- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087713954
作品紹介・あらすじ
芥川賞作家が贈る、32歳の遠距離共感小説
肌のくすみに抜けない疲れ、ハゲにED疑惑、仕事のストレス──32歳は希望も欲望も薄れていく歳だった。誕生日と苗字と年齢が同じ男女の1年間をユーモラスに描く、傑作長編。
感想・レビュー・書評
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面白いなぁ。
津村記久子さんの本は最近読み始めたばかりだけれど、今のところハズレがない。
とても好み。
時間が経って忘れつつあるけれど、本作は表題の"ワーカーズ・ダイジェスト"と"オノウエさんの不在"の二作が収録されている。
ワーカーズ・ダイジェストは、同じ生年月日の佐藤という男女が出会う物語。
ちょうど最近、夫婦同姓が行きつく500年後の未来は日本人全員佐藤さんという話を聞いて、なんだかタイムリーな感じもした。
食べ物がやたら美味しそうだったなぁ。
あとは、仕事で関わる人との地味なんだけどものすごい大きいストレスを感じる描写がリアルで、読んでいるこちらまで胃がキリキリしてきたことを覚えている。
小説の中に出てくる女性同士の友人関係にあまり共感したことがなかったのだけれど、今まだ読んだ本の中で一番私と私の友達のやりとりに似ていてぐっと主人公との距離が近づいた気がして嬉しかった。(クリロナが出てくるたびに、イケメン、イケメンと義務的に冷やかすところ)
終わり方が結構不意打ちで、もうあとほんの少しだけ先の展開を知りたかったとは感じた。
オノウエさんの不在は、最後までオノウエさんが出てこないまま、彼に対する周囲の反応や扱われ方でオノウエさんの人となりがだんだんわかってくる展開。
学閥には属さない分、仕事で実力を示しある程度上まで上り詰めた、学閥外の後輩たちの希望の星であるオノウエさんはなぜ重役を外されるのか、みたいなお話だった記憶。
こちらは、前作と異なりとても満足感のある素晴らしい終わり方だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日々の他愛もないこと、でも思い出しとわーーーって叫びたくなるようなこと。色々なことに折り合いをつけて生きていく登場人物たちはすごいと思う。
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津村記久子さんの語り口が好きになって、どんどん読んだ。仕事に対する思いが、32歳の男女の立場から交互に語られていて、興味深かった。仕事は人を成長させるのだなと思い、私も日々頑張ろうと思った。
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32歳の男女を描く、「ワーカーズ・ダイジェスト」と、短篇「オノウエさんの不在」の二本立て作品。
ネットでレビューを先に少し読んで、(自分も年齢が近いこともあり)気になって手に取りました。
感想としては、
・関西が舞台(関西弁も登場し、地元民には分かる世界観が展開されている感じ)
・メインの登場人物がともに32歳、独身、佐藤という名
・とくに仕掛けや繋がるところなどはない
・連続ドラマみたいなほのぼの感
といった感じでした。
「最終的に二人の佐藤さんがどうなるのか?」という観点では、ほのぼのしたり同調したりしながら見守っていて面白かったですが、私はSFやミステリを読むことが好きだからなのか、
「なぜ重信はゴミ屋敷寸前の部屋に住んでいたのか?」「千珠香が助手をしている大御所とは」
「冨田さんのその後は?」
「湯川さなみと夫の関係って……?」
と、疑問に思うところが多々あって、しかもそれらは全く本筋には関係なく流れていってしまう(結局どうなのかはわからない)というところにもどかしさを感じました。
提示される「?」に応えの示されない小説というものもあるんだな、と勉強になりました(笑)
「オノウエさんの不在」に関しては、こういうことが、世の中では珍しくないし、会社を支えた人であっても、会社(という組織)にとっては一つの駒にすぎない、という印象を受けました(もちろん、オノウエさんの意向かもしれませんが……)。
本文には関係ないことですが、表紙絵が持ち歩いたりカバー掛けずに持っていると気まずい(?)感じで、私は好きではなかったです。
「そうそう、こういう人いる!」「大阪駅ってこういう感じだよねー」(自分も同じ年代)という感じで共感できる方には、面白い作品です。 -
ずっと読みたいと思っていた津村さんでしたが、最初に手にとったこの本が、偶然にも今の自分にぴったりで、本の引力っておもしろいなと感じてます。
まず、冒頭のシーンで朝起きる際に8分のスヌーズを設定、なんてまさに私だ。おまけに主人公は私と同年代で32歳の働く男女。
ちょっと面倒くさい職場の人間関係とか、意味わからない理不尽なクレームとか、働いていれば「あるよねぇ」と思わず思うようなことのオンパレード。
物語はリアルな日常を描きながら淡々と進んでいって、気付くと1年経っていて「ああ、もう1年経ったのか!」と思うところまで現実と同じ。
本書では年齢も、苗字も、誕生日も同じ男女が偶然出会う場面があるのですが、そこからいきなり恋愛が始まるなんてことはなく、だけど互いにちょっと心に引っかかっている。そんな出会いってありますよね。
人の縁とか出会いっておもしろい。
それから、このままだと人間関係が先細りしてしまうのでは、という慢性的な危機感とか、長年付き合った恋人と別れた後の元恋人との距離感とか、自分の中で漠然とわかるなぁと思うものが言葉になって並んでいるのを見て、そうそうそういうことなんだ、と膝を叩きたくなる気分でした。
鋭く胸に刺さるわけじゃないけど、そっと意識の端に残るような言葉が溢れています。
「オノウエさんの不在」では、まだ見ぬオノウエさんの芯が通ったかっこよさに痺れました。
気合だ、とか言うんじゃなく、無駄な建前を言わず、実地的なものの見方をして細かい対処法を示してくれる先輩。頼もしい。
劇的なドラマがあるわけじゃないけど、今の自分をどこか肯定してくれるようにも感じるこの静かな読み心地は、ちょっとツボにはまるかもしれない。 -
仕事の関係で偶然出会った二人の佐藤さん(同い年の31歳で誕生日まで一緒)。1人は女性でデザイン事務所勤務&フリーのライター、もう一人は男性、建設会社に勤めている…。.
津村さんの小説を読むと、“働く”ことに対して、自己実現だの、夢だの、なんて言ってる場合じゃないんだな、と思えて、でも、じゃあ、仕事をしている自分の日常はただの暗い日々なのか、ということでもないんだよね。
女・佐藤さん(奈可子)は、仕事の内容に関してはなんとかやれていると思いつつ、職場の女同士の人間関係ではチリっとくることの多い日々。また、仕事相手の他社の男性が、最初はいい関係だと思っていたのが実は、暗に尊敬を求めているらしい、ということが徐々にわかってきて、そのアプローチのねちっこさに辟易している。
また、男・佐藤さん(重信)は、受け持ちの建築現場の騒音被害を受けているというクレームに振り回され、しかもそれは中学の同級生らしく、重信個人に対する嫌がらせと思われる、と気づき始めるあたりが、そのわけのわからなさが気持悪いというか、仕事ってそんな風にどこからイヤな風が吹いてくるかわからないところがあるよね、というか。
奈可子と重信の話が交互に語られて、元々、大阪出身の二人が段々に近づいていく展開が面白い。
少女漫画なら当然、ここで二人に恋が芽生えることになるのだけど、(そうなってもいいな、と思った)そこは津村さん、ということで・・・。
津村さんって、仕事に生きがい、というのでもなく、じゃあ、恋とか結婚で幸せに、というのでもなく、日々のあれこれ、やってくるものは、はいどうぞ、あるいは、まぁ、ちょっと脇に置いとくか、みたいに淡々と受け止めたり、やり過ごしたりする人なんだろうなぁ、と思う。
で、じゃあ、何も面白くない話か、というと、それが面白い、というところが、なんていうか、面白いところで・・・。(汗)(#^.^#)
ただ、正直、私が津村ファンとなったのは、
「とにかくうちに帰ります」 からなので、この「ワーカーズ・ダイジェスト」を含め、それ以前の作品は、まだちょっと試行錯誤中、みたいな感じを持ってしまう。
「ウエストウイング」
「これからお祈りにいきます」
と、最近の作品は出すたびに、私の中ではヒット(#^.^#)で、
津村さんの実際の最初の職場でのパワハラ経験の呪縛(と言ってしまうけど)から抜け出るためには随分何作もの小説を書かなければいけなかったんだなぁ、なんて勝手に分析してしまっている次第。 -
こんなに共感できておもしろい小説ははじめて。
おそらく、主人公2人が勤め人で、自分と同じくらい疲労が蓄積されていて、自分と同じくらいの金銭感覚で、日常の楽しみにするもののレベルも同じくらい(スパカツ、ナスビオンナスビ)だからだと思った。
好きだなと思った言い回しや表現も多かった。
・眉をよせて、歯を食いしばって、ゆっくりと、そしてわりにあっさり起き上がる
・眠ることを等級付けするなら
・とりあえずラッセンではない、と思う。我ながら最低の消去法だと思う。
・どこで誰に心の廃棄物を捨てれば適切かよく分かっている
その時その時のベストを尽くして明日も働こう〜!
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2022年初読み❕
津村記久子さん、今年もどうぞよろしくお願いします。 -
仕事の打ち合わせで初めて顔を合わせた二人の男女。名字と生年月日が同じという偶然に驚き、 打ち合わせ後も
食事に入ったお店で偶然出くわす。似ているような、そうでもないような彼等。
32歳と働き盛りの年齢ながら身体の衰えを感じ、仕事のトラブルに追われ、人間関係に悩む…。
世の中にはもっと辛い仕事もあるし、もっと深刻な悩みを抱える人もいるだろう。
他人から見たらちっぽけでも、本人にしてみれば脳内ほとんどを占める重要事項なんですよね。
働いて働いて我慢して、時には爆発して。そんな彼等を思わず応援したくなるような一冊でした。
地味なんだけどクスッと笑える、津村さんのそういうところが好きだなぁ。