漂砂のうたう

著者 :
  • 集英社
3.53
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  • (30)
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本棚登録 : 876
感想 : 165
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713732

作品紹介・あらすじ

谷底から見上げた「明治維新」。明治10年。時代から取り残され、根津遊廓に巣食う男と女の身に降りそそぐのは、絶望の雨か、かすかな希望の光か。『茗荷谷の猫』で大注目の新鋭が放つ、傑作長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 直木賞受賞作という期待から接した読者は好き嫌いがはっきり分かれるようです。エンターテインメント小説ではないからでしょう。でも、私は次の2点で大好きになりました。ひとつは唸るほどの文章上手さ、紛れもない純文学的表現です。そして、時代のチョイス。西南戦争の始まりから終結までの明治10年前後の根津遊郭が舞台です。西南戦争は武士の終焉ですし、市井の士族として主人公の「定九郎」に登場させ、喪失感と閉塞感で投げやりな人生を過ごさせています。この時期の士族の感情に触れたのがとても新鮮でした。そして、花魁小野菊は対比的な存在ですね。「自由」を目指した生き方をしています。大半で特段の事件は起こりませんが、後半は直木賞らしくサスペンスがあります。
    ちなみに表紙画は小村雪岱の「春告鳥」。そのチョイス、センスがいいですね♪

  • 本を読むときは、知らず知らずのうちに
    前半で辛い目にあったとしても、最後は胸のすくような展開を期待してしまう。
    これが時代物であればなおさらだ。
    人情ものや、敵討ち。
    現代では書きづらいような設定でも、時代背景を武器にすんなりと話に感情移入できる。


    部屋住みの次男坊だった定九郎は、
    御一新から時を経て、今は根津遊郭の中見世・美仙楼で立ち番として働く身である。
    気品と気風の良さを兼ね備えた花魁の小野菊。
    噺家の弟子・ポン太。
    妓夫太郎の龍造。

    定九郎は遊郭で下働きをしながら、どうにか食いつないでいる。
    賭場で働く山公が「何者かになる」と、生簀の中の生活から飛び出して、
    西の戦へと旅立っていった。
    相変わらずの毎日に不満を抱きながら、それでも何事も起こせなかった自分に
    諦めを感じていた定九郎であったが・・・。


    じりじりとするばかりで、なかなか話は進展しない。
    時は明治10年。
    大きな時代のうねりに取り残された人たちは、
    変化に乗っかることにもためらいもあったに違いない。
    それでも、一人また一人と、一歩を踏み出すのを横目に見ながら
    定九郎のじれる姿が描かれ、読む方にも我慢が強いられる。
    ようやく最後の最後になって、話は動きだす。
    新たな時代へと踏み出す人。
    変わらず今の暮らしを続けていく人。
    変わらないようでいて、心の持ちようの変化が読み取れて、少し安心する。


    「どんなにシンとしたとこでもね、動いてるものは必ずあるんですよ。」(P248)


    「あんた、わちきがここで縛られているように見えたかえ?」(P253)
    どこにいても、何があっても、結局心の持ちようということなのか・・。



    「生きていりゃあ、なんかしら跡が刻まれる。誰でもそうだ。
    だがどんな跡であれ、そっから逃げなきゃならねぇ謂れはねぇんだ。」(P287)

    長い時間をかけ、この言葉に向けて収束していったのか、と
    深く息を吐いた。

    • vilureefさん
      こんにちは。
      コメントありがとうございました♪

      nico314さんのレビューを読んだとき、うーん深いとうなり、自分の書いたレビューの浅さに...
      こんにちは。
      コメントありがとうございました♪

      nico314さんのレビューを読んだとき、うーん深いとうなり、自分の書いたレビューの浅さに恥じ入りコメントできずにおりました(笑)

      nico314さんは時代物お読みになるのですね。
      私はほとんど読まず・・・(^^;)
      遊郭が舞台だと俄然張り切って読むのですが、ふふふ。

      私はこのお話の中では一番龍造が好きですね。
      自分の運命を淡々と受け入れ、腐ることなく生きる姿に惚れました(笑)
      2013/05/26
    • nico314さん
      vilureefさん、こんにちは!

      vilureefさんのレビューにあった、
      >面白かった。後半はぐいぐい引き込まれて一気読み
      と...
      vilureefさん、こんにちは!

      vilureefさんのレビューにあった、
      >面白かった。後半はぐいぐい引き込まれて一気読み
      という言葉を見て、自分が後半引き込まれていたことに気付いた次第です。
      なかなか読み進められないなあと思いながら、いたものですから、
      入り込み始めたことに気づいていなかったんです!
      おかしいでしょ。

      時代物ってサクセスストーリーを期待しちゃうんですよね。
      それでも、最後の龍造の言葉にはずいぶん救われました。
      あの状況でも「腐らない」って、とても難しいことですよね。
      2013/05/26
  • 面白かった。後半はぐいぐい引き込まれて一気読み。

    ミステリー仕立ての時代物といったところだろうか。
    時代小説はどちらかというと苦手分野だけれど、遊郭を舞台にした小説はやはり面白い。

    この作品は栄華を極めた吉原などではなく、文明開化時代の根津遊郭を舞台にしているのが面白い。
    世間では「自由」や「平等」などの新しい概念が輸入され、目まぐるしく世の中が変わっていく中で、旧態依然として廓の中では生簀の中の鯉のようにそこから抜け出せない人々のつらさ、むなしさ、やるせなさが圧倒的な筆力によって描かれている。

    それにしても小野菊花魁はいい女だな~。
    容姿もさることながらその気風の良さ、色気、度胸、かしこさ。
    百点満点でかっこいい!!

    苦手苦手と避けているばかりでなく読んでみるものいいもんだ。
    木内昇、只者ではない!!

    • HNGSKさん
      vilureefさん、はじめまして。いいね、をありがとうございます。
      vilureefさんの本棚には、私も読みたい本がたくさんあって、わくわ...
      vilureefさん、はじめまして。いいね、をありがとうございます。
      vilureefさんの本棚には、私も読みたい本がたくさんあって、わくわくします。この作品は私も読みましたが、小野菊花魁さん、わたしもかっこいいなあーって思いました。
      「一人でもいいから、わっちが根津にいたことを、覚えていて欲しいと思いましたのさ」というくだりとか。

      もしよろしければ、フォローをさせてください。
      2013/01/28
    • nico314さん
      vilureefさん、こんにちは!

      途中までじりじりするばかりでしたが、
      なぜだか後半、本を離せなくなりました。
      何事も起こらない...
      vilureefさん、こんにちは!

      途中までじりじりするばかりでしたが、
      なぜだか後半、本を離せなくなりました。
      何事も起こらないのに、いよいよ機が熟してきたような
      ざわざわする嵐の始まりを感じたようです。

      「すごくおもしろい!読んでみて!」というのではないけれど、
      後から後からじわーっと感じ入るお話でした。
      2013/05/24
  • すごかった。直木賞受賞作品の中の超直木賞だと思う(笑)小説を読むという楽しみを最大限に味わわせてくれる小説。まだ未読で読書が趣味という人には是が非でも読んで欲しい。そして読後の愉悦を語って欲しい。
    どうやら、このブクログやメーターさん、Amazonなどのレビューで歓喜の差が激しいのは奥まで読み込めたかそうじゃないか、らしいから。

    私もどこまで読めたか自信はないけれど、元武士の家の次男であった主人公や惹きのある登場人物たちを根津の遊郭という舞台に乗せ、明治維新後の激動な時代を背景に進んでいくストーリーだけではない魅力を存分に感じた。
    その時代の根津の遊郭の空気を想像させる文章と登場人物たちの仕草の表現、遊郭言葉、それと構成の技。
    話がどんどん進んで行くのに私は主人公の定九郎の葛藤の理由を浅く感じたままで「そのままくさったままで堕ちて行くのかよ」とイライラしていたのに、ラスト近くの龍三の言葉で定九郎がしゃくり上げて泣くくだりで、私も定九郎のように嗚咽とまではいかなくても、思いがけなく涙し、理解した。
    多分それが作者の技のひとつなのだ。
    主人公の思弁はそこそこに、ページを重ねる毎に動向の意味を読者にさりげなく想像させながら主人公と一緒にラストまで導いていく。木内昇さんってほんと凄い。

    ついメモった文章はいくつかあるけれど、p274の「いったい自分はなにに邪魔されてこんな場所まで流されたのかと思い、『時代』という陳腐な答えが浮かび上がる。しかしそれほど密に時代と結びついているという実感は、欠片もないのだ」という文章に激しく共感。
    私も漂砂のひと粒だ。

  • 軽めの幕末人情ものかと思いきやいやいや深かった。
    あの変革の時代の裏側で、歴史には記述されない市井の人々の生き様。背景描写がすばらしい。
    遅読な私が筆の運びの流れに任せて読み進められ読後感も好みでした。

  • 再読。あっというまにこの時代に引きこまれていく筆の力強さ。江戸のことば、花魁のことば、町人のことばが個性を浮き立たせ、明治はじめの遊郭の臭いが漂ってきます。物語は淡々とすすむように見えても、その裏にはたくさんの人生の秘密が隠されています。それを想像しながら読み進みます。どの人物も客観的に表現されるので、誰にも深入りできない事情があることが、リアルにせまってきます。
    花魁同士のやりとりを、一行で覆してしまうドラマ。
    時代に翻弄される市井の人々。人の奥底にある思いを、こんなにも鮮やかに描き出してみせる。木内さんの真骨頂です。

  • 白黒はっきりが好きな人にはお勧めしないかなー
    余計なことは言わない、きれいなすっきりした文章です。
    行間を想像して楽しめる本。

    とはいえ「楽しい」って感じの本ではない。
    ひたすら暗いやりきれない、何か気味の悪い雰囲気が漂っているけど、
    最後の最後にほのかな光が見える。

    過去に読んだ「新選組幕末の青嵐」や「笑い三年、泣き三月」みたいに号泣、とまではいかなかったけど、それでもやっぱり後半からはグイグイ読ませる。夢中になってしまうこの感じ。
    木内さんやっぱり好きだ。

  • 生きていれば何かしらの跡が残る。もちろんいい事ばかりはありゃしない。振り帰りたくない跡もたくさんだ。それでもそこから逃げ出す事は出来ない。反省だとか教訓だとかは別として、いろんな積み重ねのもと、こうして今を生きている。奪われる物なんてのは、せいぜい巾着くらいなもんなのだ。

  • 江戸が終わり、武士としての職を失い新時代から取り残された人々が多くいた時代。遊廓の入口に勤める主人公が逃げることも何者にもなれない自分への焦りと苛立ちと終止葛藤させる話。

  • 明治10年は武士が昔の武家と呼ばれ、時世のお荷物扱い!根津遊郭を舞台とし、元旗本の次男定九郎がなんと遊郭の番頭。優秀であった兄政右衛門との久しぶりの零落者同士の出会いの場面も悲しい。わずか10年の歳月で「世が世なれば・・・」と儚さを感じる。定九郎のうしろ昏さを引き摺る重い空気の中で、龍造の気風の良さ、そして名花女郎の小野菊の気風、凛とした美しさが爽快である。結末近くは分りづらかったが、3年後の出会い場面には救われた気がする。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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