- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087713381
作品紹介・あらすじ
勤務先の社長と密かに付きあう華。彼の妻の入院で、ふたりの関係は変化する。そんな華が思い起こすのは「母が死体にキスをした」遠い日の記憶。老いゆく母にも秘められた物語があったのかもしれない。揺れる心を細やかに描く恋愛小説。
感想・レビュー・書評
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かわいらしいタイトルと装丁に、軽い気持ちで読み始めたら、恋愛の苦しさを真正面からがっつり描いていて、思いがけず惹き込まれてしまった。
インテリア関係の会社に勤める華は社長の能見と4年にわたり不倫関係にある。同じ会社の専務でもある社長の妻が病で入院したことから思うように会えなくなった華と能見、周囲の人たちの関係性が変化していく。
華のくるしい内面が淡々と語られる部分が多いが、これが読ませる。会いたい、どうしようもないくらいに好き、そして恩人でもある妻を苦しめているという事実。華は感傷的になるわけでもなく、悲劇のヒロインにはならず、ただ現実をうけいれ、どうしたらいいか悩みに悩み、信頼できる友に打ち明ける。
独特なキャラクターの華の母親がとても良かった。叶わなかった自身の過去の恋愛と突き放したようにも見える娘への信頼。
最終盤まで、華は、能見はどういう選択をするのかと思いながら、あーやっぱりそうなるのかー、というラスト。不倫の是非は置いて、清々しく前を向いて生きる華を心から応援したくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
栗田さん、ほんとに好きだなー。
わざとらしいところが無く、描写も厚すぎず薄すぎず。
こんな身体ごと全部持ってかれるような体験を淡々と書かれると、かえってしみるね。 -
主人公の華は、幼い頃母に連れられ行った見知らぬ葬儀の席で母が死んでいる男にキスをしている場面を胸に抱えていた。
30近くの華はインテリアデザインの会社に勤めており、そこの社長と“道ならぬ恋”に落ちていた。だが、二人の間に束縛はなく、まるで同志のような、半身に出会ったかのような信頼で繋がっている関係だった。だが、その関係は社長の奥さんである専務が病で倒れたことから意味を変化させていく。
奥さんとも華とも別れるつもりのない社長の弱さを愛している華の、自分の心の向かう先をひたすらに見つめようとした、物語。
栗田さんは読むたびに物語の力は輝きを増し、文章力には磨きがかかり、所々に顔を出す突飛なようで的を射た表現の面白さが力強くなっているように思う。どんどん好きになっていく作家さんだ。 -
栗田さんの描く人はいつも、自分をきちんと肯定して生きてる。
だから、こんなつらい話でも、なんだかほっとできる。
すごく好きな文章。
どうにもならないことを、どうにか消化しようとする。
自分の足でしっかり立つ。
そうやって毎日を生きる。 -
コトリトマラズという言葉が好きなのでタイトル買い。まさか不倫の話だとは思わなかったが、文体がとてもやわらかで、あっという間に読了した。主人公の母親のキャラクターが独特でしばらく忘れられそうもない。
さて、コトリトマラズとはメギ(バーベリー)の別名である。ヘビノボラズ、ヨロイドオシとも。不倫というものは、鳥も蛇すらも身を置くことを避ける場所、すなわち自らするどい枝に留まっているようなもので、鎧通しで刺される覚悟で行うものなのだと。そう汲みとりました。 -
寡作の栗田有起さん。他の作品は何度も再読したのですが、この作品は恋愛小説という事で手を出して居ませんでした。何となくこわごわと読み始め。
小さなインテリアデザイン会社で、社長と不倫関係にある主人公の女性社員が、愛とは何かを考え続けるリッパな恋愛小説です。この主人公の思索がなかなか面白い。不倫話と言ってもドロドロしたとことは無く、相談相手の友人や、母親、そして社長の奥さんも丁寧に描かれています。それにしてもやはり栗田さん、全編を通して他作品にも共通する独特の雰囲気~常に湿気を帯びた曇り空の薄明かり~があります。やはり私は『オテル・モル』の様な変わった設定の話の方好きですが、こういう恋愛小説もなかなか良いですね。
ちなみにタイトルの「コトリトマラズ」は表紙に描かれたメギという鋭い棘を持つ植物の別名です。 -
不倫の話ですが主人公との間に距離があるので、あまりドロドロとした雰囲気は無いです。罪悪感と恋心の板挟みで体を壊しそうになっていて、苦しい、というのが強く伝わってくる。
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世間でよくある不倫の話。切なさが伝わってきた。自分ならどうするだろうと考えたりした。
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色々な気付きがあった。関わった人全てひっくるめて結婚。
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ざっくりまとめてしまえば不倫の話。さらに言うなら私は不倫絡みの話は嫌い。
だけど、この作品は感動した。
リズミカルなセリフの応酬には、本当にセリフだけ。その他の描写はまったくなし。誰のセリフかの説明もない。
かと思えば、誰かのセリフが数ページにわたりつづく。それもまたセリフのみ。描写なし。
脚本の方がまだ説明きちんとされてますね、と思ってしまうくらいに潔い。
逆に、新鮮で面白かった。
主人公、華の同僚であり友人カヨちゃんの途中のセリフ。あれが良かった。何の描写もないのに、その顔や声がまるで隣にいるみたいに伝わった。
真心をこめた言葉って、すごい威力だな本当に。
さらに、私の嫌いな不倫をしている主人公、華。
彼女のぐるぐるした思考が好ましかった。
悲劇のヒロインのように酔いしれず、冷静に分析したり、わけもわからず涙がとまらなかったり。
言い訳もしないけど、無理矢理言い聞かせない。
ナチュラルなその様子がいじらしかったり、かっこよかったり。
ただひとつだけ欲をいうならば、ラストがなんだか半端だったかな、と。
そこ以外で存分に楽しんだから、あえてラストにこだわることもないかもなのだけど、出来たら何らかの形になる流れは見たかった。
でも、この作品は良い。他の作品も読んでみたい。