十四歳の遠距離恋愛

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 402
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713299

作品紹介・あらすじ

ロリータでトイザらスな女の子と昭和のガキ大将のような男の子が初めての恋をする!無力だけれども一生懸命。十四歳のリトルロマンス。

感想・レビュー・書評

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  • 藤森君も、主人公の仲葦も方向性の違いはあれどとにかく自分に誠実。
    ただ、その嘘のつけなさは歳を重ねれば重ねるほど「恥ずかしい」と嗤われてしまう。ちょうど思春期に折り合いをつけて大体の人は右ならえで流されていく。必死に2人が恋愛をしてもがく姿は、なにか大きな流れに抗うようでカッコよく切ないです。

    コテコテ過ぎる名古屋弁の藤森君が可愛くて読んでて笑ってしまいます。愛知県民としては馴染み深いことが沢山出てきて大好きな作品です。

  • ロリータを着なくなる日



    嶽本野ばら程、好き嫌いの分かれる作家も珍しいのではないだろうか。過剰装飾な文体、ロリータな主人公、何より目を惹く作家本人のファッションと言動。(ちなみに、誤解している人も多いようですが、野ばらちゃんは男性です!)ノバラーと呼ばれる熱狂的なファンを生み出した一方で、敬遠している人も多いのではないだろうかと思う。

    そんな中で『十四歳の遠距離恋愛』は、比較的手に取りやすい一冊だ。十四歳のロリータな女の子が、昭和のガキ大将みたいな男の子に初めての恋をするお話なのだ。

    主人公の若さゆえの、がむしゃらさ、純粋さ、滑稽さ、愛おしさが溢れていて、胸がぎゅっといっぱいになる。そして、それはやがて失われてしまうものとして描かれる。

    “乙女のカリスマ”である嶽本野ばらは意外なことに、少女を容赦なく成長させ、ロリータ服への興味さえも失わせてしまうのだ。

    それでも、おこづかいを貯めて買った服を、大切に大切に着る少女の姿はあの日の私と同じで、胸を熱くさせる。

  • 私に「ロリータ」と「我を貫くこと」を与えてくれたのが嶽本野ばらさん。『世界の終わりという名の雑貨店』を読んだ時の衝撃からちまちまと、それでも必ず全作品を読もうと決めている作家さんです。
    で、野ばらさんの様々なタイプの作品を読んでいくと、「好きなタイプ」の話にもちろんぶち当たります。まさしく本作がその系統だったのでした。(個人的には同系統の他の作品として『ミシン』『エミリー』『ハネ』などの作品が今ぱっと思い浮かびましたが、これらの作品には我を貫く女の子たちがもれなく登場するんですよね。自分を無力を責めたりしながらも、自分自身を信じて突き進む、「ちょっととやりすぎ?」かと思うところまで行く。でも進む。そこに絡んでくるのがロリータでありバンドであり…それらを全力で追いかけていく、その段階でもう楽しいのですが、『エミリー』や『ハネ』など、ラストは意外と切なかったりするのでますます良いのです。)

    本作の話に戻ります…。本作はまず14歳の恋愛、つまり中学二年生の恋愛の話です。この段階でぴゅあぴゅあ感が滲み出てますけれども、とにかく初々しくて拙くて全力で……野ばらさんのエッセンスがこれでもかと抽出されております。
    仲葦ちゃんはロリータファッションに全力で、しかし情報が少なかったりお金がなかったり迫害されたりして、何も出来ない自分を嫌ったりします。が、それでもネット掲示板で情報集めをしたりお金の使い道を考えたりして自分を磨いていく展開、これが一途で健気でもう好きです。かっこいいなぁとため息が出てしまいます。
    そして藤森くんです。彼がまたかっこいいなぁ。彼もまためちゃめちゃでマヌケな人でありながら、どこまでも真っ直ぐで意思があって、彼のさらっと言った言葉に何度驚かされたことか…!

    あの時はなんでああだったんだろうなぁって、私もよく考えます。確かに2人の恋愛は所詮中学二年生の恋愛だったかもしれないし、その当時は全力でも振り返れば笑い種になってしまうことは往々にしてあることでしょう。私だってそうです。でも、それを懐かしいで済ませてはいけない気がする。後ろめたいからというわけではない。その頃に大切なものを得たと思っているからこそ、懐かしんで過去のものにはせず、両手に握っていたい。本作では時代の変遷と恋愛の変遷とが対照的に書かれていたことも印象深いですが、仲葦ちゃんが藤森くんを忘れられない存在だと思っているように、かつての「ロリータ」という歴史と、それによって培うことのできた「意志の強さ」も忘れられない、忘れてはならない。このあたりにも野ばらさんの哲学のようなものが垣間見られますね。歳をとっても、好きな物は好きでい続ける。我を貫く。自分が生み出した結晶は思ったよりも綺麗なのかもしれない。そんなことを思い出させてくれるような作品でした。

    最後にどうしても引用しておきたい部分を。ラストの文章の熱量はやはりどの作品をとっても素晴らしいです。

    「知っている。世の中が中学生だからといって大目にみてくれないことなんて、充分に知っている。中学生だからといって金券ショップで二〇〇〇円の青春18きっぷを一五五○円にしては貰えない。小学生なら子供料金、半額でJRに乗車できるのに中学生になったら大人料金を取られる。だけ十八歳になっていないという理由で、コメ兵では買い取りを断られる。何なの、中学生って⋯⋯。十四歳って⋯⋯。世の中の規則ばかりじゃない。家での規則も高校生にならないと、お年玉も自分名義の郵便貯金も自由に使ってはならないと決められている。中学生は恋愛をしてはいけないのですか? 一番大切な人が絶望の果てでしゃがみこんでいる時、傍にいてあげようとしてはいけないのですか? まだ子供だから、遠距離恋愛は赦されないのですが? なら、中学生の下着や制服を売ったりしないで下さい。自らの意思で何をする権限もない、自由などない──とするならいっそ監禁しておいて下さい。人を好きになぞならぬよう、誰にも出逢えないようにしておいて下さい。」(p198~199)

  • やっぱり野ばらちゃん作品最高だなあと言った感じ。

    野ばらちゃん作品でよく見られるエロティシズム的表現は今回は使われていない。純愛小説。

    仲葦と藤森の噛み合わないが最高の二人という点においては、下妻物語に通ずる部分がある。
    藤森の面白い言動に笑いながらも、仲葦への真っ直ぐな想いに何度もキュンとした。
    でも一番キュンとしたのは、大会に出られなかった藤森が電話越しに言った「おみゃーに……。逢いたい、でよ」
    藤森は、とんでもないたぁけだ。
    女が本気で恋をすると強くなり、男が本気で恋をすると弱くなるといったような名言を聞いたことがあるが、よく言ったものだ。

    最後に結ばれないのは序盤の書き方から予想がついていたが、藤森から仲葦より好きな人ができたとあっさりと伝えられたのが、終わってしまったんだな。と思って此方の方が少し淋しくなった。
    でもこの恋は、仲葦と藤森の間で、特別な思い出として色褪せる事なく残り続けるんだろうな。
    一生懸命で泥臭い、無謀な遠距離恋愛はやっぱり中学生にしかできない。
    大人の感性を持つ者からしてみれば、この恋愛は綺麗すぎる。
    今から下手に会ったりせず、思い出は思い出として、という言い回しがぴったりだ。

    大切な人に勧めたい。
    野ばらちゃん作品を読み終わる度に言っているが、また時が経ったら読み返しに来ます。 

  • ロリータに目覚めたてでトイザらスな昭和六十一年生まれ中二女子と名古屋弁で柔道馬鹿で浮いている級友男子の手も繋がないデート模様達。お小遣いをPUTUMAYOや交通費に当て、引越による名古屋と東京の複雑な電車移動等も不自由で一生懸命。実在の雑誌やブランドや芸能人の名前の登場が楽しい。ポケベルって難しいんだなあ。

  • 一生懸命でまっすぐで、けれど中学生という年齢が邪魔をする
    名古屋で健全なお付き合いをし、彼が東京に引っ越してもお姉ちゃんのサポート(ポケベル)を手に青春18切符を使い会うふたり。

    みんなが通り過ぎる14歳、誰もがなにかを卒業し大人になっていく。
    けれどいつまでも心に残るものはある。

  • 純粋にドキドキしました。
    トイザらスみたいな女の子と硬派な男の子の恋愛物語。
    藤森くん好きです。
    お金は男が出すもの。
    女の子は守ってあげるもの。
    女の子は強い男が好きだろう。
    告白はロマンチックにするもの。
    今の女の子はそうでもないのよと藤森くんに教えてあげたい。
    でも、藤森くんにはそのままで居て欲しい。
    結婚してほしかったです。本気で。
    でも、14歳で出来てたことが出来なくなる。
    一生懸命を忘れて無我夢中になれなくなる。
    年賀状寂しかったな。。。

  • 野ばらワールドでありつつも、“ツインソウル”感が昔とは違うかたちで出てる、読みやすくて面白い小説だった。
    タイトル通り、十四歳の二人の遠距離恋愛の悲喜こもごもを、大人になったヒロインが振り返る形の物語。
    舞台は名古屋で、きっと名古屋の人なら風景が浮かぶような細かい描写が随所に。

    若かった時代の恋愛を振り返ってみたとき、「馬鹿だったなぁ、でも一生懸命だったな」って少し笑いながら愛しく思える経験ってとても大事だと思う。
    好きという気持ちだけで突っ走れる。その他の余計なことなどまったく考えずに。
    大人になると悲しいかな「その他の余計なこと」ばかり考えるようになってしまうから(笑)、こういう小説を読むと、「好きという気持ち」を大事にしたいと思う。

    主人公はまさしくそんな青春をくぐり抜けてある意味“普通の大人の女性”になり、過去の恋愛を振り返る。
    未練ではない、だけどずっと心に在り続ける人。
    本気で恋愛をしたことがあれば、彼女の気持ちが解ると思う。

  • 青春っていいなと思う。遠距離恋愛の辛さを文章からも感じせられ、心が折れそうになった。こてこての名古屋弁に戸惑ったが内容は面白い。名古屋行きたいなぁ。

  • 周りに同化せず我を貫いている、悪く言えば義務教育であるのに協調性や社会に馴染もうとしていないのでしょうが、「自分の好きなものは譲らない」そんな女の子と男の子が相手に惹かれあうお話でした。学生同士ながらの恋愛の苦労だとか努力が微笑ましかった。

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著者プロフィール

文 嶽本 野ばら
京都府宇治市出身。作家。
1998 年エッセイ集『それいぬ̶ 正しい乙女になるために』(国書刊行会)を上梓。
2000 年『ミシン』(小学館)で小説家デビュー。
2003 年発表の『下妻物語』が翌年、中島哲也監督で映画化され世界的にヒット。
『エミリー』(集英社)『ロリヰタ。』(新潮社)は三島由紀夫賞候補作。
他の作品に『鱗姫』、『ハピネス』(共に小学館)、『十四歳の遠距離恋愛』(集英社)
『純潔』(新潮社)など。『吉屋信子乙女小説コレクション』(国書刊行会)の監修、
高橋真琴と共書絵本『うろこひめ』(主婦と生活社)を出版するなど少女小説、お姫様をテーマとした作品も多数。

「2021年 『お姫様と名建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

嶽本野ばらの作品

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