冬の旅

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087714821

作品紹介・あらすじ

妻の失踪を皮切りに、緒方隆雄の人生は悪いほうへ悪いほうへと雪崩れる。失職、病、路上生活、強盗致死…。二〇〇八年六月八日午前九時。五年の刑期を終えて、緒方は滋賀刑務所を出所する。愛も希望も潰えた。残されたのは、凡てからの自由。たった一人、この世の果てへと歩き出す。衝撃のラストが待ち受ける-。魂を震わす、慟哭の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 阿弥陀仏よや をいをい(今昔物語 巻19第14「讃岐の国の多度の郡の五位、法を聞きて即ち出家せる語」より)

    彼はその日、満期出所した。強盗致死事件の見張り役として懲役5年の刑を勤め上げたのだ。
    滋賀の刑務所を後にした彼は、かつて暮らした大阪に向かう。
    それは、自分の人生はどこで躓いたのか、過去を振り返る旅でもあった。

    社会人として順調だった時期もあった。さまざまなわけがあって勤め先を転々としたが、それなりにどこでも役に立った。
    愛した女もいた。十姉妹の番を飼うような、束の間の幸せもあった。
    しかし、いつでも、なぜか、賽子の目は望む方が出なかった。

    何かがどこかで狂ったのか。
    困難な現在を生きつつ、過去を顧みながら、彼は考える。
    なんば。飛田。あいりん地区。神戸。網干。
    阪神大震災。地下鉄サリン事件。秋葉原事件。
    実在の場所や実際に起きた事柄を織り込みつつ、彼と彼を巡る人々の物語が綴られていく。

    物語は終始、淡々と、そして重い。
    それは、この物語が、あるいは自分のものになりうるのかもしれないという、奇妙な現実感によるのかもしれない。それほどにこの物語は、ある意味、時代の空気を写し取っているのかもしれない。
    すべての伏線がきれいに回収されたわけではないように思うし、彼の元妻の別の顔など、やや取って付けたようにも思われる。
    そうした点は挙げざるをえないが、力のある物語である。

    冒頭に挙げた説話は、冒頭近くに出てくる。比較的よく知られている、極悪人が極楽往生を遂げる説話である。それは、先行きの見えないこの物語の水先案内人のようでもある。
    物語終盤、地獄と極楽の境界線のような場所で、彼はある事件を起こす。
    その彼の行動とその心情には、納得がいく人といかない人に分かれるような気がする。個人的には納得のいかない側だった。
    だが、おそらく、この物語はこの先、何度か思い返すことになるように思う。

    「阿弥陀仏よや、をいをい。何(いど)こに御(おわし)ます」

  • 本よみうり堂で角田光代さんが2013年の年間一位にあげられていたので、読んでみました。

    すごい無力感です。
    世の中を震撼させる無差別な事件や、天災には、抗いようのないことはわかりますが、この緒方さん、木の葉のように流され、翻弄されて行き着いた先が最も重い量刑なんて。それが唯一、運命から自由になるために自分の意思で導き出した答えだなんて。

    本当に抗うすべはなかったのか。
    それ以外に道はなかったのか。

    過酷すぎる運命の連鎖に、読んでいる間も読んだ後も、圧倒されています。

  • 57なぜか高村薫のマークスの火を思い出した。不条理に抗えなかった人生って何やろう。悩みますね。

  • 小説の世界に現実の要素が加わり、不思議な世界観を構成している。世界に入り込んで読んだつもりだが、おそらくきちんと理解しきれていない。もっと読解力があれば深く楽しめるのかもしれない。いつかまた読み直したい作品。

  • ☆つまずきの連続、不幸の連続の人生。深いな。

  • 俺の人生、どこで躓いたんやろか?
    刑務所から出てきた主人公が、西成のドヤで人生を回想するところから物語は本格的に回り出す。

    主人公の躓きの半分は自業自得、半分は偶然の産物。とはいえ、白鳥という遺伝子的な悪の権化が主人公の前に現れてから、そいつの存在が引力で引きずるかのように主人公の人生にカーブをかけていく。

    山一証券の破たん、阪神大震災、オウム真理教…俺にとってものすごく身近な関西を舞台に主人公の人生転落の様子が描かれていく様に圧倒される。転がり出すとここまで堕ちていくってのが人生なんだろうか。

    不幸とか悲惨とか堕落とかそういう陰ある物語の中に、食べ物の描写がほっと息を継がせてくれる。下世話な食べ物が実に美味そうに描かれていて「あぁ、串カツ食いたいなぁ」とか「ホルモンで湯割り呑みたいなぁ」とか思ってしまい、それがまた転落人生を描いたこの小説に妙にあっているのである。

    この本しかり、あるいは「日本三文オペラ」とか「夫婦善哉」とか…B級関西の純文学ってのは、とかく美味しそうなんだなぁ。

  • 2015/12/8購入
    2015/12/13読了

  • 色々考えさせられた

  • うーん。半分は自業自得。一段一段の転落。
    暖かい人との出会いすら死や裏切りで暗転していく。
    とんでもなく気持ちが塞ぐ話でした。

  • 話しの一つ一つは面白いが、全体としてはつまらない。作者は全体から無常観を出したかったと思うが、話しに現実感がなさ過ぎ。

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著者プロフィール

辻原登
一九四五年(昭和二〇)和歌山県生まれ。九〇年『村の名前』で第一〇三回芥川賞受賞。九九年『翔べ麒麟』で第五〇回読売文学賞、二〇〇〇年『遊動亭円木』で第三六回谷崎潤一郎賞、〇五年『枯葉の中の青い炎』で第三一回川端康成文学賞、〇六年『花はさくら木』で第三三回大佛次郎賞を受賞。その他の作品に『円朝芝居噺 夫婦幽霊』『闇の奥』『冬の旅』『籠の鸚鵡』『不意撃ち』などがある。

「2023年 『卍どもえ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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