魚神

  • 集英社 (2009年1月5日発売)
3.59
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  • 本 ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087712766

作品紹介・あらすじ

生ぬるい水に囲まれ、遊女屋が軒を連ねる孤島。美しき捨て子の姉弟・白亜とスケキヨは、互いのみを頼りに生きてきた。離れ離れの姉弟をはじめ、人々の情念と島の伝説が織り成す、新感覚幻想小説! 第21回小説すばる新人賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 第21回 小説すばる新人賞受賞作

    デンキも無い、澱んだ水の臭いがする孤島。
    その孤島には、かつて政府によって造られた、一大遊郭があった。

    その島に住む、美貌の姉弟・白亜とスケキヨは、幼い頃に、定食屋の婆に拾われ育てられた。
    二人は「互いの瞳の中に互いの感情をみる」そんな関係であった。
    やがて、婆によって、スケキヨは男娼として、白亜は廓へと売られて行く。
    離れ離れになった二人の魂は、惹きあい、心の底から求め合い、そしてそれゆえに避ける。

    艶めかしく、重く暗く、不思議な魅力の作品。

  • 離島の遊郭が舞台の作品…登場する姉弟は美しく成長し、姉の白亜は遊女に、弟のスケキヨは陰間(男娼)として売られてしまう…。白亜は島随一の遊女になり、そんな中スケキヨが謎の薬問屋として暗躍していることを知る…。以前スケキヨに命を助けてもらい恩義を感じている蓼原、遊女の新笠、スケキヨを追う蓮沼…惹かれ合いそれでいて拒絶しあう姉弟に大きく関わりながら物語が展開してく…。

    やっぱり千早茜先生の作品って凄い!ここまでいい意味で陰湿なねっとりとした世界を作中から読み手に感じさせるテクニック…それでいてあやしくそれでいて艶やかな雰囲気をも感じ、引き込まれるように読み込みました。私は、スケキヨより蓮沼が好きだなぁ(*^^*)

  • 装画の人物が見えるんですよ、小松菜奈に。

    無意識がそれに引っ張られたからか脳内配役は、
    白亜は小松菜奈。
    ならば、
    スケキヨは菅田将暉。

    結婚する前の、
    恋し合ってる、熱くて変に生々しい二人で。

  • 感想
    決まりがある社会の中で争う者と受け入れる者、二人が交わることはない。

    お互いが一緒にいることが出来る様になっても欲しかったものは手に入れられなかった。儚い物語。


    あらすじ
    売春業が盛んなある島で私こと、白亜とスケキヨは婆に育てられていた。年頃になると、スケキヨは男娼として、白亜は娼婦として別々の人生を歩むことになった。

    白亜は娼婦としてやり場のない日々を過ごしていたが、心のどこかでスケキヨのことを気にしていた。スケキヨの楼主だった菊切が殺されたことから、事が動き出す。

    スケキヨに利用された新笠、追い込もうとした蓮沼、新笠の死を受け入れられなかった楼主の胆振野、全てはスケキヨの思う通りに動いたが、最後まで白亜の心を掴むことは出来なかった。

  • 獏が夢を食べてしまうから。
    島民は夢を見ない。
    途中出てくる大人のお伽噺が良かった。
    終始どことなく色気のある文章で引き込まれた。
    大人のファンタジーかな。

  • 千早さん独特の表現力と世界観にすっかり引き込まれて後半は一気読み。
    この島を取り巻く生臭くどろっとした水質の河口と月経の描写がリンクしているような感覚になった。
    中盤の蓮沼が乗り込んできたシーンがとにかく怖くてたまらなかった。と同時に本当はこんな事したくないのではないかと蓮沼の本心を慮って、せつなくなりました。
    他にもスケキヨがずっとどんな暮らしをしてきたのか、御伽噺と実は接点(生まれ変わりとか?)があるのか、など消化不良なところが多々残りましたが、全ての答え合わせをしない余白といつまでも残る余韻がこの作品の良さなのかなと思いました。

  • 図書館本。新年1冊目。
    あとで、文庫版を見つけたら買おうかと考えるくらい良かった。
    舞台は、存在するのかしないのかわからない遊女のいる廓がひしめく島の話。本土と呼ばれる島からきた人間が、遊んでは帰っていく。腐臭が漂い島に生きている人間は夢をみないという島。
    時代は、デンキが出てきている時代だが、舞台の島にはデンキが通ってなく前時代的な暮らしをしていた。このあるんだかないんだかわからない感じや、電気は知っているけどどういうもの?的な話をしているのがファンタジー要素を感じさせつつ、完全なファンタジーでもなく。その加減が絶妙で。
    なんだかキラキラときれいな文章で、話は決して明るい話ではなく、むしろ暗く救いが無いような話だが、読んでいてとても心地よかった。

  • 著者デビュー作。
    白亜(はくあ)とスケキヨは川の中州にある島に住む。彼らは捨て子で気がついた時には一緒にいた。血がつながっているかどうかは定かでないのだが、一緒に引き取られ、姉弟として育てられた。
    島にはかつて一大遊廓があったが、今では寂れてしまっていた。ほそぼそと残った遊女屋と、わずかな魚をすなどる漁師と、訳ありで「本土」で暮らせなくなったものとが暮らす吹き溜まりのような島である。「本土」からは売春宿を利用する客が舟でやってきた。けれども島の住民は身分証明書なしでは「本土」に渡ることはできなかった。
    白亜もスケキヨも美しい子供だった。硬質の陶器のような美しさ。白亜は遊女になると本人も周囲も了解していた。ではスケキヨは・・・? これもまた周囲も本人も薄々はわかっていたのだろうが、はっきりと口に出す者はなかった。

    2人の住む島は澱みのようでもあり、一方、どこか神話の世界のようでもある。
    島に住む人々は夢を見ないという。それは祠に住む「獏」のせいだと人々はささやく。しかしそれを信じない白亜は時々夢を見る。
    島に伝わる伝説をスケキヨが物語る。昔、凄艶な遊女がいた。名を白亜といった。ある時、巨大な雷魚が現れ、水の神の命で贅沢になり過ぎたこの島を滅ぼすことにしたと告げる。けれども雷魚は白亜の美しさに打たれ、彼女だけは救いたいというのだ。種を超えた恋の行方は、最後までは語られることがない。

    ねっとりと濃密な世界観。妖しく官能的な美しさ。凄絶で血生臭い暴力。
    閉じた世界の中で、互いに魅かれながらも踏み出すことに臆病でもある、白亜とスケキヨの運命は。

    表紙の宇野亜紀良の装画が美しい。

    ☆は3寄りの4か4寄りの3か、という感じなのだが、痛みや苦しさを伴う官能に今一つ乗れない部分があったので4寄りの3で。この辺りはまったく好みの問題だと思う。
    死ぬかもしれない行為を白亜が求めるのは、あるいはこの閉じた世界を抜け出る手段が「死」しかない、ということなのかもしれないのだが。



    *すばる新人賞受賞時の対談記事(第21回小説すばる新人賞受賞記念スペシャル対談 千早茜×花村萬月)がネットに残っています。なかなかおもしろかったです。千早さんはアフリカで暮らしたことがあるんですね。『雷と走る』は、もちろん、全部実体験というわけではないでしょうが、私小説的な部分が結構あるのかな。

    *姉弟の幼少時の描写は、うっすらと樋口一葉の『たけくらべ』を思い起こさせます。

  • 『魚神』千早茜

    宇野亜喜良さんの表紙が素晴らしい。このイラストが、内容の雰囲気を語り尽しているとまで思う。

      「恐ろしさと美しさを兼ね備えているものにしか価値は無いよ。」スケキヨのこの言葉が、いつまでも脳裏に響く。

    ねっとりとした空気、どろりとした手触り。島を取り巻く水の匂い、苔や植物の匂い、遊女達の匂い。

    夢食いの貘や雷魚伝説が伝わる島に捨てられた美貌の姉弟。伝説の遊女の名を継ぐ姉・白亜と弟スケキヨ。互いだけに気を許し、分かち難く生きてきた二人。しかし、スケキヨは、その美貌ゆえ、悪評高い裏華町に売られてしまう 。離れ離れになり動揺した二人は、ある晩の出来事を境に仲違いする。成長した白亜もまた遊郭へ売られ、やがて島一番の美しい遊女となるが、スケキヨを失って、感覚を失った人形の様に身をひさぐ白亜。が、彼女は遊郭の女郎や裏華町の男達を通じて徐々にスケキヨへと近づいて行く。一卵性の双子の様に惹かれ合いながら、拒絶を恐れ近づけない姉弟。二人が再び巡り会うとき、島に何が起きるのか…。

    妖しく、おどろおどろしい物語であるはずなのに、全く嫌悪を感じない。何故、この作家は、こんなにも妖艶に、暗闇から濃厚な香りが漂う様な文が書けるのだろう。
    美しいけれど見てはいけない物に魅入られてしまった様な、この後ろめたい感覚は何だろう。この本は、自分だけがこっそりと読んでいたい、あらすじを追っても意味が無いと言う気がして来る。
    たちこめる、様々な香りに酔っても、現に戻る術を用意してから読まないと、心の中の隠しておきたいもう一人の自分が、神隠しに会う、そんな感じの本だった。

  • デビュー作なのをこちらの感想で初めて知りました。どろり(ドロドロではなくどろり)としたお話。それにしてもなんでお名前スケキヨにしたんだろう。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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