床屋さんへちょっと

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713107

感想・レビュー・書評

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  • 大事な仕事の前。大切な人に会う前。人は髪を整える。

    身だしなみを整えるのは自分のためでもあるが、相手のためでもある。

    人に対面する際、過剰に着飾る必要はないが、きちんとした姿で臨むのはマナーである。逆に、だらしない姿で構わないというのは、相手に対してモチベーションが下がっているとも言える。

    床屋は(女性にとってはヘアサロン)そういった心掛けから通う場所なのかもしれない。

    新年を迎える前に。大切な人とお別れした時に。前を向き、新しい自分になるために向かう。

    行きつけの床屋の思い出と家族の歴史がリンクする。墓の購入、会社の倒産、転職、結婚、離婚…少し切なくて、あたたかい読後感。

  • かつてお菓子工場の二代目だった、
    73歳になる
    宍倉勲(ししくら・いさお)。

    真面目で天然な勲の物真似が得意な
    天真爛漫な妻の睦子(むつこ)。


    女性だけの会社を経営する
    41歳の出戻り娘、
    香(かおる)。

    香の息子で
    6歳になる勇(ゆう)。

    香の旦那だった
    調子のいい男、
    布田透(ふだとおる)。



    物語は章を追うごとに過去へとさかのぼり、
    元社長だった勲が
    何故会社を手放したのか、
    娘や家族たちの歩んできた道のりなど、
    少しずつ宍倉家の謎が
    解き明かされていく
    連作短編集になっています。



    30年振りに行った
    行き着けの床屋。

    娘に散髪してもらう父の感慨。

    アイパッチに義手をした熱帯の国の
    怪しい床屋。

    テクノカット発祥の地の可笑しさ。


    などなどタイトルの通り
    どの話も散髪や床屋での
    印象的なシーンが出てきて
    ホッコリさせてくれます。



    昭和の時代、
    髪を切るという行為は
    どこか神聖さがあって、

    床屋は襟を正したり
    気分転換したり
    新しいスタートを切るための
    厳かな空間だった。


    人生の中の句読点のように、
    人は旅立つため
    生まれ変わるため
    気合いを入れるために
    髪を切り、
    古い自分、不甲斐ない自分を洗い流し

    その都度、
    心正してきたことに
    この小説で改めて気付かされました。



    ラストの一話で
    時は現在へと戻り
    すべての話が繋がる奇跡は
    じんわり涙腺を刺激します。


    初めての作者だったけど
    嫌みのない文章で
    父と娘の一生を高速で振り返る構成は


    人生の背景には
    いつも沢山の人たちがいて
    一人ぼっちに思えても
    ホンマはそうじゃなくて、
    いろんな人たちに
    影響を及ぼしながら
    世界はできてることを
    鮮やかに見せてくれる。



    イメージとしては
    中井貴一主演で
    ドラマ化して欲しいなぁ(^O^)

    そして棒つきキャンディ
    『ナメタリーナ』の商品化期待してます!!(笑)

  • 父が起こした製菓会社を潰してしまった2代目社長宍倉勲の半生の連作短編集。
    引退し、自分の墓を探しに行く話から始まり、時代を遡りながら話は進んでいきます。各話には、床屋と娘と潰してしまったシシクラ製菓が必ず寄り添い、勲の人となりを語るキーとなっています。

    勲自身が、個性がなく先代社長に見劣りすると思っていた自分。
    最後の章は娘香目線で語られますが、天然だけど、カッコ良かった父、葬儀には、びっくりする程の人が集まった人徳のあった人だったという話には、読者目線では、もうわかってたよーと、鼻の奥がツーンとして仕方がなかったです。
    香じゃないけど、最後は泣き笑いで読みました。

    著者の作品の良さが爆発した、素敵な話。
    大好きな本となった1冊です。

  • 短編が過去にさかのぼっていく形式が初めてだったので新鮮だった! 短編の中にあるちょっとしたネタが次のお話に続いているので、「あっ」となるのが楽しい。 写真では少し泣いてしまった。

  • 【図書館本】これは今の私にとって大当りだったなぁ。父娘の人生を、より身近に知ることができたなという読後です。世の中には色んな年代の人がいるけれど、みんな若い時代があって、社会の厳しさや理不尽さなどに打ちのめされるそうになる。当時の自分には味方なんかいないと思っていても、その人にとって、その時々の精一杯のことをやってきたことが、ちゃんとどこがで誰かが見ていて、ひそかに慕っている人がいる。それは、苦しくも亡くなって始めてわかるようなこともある。それでもその人が一生懸命に生きていたからこそなんだろうな。

  • やっぱり山本幸久さんの本は読みやすい。するすると懐に入ってきて寄り添うように物語が展開される。読めば読むほどに味が出てきて。
    床屋さんを軸に時系列があっちこっちと流れていくので整理しながらは難儀したけれど、そこを差し引いても心がほんわかする。
    登場人物それぞれがみんな温かくってとても優しい気持ちになれた。
    古き良き時代から現代への変遷も良かったと思う。

  • 再読

  • 一度会社を潰した主人公の現在から過去への回想録。勲(主人公)と登場人物との関係性が、時間軸を通して分かってくる。

    家族って何だろう?父親と娘の関係とは?仕事とは?を涙あり、笑いあり優しいタッチで、大変だったことも懐かしい思い出に変えて教えてくれる。

    愚直とも言えるほど真っ直ぐにそして不器用に生きて来た主人公に対して、娘や関わった人達が親しみと尊敬の念を抱いて接しているところが微笑ましく、特に辛い局面の時「悔しくても泣くな!可笑しいことを考えて笑え!」の言葉は、逃げずに立ち向かえといったエールにも聞こえ、とても心に響いた。

    床屋さんが現在と過去をつなぐキーになっていて、それがまた気持ちをほんわかとさせてくれている。最後はうるうると泣いてしまった。

    オススメの一冊。

  • ほのぼの。

  • 街かどに必ずある青と赤と白のポール。張った伏線をしっかり回収していておもしろかった。

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著者プロフィール

山本幸久
一九六六年、東京都生まれ。中央大学文学部卒業。編集プロダクション勤務などを経て、二〇〇三年『笑う招き猫』で第十六回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。ユーモア溢れる筆致と、魅力的な登場人物が読者の共感を呼び、幅広い世代から支持されている。主な著作に『ある日、アヒルバス』『店長がいっぱい』『大江戸あにまる』『花屋さんが言うことには』『人形姫』などがある。

「2023年 『あたしとママのファイトな日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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