ペテロの葬列

著者 :
  • 集英社
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感想 : 540
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  • Amazon.co.jp ・本 (690ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715323

作品紹介・あらすじ

『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ、第3弾! 拳銃を持った老人によるバスジャックという事件に巻き込まれた杉村は、いつしか巨大な悪の渦の中に! 魂が震える現代ミステリー!!

感想・レビュー・書評

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  • 前半は軽快に、前作より面白いと思いながら読みました。
    中盤やや中弛み、家庭を省みないところからやや不穏さは漂っていました。
    後半様々な真相が明らかになりつつもどれもあまり気分の良い結末ではなく、最終盤の夫婦の問題にはあまりにもビックリなのと、ストーリーに必要だったか?
    三郎くんあまりにもお人好しすぎますよ!
    玉の輿サラリーマン探偵から玉の輿もサラリーマンも取れた三郎くんが次作でどのように展開するか、次作まで読んで今後を検討しよう。

  • 「誰か」「名もなき毒」に続く杉村三郎シリーズ3作目。
    ドラマ化されて放映中です。

    日常に潜む悪がテーマのシリーズ。
    杉村はごく穏やかな妻子ある30代男性で、その人のよさが救いとなっています。

    今回はバスジャック事件が起きるという出だしで、しょっぱなから事件性が高い。
    仕事で海辺の町に住むかっての社員にインタビューに行った帰り、女性編集長の園田とともにバスジャックの人質となってしまう。
    犯人は言葉巧みな老人で、人質達は言われるがままになり、緊張しつつも非現実的な感覚になっていた。
    ピストルを持っていて、本気だとはわかるのだが、どこか紳士的で、しかも事件に巻き込んだ慰謝料を後から送るという奇想天外な提案をするのだ。
    小さな工場を経営している中年男性は、金の話に目の色を変える。
    若い男女にも、それぞれにお金が欲しい理由はあった‥

    杉村は何か出来ないかと模索しつつ、うっかり手は出せずに推移を見守る。
    バスジャック犯の老人にも、冷静で頼りになる、事件に慣れているのではと指摘されるほどだったが。
    しっかり者のはずの園田はひどく動揺している様子を見せ、早めにバスから降ろされる。
    何が原因で、それほど動揺したのか?

    人質だった人たちは、その後も何度か相談に集まることになる。
    ハイジャック事件の理由が、少しずつわかってきて、それは現実に起きた事件を思わせ、かなり怖いです。
    人の気持ちをコントロールしようとしたセミナーがかってあり、後にそれを金儲けに利用しようとした人間も少なからずいた。
    儲け話に引き込まれた人間が、また仲間を引き入れ、成績を上げようともくろむ‥
    そういう悪が現実に犯罪として今も広がっていることを思うと‥
    こういう社会的に大きな影響がある問題を取り上げ、変わった角度で描いていく力量はさすが。

    杉村の置かれている微妙な立場が、これまでより以上に延々と書き込まれているその理由とは‥
    杉村三郎は菜穂子と恋に落ち、結婚の条件として、菜穂子の父の経営する会社に入った。
    今多コンツェルンの会長に直属する社誌編集部員となったのだ。
    菜穂子は会長の愛人だった画廊経営者の娘で、母の死後引き取られ、何不自由ない財産を分け与えられていたが、会社の経営に関しては何の力もないという条件付きのことだった。
    杉村は会長の娘のヒモ呼ばわりされ、実の両親から結婚に猛反対され、ほぼ義絶している。
    兄や姉は連絡をよこすのだが。
    ‥‥そこまで反対するようなことなんですかね?

    何年かたつうちに和解するのが普通なんじゃないかな。
    菜穂子は待ちきれなかったというか。
    夫の立場の苦しみを気に病み、不満に違いないと思ったらしい。
    夫の浮気を疑い、何が大事なのかを見失ったような行動をとります。

    杉村が気づかなかった菜穂子の苦しみもあると思いますけどね。
    愛人の娘という立場だし、菜穂子の耳に毒を注ぎ込む輩にも事欠かなかったよう。これが悪のような気も‥
    杉村のほうは、嫌な視線や閉塞感にも耐えていけそうな人間だった。
    だが事件に夢中になったのは、しだいに内側でストレスが高じていたせいかもしれない。
    義父である会長を尊敬するあまり、菜穂子を自分の妻というより大事な預かり物のように見るようになっていたような。
    妻が一番望んでいることを与えられなかったのか‥
    まあ、ないものねだりというか、すべてを望むあまり、ぶち壊すって、子供か?ってとこですが。
    妻のほうは、本人すら気づいていなかった夫の苦しみに気づいていたともいえます。
    肝心なことを互いに話していない夫婦だったようですね。

    違う立場となった杉村が主人公の事件話も今後、書かれるのでしょうか。
    今回の後味を払拭してくれるといいのですが。

  • 再読。これまた全く覚えていなかったけど、最後の50ページ辺りで鮮明に思い出した。そうだ、この菜穂子と今多嘉親の台詞とそのあり方がどうにも気持ちが悪くて、私はこのシリーズを読むのをやめたのだった。そして、今回も読後感はあまりよろしくなかった。

    菜穂子の変容は唐突のようだが、本書では少しずつ不穏な雰囲気が醸し出されている。そして、杉村三郎自身も、前作までの優秀だけど底抜けにお人好しなキャラから、本書ではどこか地に足の着いた、大人のオジサンになっている。

    本書の前半、バスジャックの場面は、圧巻の手に汗握る心理戦! このパートを読まないのは損である。さすが宮部みゆきさん。そして今回はアクション系かと思いきや、そこから話は意外な方向へ転がっていく。昨今の統一教会問題も少し連想させる。

    ただどうにも一点、気になったのは、各自に払われた「慰謝料」の額の差である。なぜ、ああなったのか。私の読み落としだろうか。

    お金持ちの婿養子、会社勤めの探偵という設定がおもしろかったのだが、これからどうなるのか。次作も読んでみよう。もしかすると、実は読んでいて忘れているのかもしれないが…。

  • バスジャックは始まりに過ぎなかった。
    たまたまバスジャックに巻き込まれた主人公。
    自殺した犯人はどう言う人物なのか、何の為にバスジャックをしたのか?
    お詫びとして現金が送られて来てからが本当の始まりになる。
    それにしてもバスジャックするだけでも迷惑なのに、その後お金を受け取るかどうかのいざこざまで付けてよこす犯人は本当に迷惑な奴です。
    それに振り回されて人生を狂わせて行く人も……

    そして一時期ものすごく流行っていた精神向上セミナーみたいな名前の半分宗教みたいなやつ。私も従姉妹にものすごく誘われて怖かったけど、それを教えていたトレーナーがその後どうしたかに光を当てた宮部さんはさすがだと思う。
    一回他人を操る事を覚えてしまったらその力を使いたくなるだろうなと思ったら怖い。アガサクリスティの作品にもこう言う犯人はよく出てくるなあ。
    身近に潜む毒の存在がまたまた取り上げられて作品になった。リアルにこう言うトレーナーが何処かに潜んで詐欺の立役者になってるかもと思うと背筋が寒くなる。

    ひたすら第三者的立場を守って来た、マスオさんの主人公もとうとう身近な毒にやられてしまう……(>_<)
    今後の活躍に期待。いっそ探偵になる事をお勧めします(^○^)

  • 2年前に読んだのだが、長い話で所々記憶から抜け落ちてしまい、読み直す。

    表題にもなっているペテロは、イエスの弟子であることを否認したー知らないと嘘をついたーわけだが、その葬列というくらいだから、嘘てんこ盛りということだろうか?と考えてしまう。

    確かに読んでみると、嘘てんこ盛り。
    身近な嘘から、詐欺事件として世間を騒がせたマルチ商法の嘘まで、この世をとりまく嘘のパレード。人との繋がりが希薄になったからこそ、この手の嘘は拡大を続けているように感じるのだが、杉村三郎は、またまたその渦に巻き込まれてしまう。そして最後には最愛の妻の嘘に…。

    そして、葬列にはまた違う意味もあるのかもしれない、それまでの自分との決別…というような。
    続きの「希望荘」も読み返してみようかな。
    2019.4.24

  • 杉村三郎シリーズ

    相変わらず、事件に巻き込まれがちの三郎さん。
    今回はバスジャックに遭遇!被害者の一人となってしまう。

    バスジャックは加害者のおじいさんが自殺して終結
    したかに思えたけれども、
    被害者一人一人に犯人のおじいさんと口約束した慰謝料が届いたことで・・・。

    このシリーズ人間のくらい部分を掘り下げてくるので、
    面白いんだけど、ちょっとしんどい。
    悪徳商法や慰謝料、お金が絡むと
    人間の暗黒面がでちゃうよね。
    純粋も時に悪となりえたり、
    優しさゆえに悪となってしまったり、
    愛するがゆえに悪となっていったり、

    まさかの菜穂子さんまであんな悪が潜んでいたなんて。
    三郎さんと菜穂子さんでも
    家の格式差の壁はこえられなかったのか・・・悲しい。

    森閣下の部下は最後までクソだったな。
    心底悪いやつではないかもしれないけど、クソだ。

    会長は本当に紳士でかっこよい。
    ちょっと娘に甘いところも自分で認め。
    自分の非も認められる人、そして決断できる人。
    森閣下も終焉は残念でしたが、
    やはりトップクラスの人は、会長もそうだけれど
    なにか違うよ

  • 分厚い本だけど、ゆるく展開していく昭和レトロな雰囲気のミステリーですね。マルチ商法 悪徳商法の温床の根っこにある頭脳部分と、マルチ商法の加害者側 被害者側のいずれにもなりうる人間の弱さを絡めながら冒頭のバスジャック事件の犯人自死で物語が始まる。 その後の長い長いストーリーで全体が明らかになっていくけど、イエスに対するペテロの立場にあるごとき人物像がタイトルに繋がるのですね。
    逆玉みたいな立場の杉村三郎、ついに唐突に自分の場所に帰るのが良かったようなザンネンなような。

  • 作品のラストに訪れる杉村三郎の意外な運命のことは知っていた。でも、どうして、どうやってそうなったのか、は知らなかった。最終ページに辿り着く迄にある程度推理出来たのは、私としては上出来だと思う。(これをアップする時点でアマゾンの書評を見ると、圧倒的に「菜穂子許せない」派が多かったが、私は許せる。彼女は籠の鳥から抜け出す方向に舵を切ったのだ。その方法は間違っているけど、そもそも宮部は正しい人だけを描くことはない)

    知っていたのは、文庫の「ソロモンの偽証6」のスピンオフ中編「負の方程式」(杉村三郎が探偵で出てくる)を読んでいたためである。あれを読みおえた時点でこの作品は読まなければならないと思っていた。あの頃同時にテレビドラマでこの作品が放映されていたが、観るのを我慢した。正解だった。冒頭のバスジャックの緊迫した「心理描写」は、流石に映像では無理だったろうと思うからである。

    やはり宮部みゆきにとって、杉村三郎は得難い等身大のヒーローなんだと思う。彼女には、通常人は到底真似出来ない特技がある。見たものを確実に描写出来る(「日暮らし」のおでこに似た)「カメラアイ」を持っているのである。その一方では、身近にいない人たちや、壮大な社会批判は出来ない性質の女性である。デビュー以来の30年間で、ギリギリ今多コンツェルン会長のような社会的地位の高い人は描写出来るようにはなったが、そのコンツェルンの中で生き馬の目を抜くような人物は描けないだろう。よって、コンツェルン運営にも関わらない、かと言ってまるきり社会の頂点にも関係なくはない杉村三郎は、宮部には自由に動かすことの出来る分身だった。あの肝の座った観察力、素早い判断は、しかし探偵業にしか向かない。経済小説や政治小説で活躍するには、杉村三郎は(能力的には可能かもしれないが)性格的には優しすぎるだろう。

    話の流れで、トールキン「指輪物語」における「指輪とは何か」という解釈があった。私は私なりのその解釈を持っている。しかし、宮部みゆきのそれが知れて、大いに収穫だった。しかも、それがそのままこの作品の大きなテーマになっている。

    〈一つの指輪〉は、冥王サウロンの力の源泉であると同時に分身だ。指輪はサウロンのもとへ還ろうとする道筋で出会う中つ国の人びとを汚染してゆく。その心をむしばんで、人格どころか容姿まで変えてしまうのだ。
    悪は伝染する。いや、すべての人間が心のうちに隠し持っている悪、いわば潜伏している悪を表面化させ、悪事として発症させる 〈負の力〉は伝染すると言おうか。
    現実を生きる我々は、 〈一つの指輪〉を持ってはいない。だが、その代替物なら得ることが出来る。それは誤った信念であり、欲望であり、それを他者に伝える言葉だ。
    ー影横たわるモルドールの国に。
    我々もまた、生きている。(356p)

    宮部みゆきは、作家になってこの方、ずっとこのことを描いて来たのである。

    一つだけ、私がこの作品の瑕疵だと思うところ。バスジャック犯と迫田さんが乗り合わせたことを、杉村三郎は偶然だと思っている。本気でそう思っている。もしそうならば、迫田さんの慰謝金が一人跳ね上がっているのが説明出来ない。また、田中さんの額も納得出来ない。しかしそれを論理的に説明すると、物語がすべてひっくり返る恐れがある。私が瑕疵だと云う所以である。
    2016年3月読了

    • トミーさん
      kuma0504様の
      洞察力、読解力には恐れ入ります。
      その辺の解説者も足元には及びますまい。と拝察いたします。
      いきなりのコメント、失礼致...
      kuma0504様の
      洞察力、読解力には恐れ入ります。
      その辺の解説者も足元には及びますまい。と拝察いたします。
      いきなりのコメント、失礼致します。
      2020/07/03
    • kuma0504さん
      トミーさん、恐れ入ります。
      この作品に「瑕疵」について書いているところでしょうか。それについては、同意するとも、反論するともなくて、コレにつ...
      トミーさん、恐れ入ります。
      この作品に「瑕疵」について書いているところでしょうか。それについては、同意するとも、反論するともなくて、コレについて書いているレビューも皆無で、実は「なんかへんなこと書いたかなあ」とおもっているところなんです。

      だから、洞察力とは恐れ入ります、としか言えません。
      2020/07/05
  • えええー。
    腱鞘炎になりそうな重さの本ですが、最後の展開でそれまでの事件ぜんぶ吹っ飛ぶくらいの衝撃がありました。
    なんとまぁ、こんなことになってしまうとはね。

    それはそれとして、今回はバスジャック事件と、洗脳詐欺というかマルチ商法というか何とも嫌な感じの事件でした。
    「名もなき毒」も悪意に締め付けられるようでやな感じだったけど、今回も現代社会の闇とか歪みを抉っていきます。
    人をその気にさせてしまうコントロール術やら被害者が加害者になってしまう構図やら、世の中て怖い。
    人の弱みに付け込んだり虚栄心を利用したり、気付いたらもう深みにはまっていたり、なかなか力を持つ指輪は捨てられない。
    とりあえず「ホビット」を読みたいなと思った。

    それにしても、菜穂子はひどいと思うよ。
    どこまでもお嬢様なんだろう。
    そしてなんとなく周りに許されてるのが解せない。
    ちょっと次作はどうなってくのだろう。

  • 本屋で表紙を見て杉村三郎シリーズの最新作が出てると気づく。ソロモンの偽証の特別編を読んだので杉村さんの現況を知ったつもりになっていたが、そういえばこのシリーズをどこまでちゃんと読んでいたかと遡ってみたらこの本から読んでなかったと気がついてペテロ→希望荘と続けて読む。
    私はあえて選んでまではイヤミスを読んでないと思っていたけど、私が読んでた分の杉村三郎シリーズってイヤミス(分類上は違うのかもしれないけれど底知れぬ不気味さを持った人が出てくる…)だったなと思い出す。
    宮部さんの本は長編でもググッと読まされるものがあり一気に読んでしまうのだけど、何度も中断しながら読んだので事件全容はぼんやりしてしまって、細やかな人物描写の方が印象に残る。睡蓮のマスターや北山探偵の残された奥さんと息子さんとか。
    そして最後の菜穂子の告白からの顛末。説明はものすごく丁寧にされていて言い訳もない本心を述べてるんだろうけど杉村さん以上に菜穂子が分からなくなって終わる。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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