ペテロの葬列

著者 :
  • 集英社
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レビュー : 487
  • Amazon.co.jp ・本 (690ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715323

作品紹介・あらすじ

『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ、第3弾! 拳銃を持った老人によるバスジャックという事件に巻き込まれた杉村は、いつしか巨大な悪の渦の中に! 魂が震える現代ミステリー!!

感想・レビュー・書評

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  • 「誰か」「名もなき毒」に続く杉村三郎シリーズ3作目。
    ドラマ化されて放映中です。

    日常に潜む悪がテーマのシリーズ。
    杉村はごく穏やかな妻子ある30代男性で、その人のよさが救いとなっています。

    今回はバスジャック事件が起きるという出だしで、しょっぱなから事件性が高い。
    仕事で海辺の町に住むかっての社員にインタビューに行った帰り、女性編集長の園田とともにバスジャックの人質となってしまう。
    犯人は言葉巧みな老人で、人質達は言われるがままになり、緊張しつつも非現実的な感覚になっていた。
    ピストルを持っていて、本気だとはわかるのだが、どこか紳士的で、しかも事件に巻き込んだ慰謝料を後から送るという奇想天外な提案をするのだ。
    小さな工場を経営している中年男性は、金の話に目の色を変える。
    若い男女にも、それぞれにお金が欲しい理由はあった‥

    杉村は何か出来ないかと模索しつつ、うっかり手は出せずに推移を見守る。
    バスジャック犯の老人にも、冷静で頼りになる、事件に慣れているのではと指摘されるほどだったが。
    しっかり者のはずの園田はひどく動揺している様子を見せ、早めにバスから降ろされる。
    何が原因で、それほど動揺したのか?

    人質だった人たちは、その後も何度か相談に集まることになる。
    ハイジャック事件の理由が、少しずつわかってきて、それは現実に起きた事件を思わせ、かなり怖いです。
    人の気持ちをコントロールしようとしたセミナーがかってあり、後にそれを金儲けに利用しようとした人間も少なからずいた。
    儲け話に引き込まれた人間が、また仲間を引き入れ、成績を上げようともくろむ‥
    そういう悪が現実に犯罪として今も広がっていることを思うと‥
    こういう社会的に大きな影響がある問題を取り上げ、変わった角度で描いていく力量はさすが。

    杉村の置かれている微妙な立場が、これまでより以上に延々と書き込まれているその理由とは‥
    杉村三郎は菜穂子と恋に落ち、結婚の条件として、菜穂子の父の経営する会社に入った。
    今多コンツェルンの会長に直属する社誌編集部員となったのだ。
    菜穂子は会長の愛人だった画廊経営者の娘で、母の死後引き取られ、何不自由ない財産を分け与えられていたが、会社の経営に関しては何の力もないという条件付きのことだった。
    杉村は会長の娘のヒモ呼ばわりされ、実の両親から結婚に猛反対され、ほぼ義絶している。
    兄や姉は連絡をよこすのだが。
    ‥‥そこまで反対するようなことなんですかね?

    何年かたつうちに和解するのが普通なんじゃないかな。
    菜穂子は待ちきれなかったというか。
    夫の立場の苦しみを気に病み、不満に違いないと思ったらしい。
    夫の浮気を疑い、何が大事なのかを見失ったような行動をとります。

    杉村が気づかなかった菜穂子の苦しみもあると思いますけどね。
    愛人の娘という立場だし、菜穂子の耳に毒を注ぎ込む輩にも事欠かなかったよう。これが悪のような気も‥
    杉村のほうは、嫌な視線や閉塞感にも耐えていけそうな人間だった。
    だが事件に夢中になったのは、しだいに内側でストレスが高じていたせいかもしれない。
    義父である会長を尊敬するあまり、菜穂子を自分の妻というより大事な預かり物のように見るようになっていたような。
    妻が一番望んでいることを与えられなかったのか‥
    まあ、ないものねだりというか、すべてを望むあまり、ぶち壊すって、子供か?ってとこですが。
    妻のほうは、本人すら気づいていなかった夫の苦しみに気づいていたともいえます。
    肝心なことを互いに話していない夫婦だったようですね。

    違う立場となった杉村が主人公の事件話も今後、書かれるのでしょうか。
    今回の後味を払拭してくれるといいのですが。

  • 分厚い本だけど、ゆるく展開していく昭和レトロな雰囲気のミステリーですね。マルチ商法 悪徳商法の温床の根っこにある頭脳部分と、マルチ商法の加害者側 被害者側のいずれにもなりうる人間の弱さを絡めながら冒頭のバスジャック事件の犯人自死で物語が始まる。 その後の長い長いストーリーで全体が明らかになっていくけど、イエスに対するペテロの立場にあるごとき人物像がタイトルに繋がるのですね。
    逆玉みたいな立場の杉村三郎、ついに唐突に自分の場所に帰るのが良かったようなザンネンなような。

  • えええー。
    腱鞘炎になりそうな重さの本ですが、最後の展開でそれまでの事件ぜんぶ吹っ飛ぶくらいの衝撃がありました。
    なんとまぁ、こんなことになってしまうとはね。

    それはそれとして、今回はバスジャック事件と、洗脳詐欺というかマルチ商法というか何とも嫌な感じの事件でした。
    「名もなき毒」も悪意に締め付けられるようでやな感じだったけど、今回も現代社会の闇とか歪みを抉っていきます。
    人をその気にさせてしまうコントロール術やら被害者が加害者になってしまう構図やら、世の中て怖い。
    人の弱みに付け込んだり虚栄心を利用したり、気付いたらもう深みにはまっていたり、なかなか力を持つ指輪は捨てられない。
    とりあえず「ホビット」を読みたいなと思った。

    それにしても、菜穂子はひどいと思うよ。
    どこまでもお嬢様なんだろう。
    そしてなんとなく周りに許されてるのが解せない。
    ちょっと次作はどうなってくのだろう。

  • ドラマを見ていたので結末や真相はわかってたけど楽しめました。
    誰もが加害者になりうるっていうテーマかな?背筋が寒くなる感じがしました。
    杉村さんってどこまでも真面目で心配になるんですが、これから続編が有るのなら、また読みたいです…心配だから。

  • 河北新報夕刊に連載されていたのだが、基本的に連載小説は単行本化されるまで読まない人間なのでずっとスルー。

    それでも昨年12月25日に発売されたのが、早くも三週間後に借りられるのだから図書館はありがたい。
    しめしめと発行日を再確認していたら、巻末にいきなり誤植発見!!
    “初出 この作品は2010年9月12日~14年10月3日の期間掲載されたもの”と記載されているが、14年10月ってまだ来てないじゃん。
    なんと単純な誤植でしょう。笑った。
    早速、集英社に電話したら、やはり私のようなお節介焼の人間は多いらしく、すでに電話で何度か指摘されたようで、先方は平謝りでした。

    ま、それはともかく、700Pにも届こうかというこの分厚い長編。
    前半の150Pあたりでクライマックスを迎え、バスジャック事件が一応の結末を見ることから一度事件は収束するように思える。
    この先500P以上もあるのに、いったいどのように話が紡がれていくのか? 
    読者としては半ば不安を覚える。
    しかし、ここからが宮部みゆきという作家の独壇場。
    読み進めていくにつれ、意外なストーリー展開に一言一句も見落とせなくなり、ページを捲る手がどんどん早くなっていく。
    彼女のデビュー作から読み続けている私としては、彼女の類まれで緻密な構成力と読者を魅きつける展開力に流石と感嘆せざるを得ない。
    さすがに長すぎるので一晩とはいかなかったが、結局二日で読み終えてしまった。
    もっとゆっくり小説の楽しさを味わいながら読みたいのに、そうはさせてくれない宮部みゆき。
    本当に罪作りな人です。

    この作品は「誰か Somebody」「名もなき毒」に続く、今多コンツエルンの娘婿杉村三郎シリーズの三作目。
    人間の持つ悪意や毒、それに対してスポットを当てているのだが、先の二作では杉村の家族にまでそれは存在しなかった。
    ところが、この三作目では------。
    最後まで手に汗握る展開で十分に小説の面白さを堪能させてくれるのだが、このラストはないよなあ。
    第二のバスジャック事件で終わりと思ったが、まだ残り50P以上ある。
    嫌な予感がした。そこから思いもがけぬ方向に急転換し、怒涛の展開へ。
    うわあ、あのお姫様、可愛いお嬢様である愛妻菜穂子までもが。
    杉村三郎、どこへ行く。
    読み終わって辛くなってしまった。
    宮部さん、この三作目で終わりにせずに、是非次作を書いて、杉村家を元の鞘に納めてください。
    お願いですから。
    そうじゃないと心が休まりません。

  • 杉村三郎三部作の3作目。
    本作を読むため、数年前に読み、細部を忘れていた前2作を再読した。前2作を読んでいなくてもいいし、読んでいれば登場人物の背景を、より理解でき、なお一層楽しめる。
    三部作の中では、やはり本作が白眉か。
    このシリーズに通底音のように流れているのは、「悪は伝染する」というテーマではないか。

    そして、嘘の重みに堪えきれなくなった人間の起こす悲劇が、今作の主題。
    「どんなペテロにも、振り返って彼を見つめるイエスがいる。」
    バスジャック事件で幕があけ、その事件はのちに始まる長い「旅」の序章だった。

    杉村夫婦の結末に、違和感も感じるが、途中にいくつもの伏線が書かれており、残念な納得をするしかない。悪はどこにでも伝播するのだから、家族だけがまぬがれることはできない。
    ここから、杉村三郎の再生が始まり、新しいドラマが始まる予感がするのは、穿ちすぎだろうか。むしろ期待したいといったほうがよいか。

  • 本屋で表紙を見て杉村三郎シリーズの最新作が出てると気づく。ソロモンの偽証の特別編を読んだので杉村さんの現況を知ったつもりになっていたが、そういえばこのシリーズをどこまでちゃんと読んでいたかと遡ってみたらこの本から読んでなかったと気がついてペテロ→希望荘と続けて読む。
    私はあえて選んでまではイヤミスを読んでないと思っていたけど、私が読んでた分の杉村三郎シリーズってイヤミス(分類上は違うのかもしれないけれど底知れぬ不気味さを持った人が出てくる…)だったなと思い出す。
    宮部さんの本は長編でもググッと読まされるものがあり一気に読んでしまうのだけど、何度も中断しながら読んだので事件全容はぼんやりしてしまって、細やかな人物描写の方が印象に残る。睡蓮のマスターや北山探偵の残された奥さんと息子さんとか。
    そして最後の菜穂子の告白からの顛末。説明はものすごく丁寧にされていて言い訳もない本心を述べてるんだろうけど杉村さん以上に菜穂子が分からなくなって終わる。

  • 昨年末に単行本化された、宮部みゆきさんの小説です。図書館で半年以上待ってやっと順番が回ってきました。大部(600ページ以上)で、読むのにも時間がかかりましたが、この1週間楽しい思いをさせていただきました。

    この本を通して感じたのは、昔は個人の力では大したことはできませんが、今はネットの力を利用することで凄い復讐ができることがわかりました。

    著者の宮部さんは、一時期世間を騒がせた豊田商事事件や、ネットワークビジネスの被害者のことを詳しく調べられているようですね。ネットワークビジネスの会員にも勝ち組と負け組みがいることが書かれていて驚きました。

    ネットワークビジネスが破綻した場合、当局に捕まるのは上層部の経営者のみ、会員で良い思いをしていた(会員間で融資をして儲けていた)人は、お咎めなしだと思います。この本では、この部分がお話のポイントになっていました。

    当然、この本はフィクションであり、本の最後はその旨が記されていますが、私はある程度の事実に基づいて書かれていると感じています。この本を通して、それらのビジネスの裏が垣間見えたように思いました。

    2014年10月20日作成

  • 自分にとって著者の久々の快作になると思われた。衝撃のラストを読むまでは。

    悪は伝染する、ここまではいい。次第に明らかになる謎と意外な展開にページをめくる手ももどかしくなってしまう。

    ただ、主人公が今の生活に息苦しさを覚えていたのは差し引いても、あそこまで劇的に環境を変える必要はあったのかな?

    少なくとも私は辛い事件に巻き込まれても彼の助けとなり救いでもあった安定した家庭が続く事を求めてたし、それが主人公の軸だと信じていた。

    今後のシリーズ化を見越した展開にしても唐突な印象で残念。自分が新しい出発のメッセージを読み取れてないだけかもしれないけど、置いてけぼり感が半端じゃない…f(^_^;

    あの夫婦なら、あんな事になる前に話し合って何とかできたんじゃないの?

  • 悪は伝染する。ペテロとは、嘘の罪を知る者である。振り返るイエスと目が合ったことがある。そしてその罪は、時折人を殺す。

    宮部みゆきの最新刊!4ヶ月待ちでやっと読めたよー!読み終えて、タイトルの深さと黒さに戦慄。杉村三郎シリーズは、ブラック宮部さんがデフォルトなので、なかなか読後感がスッキリしないんだけど、やっぱり読み始めると止まらん。

    今回の杉村さんは、完璧に巻き込まれた被害者。なのに探偵まがいの動きをはじめてしまうのは、やっぱり分不相応な生活への屈託がたまっていたんだろーか。事件の真相は暴かれるものの、その隙に彼の生活は一変してしまう。女性は怖いね。

    彼と関わっていく登場人物たちの背景やセリフが、ひとつひとつ染みてくるところは、さすが宮部みゆき。等身大の人間たちを描かせたら天下一品だと思う。3晩かけて読んだけど、先は気になるし、読み終えたくないし、という読書のジレンマと至福が味わえました。だから本はやめられないっ。

    トールキンへの言及がところどころに出てくるんだけど「影横たわるモルドールの国に、我々もまた、生きている」という一文に、本気で薄ら寒くなった。悪は伝染する。堕ちることの、なんとたやすいことか。世界はペテロたちで満ちているのだ。

    それでも、ラストシーンでの足立の言葉が、ほんのりいい余韻を残す。どんな場所からだって、人生はやり直せる。諦めちゃいけない。坂本に言った言葉をそのまま返されて、「他人に助言するのは、何と易しいことか」と韜晦する杉村。新たな旅に出る、彼の滅びの山はどこにあるのだろう。

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著者プロフィール

宮部 みゆき(みやべ みゆき)
1960年、東京都生まれ。1987年に「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。1992年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞、1999年には『理由』で直木賞、2002年『模倣犯』で司馬遼太郎賞、2007年『名もなき毒』で吉川英治文学賞など、数々の文学賞を受賞。大沢オフィス所属。日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。直木賞、日本SF大賞、小説すばる新人賞、河合隼雄物語賞など多くの文学賞で選考委員を務める。『模倣犯』や『ブレイブ・ストーリー』など、多くの作品がドラマ化や映画化などメディア・ミックスされており、日本を代表するエンターテインメント作家として人気を博している。2019年7月10日『さよならの儀式』を刊行。

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