んで、菅原孝標女の「更科日記」を思い出しました。季節の移り変わりの描写や侘しさ、儚さの表現が見事だったからかもしれません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
兄妹の優しい間柄が感じられる話だった。
お兄さんの作る料理が美味しそう。そして、タイトルの通り9つの純文学が出てくるので、そちらも併せて読みたくなる。 -
しんでしまった兄が、ある日突然いつものように家に帰ってきた…という本好きな兄妹の物語。
兄は妹に料理を作り、妹はそれを美味しく食べる。
それだけの日常に、愛情が満ち足りていることに気がつく物語。
淡々としているようで穏やかで優しい雰囲気でした。すきです。 -
今自分が生きている世界が、どれほど不安定で優しくてあたたかいものかをそっと囁いてくれる話。いろいろな人の狭間で揺れる「ゆきな」の素直さや不器用さが愛おしくなりました。
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橋本紡さん2冊目。この人の書く柔らかい文章、好きです。
お兄ちゃんの、妹に対する大きくて深い愛情のお話。苦しくて苦しくて愛おしい、そんなお話。だと思いました。図書館で何とは無しに借りたけど、良い本に出会えました。
お話は各章が実在する小説とリンクしているけど、わたしはひとつとして読んだことがなかった。それらを読んでから、再読したいなぁ。特に物語の肝となる山椒魚の改変前後は、どちらも読みたい。
最後、お兄ちゃんが世界に溶け込んで召された、という表現が、とても素敵でした。よく亡くなった人は「あなたの心の中で生きている」とか「いつもあなたを見守ってくれている」という表現をされることがありますが、わたしはこれが好きではありません。あまりによく使われるからなのか、生きている側の勝手な考え方に感じるのか、理由はよくわかりませんが。
実際ふとした時に故人を感じるということは、あるのかもしれません。世界に溶け込むという言葉は、とてもわかりやすく、押し付けるでもなく、わたしの中にストンと落ちる表現でした。
あと、お兄ちゃんの作る料理がどれも美味しそうで、禎文式トマトスパゲティはこの通りに作ったらできるのかな?!とか思ったけどスパイス集めるの大変…いつか、やりたい。 -
私にとっては読みやすい文章でスラスラ進みました。読んだあと心がほっこりしました。感動しました。登場する本も今度読んでみたいです。今回は図書館でかりましたが,自分で買って読み返したいなと思いました。今度はこの作者の本を読もうかな。
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有り得ないことが突然起こって、徐々にその説明がなされてゆく。
この作家は男性??
20歳くらいの女の子の心情がよく分かっているなぁ。
主人公には共感する。
そして、お兄ちゃん。
こんな理想的な兄、いるかな?
登場人物はできすぎているけど、サラッと読めて読書欲も刺激してくれる、素敵な本。
個人的には、名言も多い。 -
大学生のゆきなのもとに突然、もういるはずのない兄が現れた。料理上手で本を愛し、恋人を次々にとっかえひっかえして自由奔放に振舞う兄に惑わされつつも、ゆきなは日常として受け入れていく。奇妙だが心地良い二人の生活は、しかし永遠には続かなかった。母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、ゆきなの心は壊れていく。
この物語は九つの章で構成されていて、それぞれの章にひとつずつ文学作品が登場する。本好きの兄が残した蔵書をゆきなが読み、彼女はその書に出来事や感情を重ねていく。私は文学作品はほとんど読まないが、ゆきなが本に引き込まれていくにつれて「読んでみたい」と興味を持った。
また兄が作る料理も私を惹きつけた。二人が再会した夜に兄が作った懐かしいトマトスパゲティ、ゆきなの彼氏、香月君を家に招いたものの、なぜか香月君と兄で作ることになった小籠包、心を壊して食べ物を受けつけないゆきなに、兄が一口ずつ食べさせたパエリア・・・一品一品に兄がゆきなを大切に思う持ちが込められているようで、温かな料理同様、私の心もほっこり温かくなった。
いわゆるチャラ男な兄に対して、ゆきなは地味で交友関係も広くない。二人の性格は正反対で、兄妹らしく憎まれ口をたたくこともあるが、互いに相手を深く思いやっていることが伝わってくる。兄が不在になる以前から仲の良い兄妹だった二人は、つかの間の再会であるという予感を抱いていたからこそ、一緒にいられる時間をより大切に刻んでいたのだろう。
過ぎ去った存在である兄のおかげで、ゆきなは崩壊した家族、過去の出来事に向き合い、未来へ一歩ずつ歩み始める。生と死、家族の崩壊を描いているにもかかわらず、全体が温かな空気に満ちていて、やさしい気持ちになれる物語だった。
橋本紡の作品





