虫樹音楽集

著者 :
  • 集英社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087714715

作品紹介・あらすじ

話は学生時代、35年以上前にさかのぼる。サックスプレーヤー通称「イモナベ」は『孵化』と『幼虫』という二つのライブを全裸で演奏して以降、精神に変調を来したとの噂とともにジャズシーンから消えてしまったはずだった。ところが1990年、小説家になりたての私は『変態』と題されたライブのチラシを見つけてしまう。そして現在-。もう一度イモナベの行方を尋ねた「私」が見たのは、絶対にありえない戦慄の風景だった。

感想・レビュー・書評

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  • 「もしあれが夢なのだとしたら、自分が記憶している過去のほとんどが夢と区別がつかなくなってしまう。」

    カフカの『変身』をモチーフにしたミステリアスな公演を続け、精神に変調をきたしてシーンを去ったと言われるテナー奏者・イモナベをめぐる虚構と奇妙な現実。けれど、作家が「虚構」として描いたものはほんとうにただの作り話だったのか。
    「地中のザムザ」ザムザテラネウスと名付けられた生物化石の発見。発見者のひとりである教授が傾倒した神秘主義的思想。すべての進化を司るのは言葉であり、その頂点にある宇宙語は昆虫にしかわからないものである。だから人間は昆虫の音楽を理解しなければならない。大学でこの思想に触れた「窓辺のザムザ」のフロントマン・ザムザは大学に伝わる虫樹を追い求める。

    イモナベのバンドメンバーだったジャズピアノ奏者、謎の巨大虫、イモナベの子孫にあたる大学生のアルバイター、仕事先の海外で『変身』の舞台を見ることになる作家。それぞれの断章がどれも魔術的におもしろく、ただただ夢中になって読んだ。
    記憶がふたしかなのか、ゴムチューブみたいに「熟成」された作品が事実を書き換えているのか、ザムザテラネウスとは何者なのか。無意識の部分で漏れ出た記憶が小説に姿を変えているのか。作家はだんだんと自分の小説をなぞるように行動するようになっていく。
    あの巨大虫が彼の、血のつながった祖先やいろんなひとの音を聞いたうえで彼が鳴らしたサックスの音が呼び寄せたものだったらいいなあと思った。
    ほんとうに魅力的な小説でした。

  • 年をまたいで読んだ本。面白かった。奥泉氏の小説は、変幻自在というか予測不可能というか、読むたびに、おお、こう来るか!と思わされてまったく降参してしまう。

    ジャズと「宇宙樹」とカフカの「変身」をモチーフに、物語は虚実の間を軽々と飛ぶ。いや、イメージとしては仄暗いものがあるから「さまよう」といった方が適当かもしれない。70年代の湿った情念が感じられるところがとてもいい(おそらく若い読者にはうけないだろうが)。

    スタイリッシュで取っつきの悪い作品かと思っていたが、そんなことはなくて意外にも読みやすい。スタイルの異なる九編で構成されていて、それがどれも「読ませる」。それぞれのつながり具合を、ああかこうかと思い巡らせながら、輪郭の不確かな世界にさまよい込んでいく感じが刺激的だった。

    目次で下の方に配置されている四編が小説内小説の形となっているのだと思うが、これがいずれも面白い。「虫樹譚」の語り手は、少しお利口になったクワコーシリーズのモンジ君のよう。「変身の書架」の不安に満ちた雰囲気がいい。背筋がヒヤリとする気がしつつ、作者の企みに満ちた掌の上で遊んで満足した作品だった。

  • 不思議な小説。カフカの変身がベースとなり、テナー奏者渡辺征一の奇妙なエピソードが展開。

  • カフカとジャスと言葉…。笑いました。音楽と文学をこういう発想で結び付けるところがすごいなー。それは宇宙にまで響きわたります。わけがわからないけど圧倒されます。「虫王伝」と「変身の書架」が好きです。虫になったザムザがソファーの上から、見えない目で窓の外を見ている。その場景が要所要所にはさみこまれていて、それがとても印象的でした。カフカの「変身」の感じ方が、そこからまた変わりそう。

  • (収録作品)地中のザムザとは何者?/虫王伝/川辺のザムザ/菊池秀久「渡辺柾一論-虫愛づるテナーマン」について/特集「ニッポンのジャズマン200人」畝木真治/Metamorphosis/変身の書架/「川辺のザムザ」再説/虫樹譚

  • すこぶる面白かった。基軸は失跡したサックス奏者イモナベを巡るミステリー。カフカの『変身』論・日本ジャズ史の考察・奇怪な小説内小説が絡められ、気付けばとんでもない世界に導かれている。流石の奥泉マジック。トーンを変えた「変身の書架」(なんとメランコリックで美しい章!)で幻影を仄めかした後の最終章で霧が晴れたと思うや否や突然足元が崩れて自失。記憶の不確かさ、そして消滅、『変身』はその後の物語なのだと考えれば妙に納得したり。ざわめく不安を喚起しながらぷっと笑っちゃうこの奥行きが大好き。虫の奏でる音楽聴いてみたい。

  • ジャズが好きなので最後まで読み通せたものの理解できないシーンも少なからずあった。フランツ・カフカの「変身」を読んでみたいと思った。

  • 幻想的

  • そんな話だったとは、、、
    『虫樹音楽集』 (奥泉光 著) | 今週の必読 - 週刊文春WEB
    『変身』のザムザに魅せられたジャズマンの物語(評者:冨永昌敬)
    http://shukan.bunshun.jp/articles/-/2193

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    「奥泉光による音楽ミステリーの新しい挑戦。
    虫への〈変身〉を夢見た伝説のサックス奏者。彼の行方を追い求めた先に〈私〉が見たのは─。カフカ『変身』を通奏低音にして蠱惑的な魅力を放つ、音楽ミステリーの新しい挑戦。もう一つの代表作。 」

  • デビュー作で衝撃を受け、ずっと追いかけているが、正直なところ最近の作品は私にはピンとこないものが多い。
    本作品も、ジャズにはあまり興味がないし、カフカへのオマージュはおもしろいが、好みではなかった。宇宙オルガンくらいまではワクワクしながら読んだが、宇宙樹までいくと…という感じ。
    ちなみに、クワガタシリーズもダメ。芥川賞選考委員になり、自分にしか書けない世界を追い求めるうちに、鼻につくような作品が増えたように感じるのは、私の好みが変わったせいなのかな。

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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