いねむり先生

著者 :
  • 集英社
3.57
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087714012

作品紹介・あらすじ

作家にしてギャンブルの神様、色川武大と過ごした温かな日々-著者自伝的長編小説の最高傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 全編にわたってあふれる主人公の「先生」への敬愛。
    でも、それは、いつもいっしょにいる・・・というものではなく、
    すべてを語るのでもなく、すべてを知ろうとするものでもなく、
    ただ、先生の存在を愛する。
    先生が喜んでくれることを喜びとする。
    先生を守りたい。
    先生が先生らしくあることを大切にする。

    人を大切に想う・・・ということは、
    こういうことなのだ、と、そっと教えられた読後感。

    もっともっと、わかりやすく師弟関係の愛情物語と
    想っていたら、少し肩透かしかもしれない。
    けれど、実際の心地よい人間関係とは
    こういうものである、これがいいのだ・・・
    そんな、あたたかい読後感があった。

  • 伊集院静 「 いねむり先生 」 夏目雅子の死により絶望していた伊集院静が 色川武大との日々から 普通を取り戻す自伝的小説

    先生(色川武大)とサブロー(伊集院静)の共通性
    →2人は出会うべくして出会った感じがする
    *ギャンブルに安堵を求めている
    *孤独、父との確執
    *べったりの関係でなく、優しい繋がりを求めている
    *精巧に描こうとするほど 実物から離れていく
    *自分を贋物と思っている→ 社会は 本物もいれば、贋物もいるから 面白い

    絶望の受け入れ方
    *人は病気や事故で亡くなるんじゃない。寿命で亡くなる
    *正常なリズムで過ごしているから人間は普通に生きられる
    *正常なリズムを取り戻すには 人との繋がり、人からの癒し が必要

  • 作家・伊集院静の自伝的小説。
    ナルコレプシーのため、いねむりばかりしている「先生」(=色川武大)と、妻を亡くして荒れた生活を送っている「サブロー」(=伊集院静)の交流、そして2人の友情が織りなす再生の物語である。

    個人的な話になるが、色川武大を知ったのは受験生の頃。同級生の友人に教えてもらった。ギャンブルについてのエッセイだったはずだが、書名が思い出せない。ただ、意外なほどに普遍的なことを語っていて、勝負事の極意などまったくわからない自分が読んでも、すとんと腑に落ちた覚えがある。麻雀小説は阿佐田哲也名義で書かれているが、自分の中では色川武大として記憶に残っているので、そのときの本も多分、色川武大名義だったのだろう。
    以来、大きくて温かで、でもどこか闇を抱えた人、という印象がある。

    本書に描かれている「先生」は、いろんな人に好かれ、チャーミングで魅力的だ。「サブロー」も会ってすぐ、その魅力に惹かれている。ごついけれどユーモラスで、懐が深くどこかかわいらしさのある先生は、交際範囲も広い。博識でしかし偉ぶらず、芸人や裏家業の人たちにも顔なじみが多い。
    「先生」には様々な顔があることに「サブロー」は気付く。賭け事と先生。純文学と先生。ジャズや映画や大衆芸能に通じた先生。その他に、「サブロー」には理解できないような交際相手にはまた別の顔を見せているのだろう先生の奥深さ。
    「先生」も「サブロー」も、狂気とギャンブルという2つのものを引きずっている。それゆえの、淡くて深い絆が2人を結びつけている。それは損得ではない、年齢を越えた友情である。

    読後、つないだ手を離した後のような、ぬくもりとかなしさが残る佳品である。


    *伊集院静は初めて読む。自身の幻覚の描写、また賭場の先生を描く場面の切れ味に凄みを感じる。

    *作中に出てきた『狂人日記』を読みたいような、今はまだその時期ではないような。もうしばらくは、リストの中に置いておこうかな。

  • 人間 伊集院静。
    立派な人じゃなくていいんです。
    でも やはり人は愛されて生きていくべきです。

  • 作家、色川武大と著者の交流が書かれた自伝的小説。夏目雅子さんのご主人だということで興味がありました。夏目雅子さんが亡くなられた後、辛い日々を送られてたんですね。精神的なものからくる発作にも悩まされてた。そんな中、色川さんとの交流が著者の心を癒していった。色川さんの憎めないチャーミングな性格がよくわかりました。精神的な発作が具体的に書かれてあり、それはしんどいだろうなと思った。

  • 文学作品としては、あまり評価できない。伊集院静という人にとっては、どうしても書いておかねばならない物語なのだろうが、文学的結晶度はない。
    しかし私自身としては、色川武大のファンとして大変面白く読んだ。色川武大の狂人日記を読む際の参考文献にもなるだろうと思う。

  • 本書では実名は明かされないが、「いねむり先生」は作家の「色川武大」。別の名を雀聖「 阿佐田哲也」。前者は「狂人日記」「百」などの純文学の作品を著し、後者は映画化もされた「麻雀放浪記」がある。

    本書は著者 伊集院静(本書では「サブロー」)といねむり先生(作家の色川武大)が亡くなるまでの2年間のほんの短い期間の緩やかで穏やかな交流が描かれている。サブローの妻は超売れっ子女優。結婚してしばらくして妻は不治の病に罹り亡くなる。失意のどん底での生活は悲惨で、アルコール依存症に陥り、神経を病み、暴力をふるい、仕事もせずギャンブル中心の無頼な生活を送っている。そんな心身ボロボロの時に知人から先生を紹介される。先生のことをよく知る人は敬愛と親しみを込めて「いねむり先生」と呼ぶ。時と場所を選ばず前触れなしに深い睡魔に襲われる「ナルコレプシー」という奇病を持ち、競輪場であろうが麻雀の最中であろうが深い睡眠にストンと入ってしまう。それ以外にも驚嘆すべき特異性ー容貌魁偉で大食で先端恐怖症ーを持つ。笑ってしまったのは、先生と一緒に競輪場を巡る「旅打ち」の旅に出た際、新幹線の車窓から富士山が見えた途端、先生の鼓動は激しく脈打ち、異常をきたし、サブローは慌てふためき、車掌に緊急停車を申し出ようとする程。富士山のあの美しい円錐形がダメな先生。

    先生とサブローは初対面からお互い惹かれるものを感じ、親交を深めて行く。ある時サブローは激しい幻覚に襲われる。先生は発作に苦しむサブローの手を握り、「大丈夫だよ」とささやく。このシーンを読んだ時、胸が熱くなった。彼を落ち着かせようとして思いつきで吐いた言葉ではなく、サブローの辛さを引き受ける愛情から出た言葉。幼い頃、熱を出して寝込んだ時、かかりつけの医者よりも母親が傍で何度も手を額に当てて看病してくれるのが、一番心強くて一番の特効薬であったように。

    様々なシーンを通して先生のチャーミングぶりが伝わってくるが、冒頭にこんな一文がある。「その人が、眠むっているところを見かけたらどうかやさしくしてほしい その人は ボクらの大切な先生だから」。

    本書を読みながら「優しさ」とは何なのか?を何度も考えてしまった。僕が出した結論は「愛すべき人に対して自分が絶対的な存在感であり続ける」ということ。言葉とか態度とか行為は、それはあくまでも副産物であって、その人の傍にたたずみ、常に見守ること。そのことでその人は頑張り抜き、苦しい時にも耐えられる。無条件、無償の愛ってことを強く感じさせられる小説という形を借りた、ノンフィクションであった。

  • 自伝?

  • 本の扉を開けると、
    「その人が
    眠っているところを見かけたら
    どうか やさしくしてほしい
    その人は ボクの大切な先生だから」
    と記されている。直木賞作家・色川武大へのオマージュを込めた作品である事が窺える。

    新婚ほどなく女優であった妻を癌で亡くした“ボク”は、重度のアルコール依存症に陥り心身共にボロボロとなった。田舎に引っ込み時々連絡をくれる先輩のKさんから、逢わせたい人がいると云ってきた。
    マージャンの神様と呼ばれていたその人は、食事中であろうと突然ところかまわず眠ってしまう難病・ナルコレプシーという病気を抱えていた。
    “ボク”こと著者も小説誌に小説を書いていたが、その後妻の喪失などで書く気持ちが失せていた。君の小説の良さがわかると“先生”が励ますのである。
    愛知県の一宮、四国松山、など競輪場のある地を旅する途上で“ボク”にある心の変化が訪れるのである。そうした先生と著者との出会いを描いた自伝的小説である。

    松山のある映画館の前で、亡くなった妻のポスターを目にし、動揺する“ボク”に“先生”が、「・・・人は病気や事故で亡くなるんじゃないそうです。人は寿命で亡くなるそうです」というくだりとか、それとなく励ます“先生”の心の機微が、心に残る。
    『少年譜』『羊の目』とこれで三冊目だが、人生は出会うべくして運命を変えてくれる人と出会うのだろうか・・・。心穏やかになる読後感だ!

  • 色川武大先生、阿佐田哲也の麻雀のイメージのみで全くその人柄を知らなかった。
    ただ、一緒にいるだけで優しい気持ちになれるそんな先生だったんだな。
    『自分は誰かとつながりたい。人間に対する優しい感情を失いたくない』
    自分の狂人の部分を自覚し格闘しているからこそ、人に対しても優しく接することができる人だったんだなと思いました。

    作者の先生に対する愛情がところどころに感じられました。
    のっぺりした社会に疲れている人にはおすすめの本です。
    本当に優しく、温かい気持ちになれる本でした。

    • sa39boさん
      これおもろいタイトルじゃね。
      どんな職業でも頭に「いねむり」って付けると威厳が無くなるけんええね。
      いねむり教授、いねむり歯医者、いねむり軍...
      これおもろいタイトルじゃね。
      どんな職業でも頭に「いねむり」って付けると威厳が無くなるけんええね。
      いねむり教授、いねむり歯医者、いねむり軍曹とかね。
      2011/06/17
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著者プロフィール

1950年山口県生まれ。’81年短編小説「皐月」でデビュー。’91年『乳房』で吉川英治文学新人賞、’92年『受け月』で直木賞、’94年『機関車先生』で柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で吉川英治文学賞、’14年『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』で司馬遼太郎賞をそれぞれ受賞する。’16年紫綬褒章を受章。著書に『三年坂』『白秋』『海峡』『春雷』『岬へ』『駅までの道をおしえて』『ぼくのボールが君に届けば』『いねむり先生』、『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯』、エッセイ集『大人のカタチを語ろう』「大人の流儀」シリーズなどがある。

「2023年 『ミチクサ先生(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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