世界地図の下書き

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  • 集英社
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  • / ISBN・EAN: 9784087715200

感想・レビュー・書評

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  • 扉絵はスタジオジブリ
    の近藤勝也さん。

    扉絵そのままのラスト
    シーンにホロっと涙が
    ・・・

    様々な事情で保護者を
    失いゆくりなく施設に
    暮らす子どもたち。

    学校でいじめられたり
    経済的な事情から夢を
    あきらめたり、

    世間に揉まれ成長して
    いく彼らの姿になにを
    感じたか。

    それをうまく言葉には
    できないけれど、

    ただ私の身のまわりに
    いる子どもたちへと、

    思いやりを込めた一言
    にして昇華したい。

    「なにがあっても
     希望は減らないよ」

    と。

  • 小さい頃に住んでいたマンションの別の階に、夏休みになるとやってくる三姉弟がいて、同じ年頃だったので、会えば一緒に話したり遊んだりしていた。ところが彼ら、三人の結束が強いのはいいのだけど、言動に少し問題があって、困らされることも幾度かあった。
    周りの大人たちに、こういうことがあったんだけど、と話すと「ああ、あの子たちはねぇ、仕方ないわー」と、みんな一様に渋い顔をする。聞けば普段は養護施設に預けられている子たちだとか。
    両親揃っていても、何らかの事情があっても(どういう事情かは知らないままだけれど)、「施設の子ども」というだけで、渋い顔で「あの子たちはねぇ」と言われる。
    困らされたと言っても、しょせん子どもどうし。大人から見れば大したことではないはずで、相手が近所の他の子だったら、きっと笑いながら他の言葉をかけてくれたはず。
    「施設の子ども」というだけで偏見の目で見られることに、幼いながらなんともいえない気持ちになったことをよく覚えている。

    太輔、淳也、麻利、美保子、佐緒里。
    この物語に登場する子どもたちには、そういう大人からの偏見の眼差しは描かれていないが、学校でのいじめは子どもどうしだけれど同じような偏見を感じるし、他に物質的な問題もいろいろと起こる。淳也と麻利、それぞれが受けるいじめ、佐緒里の進学問題……。
    そんな中、太輔たちは3年前から中止になった「願いとばし」を復活させようと計画する。
    材料の調達方法などは問題があるし、他にやりようがあるだろうにと思うところもあるけれど、一生懸命さは伝わり応援したくなる。
    不器用なまでに一生懸命なのは、みんな、大切な誰かのためにやり遂げようとしていたから。
    太輔は佐緒里のために、淳也は麻利のために、美保子はお母さんをまだ好きでいられるために。

    立ち向かうだけが勇気じゃない。逃げてもいいんだよ。と言ってくれる作品は増えたけれど、この本はそれだけではない。
    逃げた先にも、同じだけの希望がある、と言ってくれる。
    逃げた先の道だって狭くならない、と言ってくれる。
    私たちは、絶対にまた私たちみたいな人に出会える、とその先に希望を抱ける言葉をくれる。
    その先がダメでも、また先、そのまた先、きっと希望はある。あるはずだと。

    夕暮れの空に次々と上がっていく願いを乗せたランタン。
    そのランタンのようにそれぞれ旅立っていく子どもたちには、切なさや淋しさも感じる。
    けれど、希望は消えない。
    読み終わった後に、表紙の子どもたちの顔を見て、そう信じることができた。

    • 円軌道の外さん

      お疲れ様です。
      お久しぶりですね(^O^)

      いつもたくさんの
      お気に入りポチありがとうございます!


      今年はホンマ
      ...

      お疲れ様です。
      お久しぶりですね(^O^)

      いつもたくさんの
      お気に入りポチありがとうございます!


      今年はホンマ
      暑い日が連日続いてますが
      お変わりないですか?


      朝井リョウさんの小説は恥ずかしながら
      一冊も読んだことのない非国民です(笑)
      まぁもともと
      ロック気質というか
      流行りものには
      あまり興味がない生活を送っていたからなんやけど、
      九月猫さんの素敵なレビューを読ませてもらって
      「コレは読みたいっ!」
      「いや、読まなければ!」と
      強く思ってしまいました(^_^;)


      もうひとつ
      読んでみたいって思った理由は、
      自分自身
      5歳で父と死別し
      その後母親に捨てられ
      児童養護施設で育ったからです。


      まぁ正直
      差別は絶えず学校でも
      放課後でもあったけど、

      自分がプロのボクサーになったのも、
      言葉で表現することに目覚めて
      文章を書くことや
      本の魅力にとりつかれたのも、

      そういう環境で育ったからこそ
      なんですよね。


      だから今となっては
      自分の境遇に感謝すらしてるし、
      運命に抗う意志を養ってくれた
      施設の人たちにも
      ありがとうって言いたいです。


      確かに生活環境は
      幼い子供たちに
      いろんな影響を及ぼすし、
      周りの大人たちを見て
      それが世界のすべてだと思って
      子供は育ちます。


      つまりそれって
      親がいてもいなくても
      同じなんですよね(笑)

      いくら金持ちの家に生まれて
      両親が健在でも、
      愛を教えなければ
      愛に飢えた子供になるし、

      施設で育っても
      人と人との繋がりの大切さを教えてくれたり、
      愛を注いでくれる大人たちがいれば
      人間力は磨かれると思うんです。


      今の時代、年齢的に大人というだけで
      中身が成熟していない
      「なんちゃって大人」が増えてるので、
      自分たち親の世代が
      子供たちが憧れる
      夢を語れるような
      カッコいい大人にならなけりゃって
      切実に思っています(>_<)


      2013/08/22
    • 九月猫さん
      あやさん、こんばんは♪

      そうなんです、この本「逃げてもいい」の「先」が書かれていて、
      そこにすごくぐっときました。
      逃げた先にも同...
      あやさん、こんばんは♪

      そうなんです、この本「逃げてもいい」の「先」が書かれていて、
      そこにすごくぐっときました。
      逃げた先にも同じようないじめや辛いことがあるかもしれないけれど、と
      言ったうえで、でもだからといってその先の道が狭く細くなるわけではない、
      って言ってくれるんです。
      「逃げる」って言葉が持つ、先の行き止まり感を掃ってくれているので、
      これを読んで楽になれる子どもたちがいるといいなぁって思います。
      希望、という言葉を素直に信じられるそんな作品でした。

      原発・・・同じ考えです。
      ないほうがいいんです。そんなの当たり前すぎるくらい当たり前。
      でも「今あるもの」を「今すぐ」止めろっていうのはなんて乱暴な言い草かと。
      代替エネルギーはもちろん、働いている人たちを受け入れる環境などを
      整えるほうが絶対に先ですよね。
      直接働いている人だけでなく、連鎖的にいろいろなところに影響も出るでしょうし。
      GWと6月に福井に行ったのですが、美浜のあたりきれいな海の向こうに
      原発がある風景は残念でしかないけれど、
      でも広くて大きくてきれいな町の道や施設(ハコモノがすごく多いんです)の
      数々を目にすると複雑な心境になりました。
      これって原発があることの恩恵なんだよなぁ・・・って。
      0か100か、みたいな極論ではなくて、現実的に順序良く、
      そしてもちろんできるだけ速やかに環境を整えてほしいなぁと思います。

      って、本作と関係のないお話になっちゃってゴメンナサイ(^-^;)
      あやさんと同じく
      >文句だけ言いっぱなし状態のテレビやネット に
      げんなりすることが多かったので、つい(^-^;)
      2013/08/24
    • 九月猫さん
      円軌道の外さん、こんばんは♪

      お久しぶりです。
      コメントありがとうございます!
      花丸もたくさんありがとうございます(*- -)(*...
      円軌道の外さん、こんばんは♪

      お久しぶりです。
      コメントありがとうございます!
      花丸もたくさんありがとうございます(*- -)(*_ _)

      残暑とは呼べない(呼びたくない!)暑さが続いていますね。
      円軌道の外さんは、体調崩されたりしてらっしゃいませんか?
      わたしは・・・夏バテでしばらくブクログをお休みしていました。
      しかも復活した早々、今度は昨日まで夏カゼで熱出してました(笑)
      今年の夏はなかなか手ごわいです。
      円軌道の外さんもお気をつけてお過ごしくださいね。

      そんな非国民だなんて(笑)
      朝井さん作品は、わたしもこれが初です。
      何冊か気になりながらも、なかなか手にとることなく・・・でしたが、
      「風立ちぬ」でジブリ熱が上がっていたところにこの近藤さんの表紙と
      折り良く放送された「情熱大陸」が良いきっかけになりました♪

      円軌道の外さんの境遇はいくつかのレビューにも書いてらっしゃったので、
      なんとなく存じていました。
      円軌道の外さんのレビューは、本質的な部分での優しさや懐の深さ、また、
      芯の真っ直ぐで強い意思を感じ、いつも楽しみに読ませていただいています。

      >だから今となっては自分の境遇に感謝すらしてるし、
      >運命に抗う意志を養ってくれた施設の人たちにも
      >ありがとうって言いたいです。

      状況はもちろん違うのですが、わたしも同じようなことを思ったことがあり、
      ある人に話したことがあります。そうしたらその人が
      「そう言えるようになったのは、乗り越えて飲み込んで消化(昇華)
       できたからだよ。よかったね(*^-^*)」と言ってくれました。
      なので円軌道の外さんも、乗り越えて飲み込んで昇華してこられたのだろうなと
      (勝手にわたしが思ってるだけですが)思うので、
      円軌道の外さんに「よかったね(*^-^*)」と、
      素敵な円軌道の外さんの礎を作ってくださった施設の方たちやお友達に
      わたしも一緒にありがとうーっ♪って言いたいです。


      「なんちゃって大人」・・・うっ、み、耳がイタイ(笑)
      間違いなく「なんちゃって大人」の一人です、わたし。・゚・(ノД`)・゚・。
      2013/08/24
  • 久々の朝井リョウ。
    やはりこの人只者ではない。
    この若さで、この完成度。

    主人公の子供が小学生とは思えない、とか
    いい人しか出てこない、とか
    あの学校の対応はないだろう、とか
    きれいごとすぎるだろう、とか
    色々つっこみどころはある。

    でもこの小説に込められたメッセージは直球で伝わってきた。
    作者の思いが私のところまでしっかりと届いた。

    ”いじめられたら逃げればいい。”

    おおいなる共感。
    これで十分だ。
    このメッセージが今いじめと闘っている子供たちに届くといいのだけれど。
    この小説を読んで救われる子が一人でもいればいい。

    ねがい飛ばしの幻想的な場面。
    是非映像化してほしい。
    もっともっとたくさんの子供たちに思いが伝わるように。

  • 朝井リョウの長編7作目は、児童養護施設を舞台に、小学生が主人公。
    どうしようもない悲しみやいじめがあり、思うままにならない境遇でも友達は出来て、希望を見出していく話です。

    太輔は小学校3年生。
    両親を交通事故で亡くし、伯父伯母ともうまくいかず、児童養護施設「青葉おひさまの家」に入りました。
    子供のいない伯父伯母をお父さんお母さんと呼ぶことがどうしても出来ず、しだいに叩かれるようになったのだ。

    施設で親切にしてくれた佐緒里は、中学3年のお姉さん。佐緒里のことが大好きになる太輔。
    同じ班の淳也、美保子、麻利とはだんだん仲良くなります。
    同じ年の淳也は小柄で優しく、学校で何かといじめられがちでした。
    美保子はおませで、母親のことが大好きで自慢なのだが、その母親から虐待を受けていたために施設にいる。
    麻利は淳也の妹で、天真爛漫だが、クラスで仕事を押し付けられたり、変だとからかわれたりしていた。

    3年がたち、佐緒里が予定していた大学進学を諦めなければならなくなる。
    事情を知った太輔らは、自分達でお祭りにランタンを飛ばす行事を再現しようと、頭を絞ることに。
    子供ならではのつたないやり方でも、だんだん形になっていき‥

    前半は重苦しいですが、後半の頑張り、子供達の仲のよさが救いになりますね。
    「逃げてもいい、逃げた先にも同じだけ希望はある」「私たちみたいな人にこれからまた絶対出会える」と最後に繰り返し語る佐緒里の言葉が感動的です。

    2013年7月の作品で、「何者」の次。
    直木賞受賞後初の作品ということになりますね。
    朝井リョウが書いているという感じがあまりしない。
    ある意味、若さを抑えて、広範囲の人に読みやすいようにと意識した、大人になった書き方かな。
    この作品で坪田譲治文学賞を受賞しています。

  •  今回の朝井さんの作品の主人公は、小学生。今までは高校生とか大学生とかを主人公に持ってきていたから、新鮮だ。

     事故で両親を亡くし、引き取られた叔父の家で虐待を受けた太輔は児童自立支援施設で暮らすことになる。
     
     太輔の、「自分が何をしたところで何も変わらないこともあることを知っている」と思い至るシーンが印象的です。
     ああ、そうだった。小学生の頃なんて、思い通りに行くことなんて、何一つなかった。それが、すごくつらかったのに、どうして忘れていられたのか。。。
     いやいや、忘れていたわけではないのです。大人になった今、思い通りに行かないことがあまりにも日常で起きすぎていて、それが私たちの日常にしみこんでしまっていたんだ、と思うのです。だから、大人になった今は、少しくらい思い通りにいかないことがあったって、動じずにいられるんでしょう。慣れただけ。決して思い通りに行くことが増えたわけではない。
     そうやって私たちは、生きていくしかない。生き延びていくしかない。この作品を読んで、そう思いました。

     最後、の佐緒里のセリフも印象的。
    「私たちは、絶対にまた私たちみたいに人に出会える」
    人生は確かに思い通りに行かないけれど、あきらめてはいけない。希望を捨ててはいけない。そう感じさせられた。
     最後、号泣でした。

  • 朝井リョウ氏の著作を全部読んだわけではないし
    よりによって(汗)『何者』をまだ読んでいないので
    もしかしたら違っているかもしれないが(と先に予防線を張る^ ^;)
    章ごとに視点が変わるスタイルではない作品は初めてのような気がする。
    今まで読んだ朝井氏の作品はすべてそういう体裁だったので
    変な話、視点が定まっているというか、第三者視点の話運びは新鮮だった。

    いっぺんに両親を亡くした太輔や佐緒里。
    親はいるけど一緒に暮らせない状態の淳也と麻利の兄妹と美保子。
    自分は大人といえる年齢になった今でも両親共々揃って暮らしているので
    彼らの境遇を理解することができないもどかしさ、
    そして同時に知った風なことを言うことに対する嫌悪感をチラチラ感じながら
    泣きそうになりつつ何とか踏みとどまってようやく読み終えた感じ。

    その境遇からして早く大人になることを強要される太輔たちに
    対峙する大人たちも必ずしも完全なひとたちではなくて
    突然空いた空白を埋めるなど、自分の都合で(無意識に)利用してしまうとか
    そういうひりひりするというかキリキリするような感情が痛くて堪らなかった。
    何よりも痛かったのは淳也と麻利を虐める子供たちの無垢ゆえの怖さと、
    その淳也が逃げることの正当性を淡々と語るところ。
    確かに自分を護るために逃げることは有効な手段なんだけど
    それを子供自身が言わなくちゃいけないところが身を斬られるようだった。

    この物語ではそれぞれの旅立ちの前段階で終わっている。
    この時点では希望を見い出せるかどうか判らないのだが
    佐緒里が、淳也が、麻利が、美保子が、そして太輔が
    それぞれの形でちゃんと幸せを掴み取ることを願う。

  • テレビで朝井リョウさんを見かけて、初めて読んでみたいと思ったのがこの一冊。
    訳あって児童養護施設で暮らす子供たちがテーマ、もうそれだけで
    親と離れてどんな思いで暮しているかと思うと、胸が締め付けられた。
    特に、太輔のキルト事件。
    不器用でも一生懸命になっている彼らには、涙したり(特に我が道を行く麻利の口調、行動に)
    笑ったり(余命を平気で変更して言い放った美保子)。
    でも、イキイキして過ごせている。行動を起こせている。
    読み始めの施設で暮らす子供と言う概念が、読んでいるうちに
    どこかへ飛んでしまうほどだった。
    彼らの下書きは、これからどんな世界を広げていくのかも気になる。

    • HNGSKさん
      いいねをありがとうございました。
      どうぞ、フォローさせてください。
      いいねをありがとうございました。
      どうぞ、フォローさせてください。
      2013/09/13
  • 子どもは哀しい。あまりに無力で、周囲の大人の都合で動かざるを得ないから。そして、子どもはやるせないほど視野が狭い。それは、知識の少なさからくるものもあるし、経験の少なさからくるものもある。手元にあるほんのちょっとの情報だけを頼りに世界を歩いていかなくてはならないのだ。

    この作品の後半で企まれる行動はまさしく子どもならではの発想である。
    ケーキ屋や学校から材料を持ち出すのは、確かにあまり褒められた方法ではないだろうが、しかし彼らに他の手段はなかったのだし、「あとでちゃんと返すから」とか「どうせもう使ってないし」とか「たくさんあるんだから少しくらいは」という考え方自体が、子どもならではだと思う。それを「視野が狭い」というのだ。

    太輔の視点から書かれているために、全体が非常に曖昧になっている。子どもというのは、小さな穴から広い世界をのぞき込んでいるようなものなので、見えない物も多いし、見えても意味の分からないものがたくさんある。それがそのまま書かれているから、じれったくなるほど全体像がはっきりしない。
    他の作品と違うのはそこだと思う。他の作品だと、ある程度自意識が生まれている人が語り手になっているから、詳しい描写も説明もできる。しかし本作は子どもが主人公であるため、なんとなくぼんやりとした子ども時代の感覚が呼び起こされてしまうのだ。

    子どもは哀しい。自力ではどうにもならないことばかりで、そんな中で翻弄されていくしかない。
    同じように子どもが主人公の物語を書いても、道尾秀介さんの小説だともう少し子どもに陰がある。そのあたりは作者の人柄が出るものなのかもしれない。
    だからだろう、本作の子どもたちはみな、根っこのところで素直である。
    いじめっこたちですら、素直にいじめっこである。

    ラストで、子どもたちが新たな決意を語る場面が切なかった。切ないけれども、ただ哀しいだけでなく、世界に立ち向かっていく強さの萌芽を感じられて、泣きながらがんばれと思った。
    逃げてもいいのだ、新天地を求めてもいいのだ、失敗したらやり直してもいいのだ。今ある関係性にこだわることを求める人が多すぎるし、すでに与えられたあり方だけに固執する人が多すぎる。
    いじめっこはどこまでいってもいじめてくる。それは変わらないのだ。劇的に心を入れ替えるなんて、安直なドラマの中だけのこと。
    どこかにきっと、自分を受け入れてくれる人がいる、どこかにきっと、自分が安心して生きていける場所がある。そう願う作者の痛切な思いが、ラストに結実していると思う。

    「情熱大陸」を見た時に、編集者からの直しが入って「でもここは淡々と行きたいんだよな」とつぶやいていたのは、どの部分だったのだろう。
    どこもみな、これでなくてはいけない、というトーンで描かれているように思う。
    ふわふわとのぼっていくランタンの明かりのように、ほんのりと温かくやわらかい思いが残る作品だった。

  • ★4.0
    ありきたりなストーリー、予想が容易なラスト、それでも読み終わった後に泣きそうになってしまったのはなぜなのだろう。
    考えてみて、きっと気付かないうちに、私も「青葉おひさまの家」の一員になっていたのだろうと思った。
    他のメンバーと一緒に学校へ行って、夜に隠れてお菓子を食べて、気軽に相談できない出来事が起きて、一緒にランタンを作って、、。
    彼らはただ同じような境遇から同じ施設に住む他人ではなくて、間違いなく家族だった。そんな家族の一員に私もなったような気がしてしまった。

    最後は全員離れ離れになってしまう。悲しいけれど、彼らならきっと大丈夫だろう。一緒に過ごした宝物のような日々を、また過ごせる日が来る。施設に入った日から一回りも二回りも大きく強くなった彼らなら。そう願わざるを得ない。

  • 表紙の絵にとても目を惹かれます。
    スタジオジブリの方なのね、どうりで。

    とある田舎町の養護施設で暮らす子供たち。
    親を亡くしていたり、虐待にあっていたり、理由は様々ですが
    そのあたりの苦しみや辛さはことさら強調せずに、
    彼らが懸命に成長していく姿を描いています。

    実はなかなか共感しにくい物語でもありました。
    小学生の面々にしても、高校生の佐緒里にしても、
    背負ってきたものも、直面してることも深刻で複雑すぎて。
    全体的にはやさしく温かい雰囲気があるのに
    すぐそこにハッとするほど暗い闇が広がっていてたり、
    底が見えない深い穴が目の前にあったり。
    こんなに子供のころから、孤独を理解っているなんて。
    自分の限界を知っているなんて。

    みんなで願いとばしを実現しようと、必死に頑張って
    ついにその日を迎えても、感動とか興奮とかなくて
    妙にもどかしく、哀しくなってしまった。
    でも、そのあとが本当のクライマックス。泣けた。

    世界にはまだ希望がたくさんあって、絶対それをまた見つけられる。
    逃げても、同じだけの希望がある。
    苦しんでいる小中学生にこの本を読んでもらって、
    世界はデッドエンドじゃないってことを知ってほしいと思う。

著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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