何もかも憂鬱な夜に

著者 :
  • 集英社
3.38
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本棚登録 : 1013
感想 : 184
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087712872

作品紹介・あらすじ

なぜ控訴しない?-施設で育った過去を持つ「僕」は、刑務官として、夫婦を刺殺した二十歳の未決死刑囚・山井を担当していた。一週間後に迫った控訴期限を前にしても、山井はまだ語られていない何かを隠している-。芥川賞作家が、重大犯罪と死刑制度に真摯に向き合い、生きる者と死にゆく者をつなぐ最後の希望を描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 難しい本やった。
    死刑制度については他の本も読んだことあるけど、この本ほど考えさせられたものはない。
    刑務官の視点からの死刑制度。ものっすごく考えることが多かった。
    一概に、犯人が悪いのではない、というのともかなり考えさせられた。
    ほんまに、難しい本やった。

  • 重厚な話だ…。130ページくらいなのですぐに読み終わるんだけど、色んなことを提示してくる。純文学だ…。すごすぎ。
    刑務官の主人公がずっと自分の中にバグのようなものを感じ続けていて、それが表出したとき自分はこの柵の向こう側に行くんじゃないか…という恐れと毎日戦う話だと思いました。
    でも、柵の向こう側に行くことを恐れるのは人に大切にしてもらった温かさを知っているからだと明かされる後半が見事。

    前半に上司が死刑制度が定量的でないことを批判するシーンがあって、ここがしんどくて何度も休憩しながら読んだ。「刑務官は殺した者と殺されたものの間に否応なく入ること」のくだりが本当に…人を絞首台に力ずくで連行する仕事が世の中にはある。
    死刑って「死をもって償う」なのか「生きているべきではない」なのかがごちゃごちゃになってるんじゃないか。

    途中「こころ」のオマージュっぽい絶望的な手紙が挟まるんだけど、最後には希望の見える手紙が書かれて良い対比になっていた。希望の持てる結末にしたのは作者の現実への祈りや抵抗だと思う。

  • タイトルの通り、寝る前に読了したおかげで本当に"何もかも憂鬱な夜"になってしまった。

    施設出身の主人公が、刑務官として夫婦を殺害した犯人を担当していくなかで自分の過去や犯人と対峙していく物語。

    ずっしりと重い。
    そして、現実にもこういうことってあるんだろうな、とはっきり認識させられる。
    暗くて読んでいてつらいので星は3だけど、構成や文章力はさすがの一言。

  • 重かったーそして読みにくかったー
    死刑には興味があるので、その点は別に重くはなかったけど、時系列が変わっていくので少々分かりにくかった。

    山井と主人公の話をもう少し深掘りして欲しかった。

  • 死刑。
    これはずっとずっと考えても答えが出ない問題で。でもなんとなく死刑廃止論信者だった私の曖昧な考えに、この本は新しいヒントをくれた気がする!
    中村さんの多くの本のテーマとなっている、命。命は尊いものだから、誰の手によっても奪うことはできないから、死刑は廃止されるべきだというのは、もちろん道理にかなってて、その通りなんだけど、中村さんはこう書いている。
    命はアメーバだと。ニンゲンなんかが誕生する以前から、途切れることなくずっと続いてきた。その過程の何か一つでも存在しなかったら今はない、今に勝る過去はない、と。
    死とは、これまでの全ての命とこれからの新しい命を全て奪うものなんだってことを中村さんは言いたかったのかなと私なりに解釈しました。
    だから死刑は良くない。さらに、こうも思う。
    私は犯罪者になったことはないけど、誰しも経験したことがあるだろう、眠れないほど辛い何もかも憂鬱な夜にただ死んでしまいたいと願うのではなく、罪を犯したものは私たちがそうやって感じた何万倍もの苦痛を、考えて考えて考え抜くべきだ。
    答えはきっと出ないけど、罪の償い方とは死ぬことではない、自分の犯した罪を後悔し、もう生きていけないと思うほど考え抜くことだと思う。残酷かもしれないけど、中村さんも言うように、犯罪者の命とその罪を犯した者の人間性は違うから。恨むべきは命ではなく、その個の中身そのものなのではないかと思った。

    まだまだ死刑に対する考えはまとまらないし、どれだけ考えても足りないと思うけど、新しい視点を与えてくれたこの本を読んで本当によかった>_<中村さんの作品は、本当にいろんな人に読んでほしいものばかりです。

  • 孤児として施設で育ち、屈折した思いと闘いながら刑務官として働く主人公。
    そしておそらく、主人公自身もお互いに無意識のうちに自分を重ね合わせている、死刑判決を受けた山井。
    死刑制度について語る上司。
    仮出所中に犯罪を犯す佐久間。

    短いストーリーの中に、人間の深淵に関わるテーマがちりばめられていて著者の意欲が見えるが、死刑制度については私もちょっと考えるところがあるだけに、やや散漫に見えた。
    ひとつひとつはとても重く深いはずで、主人公の屈折もこのままではちょっと説得力に欠ける。最後も突然主人公が殻を突き破ったようで、若干唐突感があり残念。

    ただ、著者も意識したという湿った感じ、ねっとりしたじめじめした感じは全編を通して漂い続け、読み手を絡め取る。
    また、死刑制度について語る上司の言葉は、この制度のもつ本質的な問題点を突いていて非常に説得力があり、この上司の言葉が同時に著者の死刑に対する考えであるといいなと個人的には思う。

    とても惹きつけられる作品ではある。
    もっと描き込んで欲しかったという残念な思いが残る。

  • タイトル通り、明るい話ではないのですが、いい本を読ませてもらったなぁと、不思議と心地好くなりました。
    自分の抱える暗く澱んだ、公言したくないモノを、自分じゃない誰かも…もしかしたらたくさんの人も覚えがあるのかもしれないという、安心感。私は死の衝動というものを外に向けることは全くないしこれからもないと思うけど、純全なる善意というものにとても憧れた。(ここは『人間失格』にも通ずる何かがある)
    真下のノートに、少しでも共感を覚えない人間になりたかった。そうだよね。そうだよ。フルバの透君みたいになりたかったなぁ。
    13階段を読んで以来、死刑という言葉をニュース等で聞く度、刑務官のことを含めちらと考えるようになった。普通の人間に、人間を殺すということは多大なストレスがかかるはずだと。個人的に死刑制度には賛成派ですが、執行する側の気持ちは?とか、本当にそれが最適な刑に成りうるのか?とか。
    結局のところ、本書に出てくるように、生殺与奪の権を本来人が持つべきではないから、矛盾がどうしても出てくるようになっているのだろう。…割り切れないように、そしてだからこそ、誰かが考えつづける問題であるべきなのだろう。
    年若い人間が犯すという理由で刑が軽くなるのは納得できないと思う。だけど、与えられた時間が少なく、得るものを得るための時間が充分に無いまま死刑になるのは、極刑であるはずの死刑の意味も軽くなってしまうのではないかな。
    …刑は結局の所、罪への罰でなく、善良な市民への戒めや、報復の代行にならざるを得ない気もする。…難しい問題。

    中村さん、『掏摸』という本が気になっていたので見覚えはあったのですが、初読作家さんだったのです。『第二図書係補佐』で紹介され、読む機会を作れました。又吉さんに感謝。

  • 殺人衝動や破壊衝動を持つ人たちの気持ちが生々しかった。展開は思ったより普通で、テーマの重さの割にサラッと読めすぎて物足りなかった。

  • タイトルは好きだけど、内容は・・・
    あまりにもエンタメ性が排除され過ぎてる気がして、入り込めなかった。幼少期を施設で育って、というのもこの作者では定番だし、死刑制度を語るくらいが目新しい部分かなという印象。

    「考えることで、人間はどのようにでもなることができる。世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる。」


    2015.8.26

  • 重いテーマだけれど一気に読めた。物事をひとつの角度から捉えることはできないと思うし、考えさせられるけれど、ひっかかるところがあったのも事実。自分の中に眠っている感情や心の奥底にあるものと対峙できるようになりたいと思う。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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