- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087714715
作品紹介・あらすじ
話は学生時代、35年以上前にさかのぼる。サックスプレーヤー通称「イモナベ」は『孵化』と『幼虫』という二つのライブを全裸で演奏して以降、精神に変調を来したとの噂とともにジャズシーンから消えてしまったはずだった。ところが1990年、小説家になりたての私は『変態』と題されたライブのチラシを見つけてしまう。そして現在-。もう一度イモナベの行方を尋ねた「私」が見たのは、絶対にありえない戦慄の風景だった。
感想・レビュー・書評
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年をまたいで読んだ本。面白かった。奥泉氏の小説は、変幻自在というか予測不可能というか、読むたびに、おお、こう来るか!と思わされてまったく降参してしまう。
ジャズと「宇宙樹」とカフカの「変身」をモチーフに、物語は虚実の間を軽々と飛ぶ。いや、イメージとしては仄暗いものがあるから「さまよう」といった方が適当かもしれない。70年代の湿った情念が感じられるところがとてもいい(おそらく若い読者にはうけないだろうが)。
スタイリッシュで取っつきの悪い作品かと思っていたが、そんなことはなくて意外にも読みやすい。スタイルの異なる九編で構成されていて、それがどれも「読ませる」。それぞれのつながり具合を、ああかこうかと思い巡らせながら、輪郭の不確かな世界にさまよい込んでいく感じが刺激的だった。
目次で下の方に配置されている四編が小説内小説の形となっているのだと思うが、これがいずれも面白い。「虫樹譚」の語り手は、少しお利口になったクワコーシリーズのモンジ君のよう。「変身の書架」の不安に満ちた雰囲気がいい。背筋がヒヤリとする気がしつつ、作者の企みに満ちた掌の上で遊んで満足した作品だった。 -
不思議な小説。カフカの変身がベースとなり、テナー奏者渡辺征一の奇妙なエピソードが展開。
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カフカとジャスと言葉…。笑いました。音楽と文学をこういう発想で結び付けるところがすごいなー。それは宇宙にまで響きわたります。わけがわからないけど圧倒されます。「虫王伝」と「変身の書架」が好きです。虫になったザムザがソファーの上から、見えない目で窓の外を見ている。その場景が要所要所にはさみこまれていて、それがとても印象的でした。カフカの「変身」の感じ方が、そこからまた変わりそう。
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(収録作品)地中のザムザとは何者?/虫王伝/川辺のザムザ/菊池秀久「渡辺柾一論-虫愛づるテナーマン」について/特集「ニッポンのジャズマン200人」畝木真治/Metamorphosis/変身の書架/「川辺のザムザ」再説/虫樹譚
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すこぶる面白かった。基軸は失跡したサックス奏者イモナベを巡るミステリー。カフカの『変身』論・日本ジャズ史の考察・奇怪な小説内小説が絡められ、気付けばとんでもない世界に導かれている。流石の奥泉マジック。トーンを変えた「変身の書架」(なんとメランコリックで美しい章!)で幻影を仄めかした後の最終章で霧が晴れたと思うや否や突然足元が崩れて自失。記憶の不確かさ、そして消滅、『変身』はその後の物語なのだと考えれば妙に納得したり。ざわめく不安を喚起しながらぷっと笑っちゃうこの奥行きが大好き。虫の奏でる音楽聴いてみたい。
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ジャズが好きなので最後まで読み通せたものの理解できないシーンも少なからずあった。フランツ・カフカの「変身」を読んでみたいと思った。
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幻想的
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デビュー作で衝撃を受け、ずっと追いかけているが、正直なところ最近の作品は私にはピンとこないものが多い。
本作品も、ジャズにはあまり興味がないし、カフカへのオマージュはおもしろいが、好みではなかった。宇宙オルガンくらいまではワクワクしながら読んだが、宇宙樹までいくと…という感じ。
ちなみに、クワガタシリーズもダメ。芥川賞選考委員になり、自分にしか書けない世界を追い求めるうちに、鼻につくような作品が増えたように感じるのは、私の好みが変わったせいなのかな。