- 集英社 (2016年5月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784087716610
作品紹介・あらすじ
アイヌの母と和人の間に生まれ、幼くして孤児となったチカップ。17世紀を舞台に、キリシタン一行と共に海を渡った女性の一生を描いた叙事小説。津島文学の集大成であり、最後の長編小説。遺作。
感想・レビュー・書評
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7月25日に「津島佑子の文学──未来へ向けて」のイベントがあるので、その前に何か読んでおこうと思い手に取った。
津島さんが亡くなって、もう8年になる。
津島さんの遺作となったこの本に、やっとたどり着いた。
さっそく津島さんが身に纏ったその悲しみに同期する。/
不慮の事故で幼い息子を亡くしたシングルマザーの「わたし」の現在の物語と、アイヌと和人との間に生まれた孤児チカ(チカップ)とチカが兄のように慕うジュリアンの漂流の物語(十七世紀)とが時空を超えて交互に綴られてゆく。
チカとジュリアンは、ジュリアンがマカオでパードレ(神父)になるため、マツマエからツガルへ、ツガルからナガサキへ、ナガサキからマカオへと渡って行く。
まるで、魚たちが回遊するように、鳥たちが渡って行くように。
一粒の種が海中でもまれ、漂流し、流れ着き、そして根づいていく。
世界の悲惨の中にも希望が息づいている物語だ。/
人は魚だ。
小さきものたちは大きなものたちに捕食され、棲家を追われ、蹴散らされる。
そして、海中を四方八方へと四散しては、混ざり合う。
純粋なものは消えゆくものだ。
残りゆくものは混血だ、雑種だ。
人は魚だ。/
人は鳥だ。
季節はめぐり、鳥は渡る。
餌を、新しい棲家を、繁殖地を求めて。
数百、数千、数万キロを渡って行く。
そして、つがいとなり、巣をつくり、子をつくり、やがて島をつくる。
チカップは鳥だ。/
【明るい灰色の空はとりとめなくひろがり、灰色の海も静かに平坦にひろがっていた。バスの窓からは、雲に隠された太陽の淡い光がひろびろとした空と海に溶けこみ、浜辺や人家の壁にまで、その光が染みいっているように見える。
バスは右側にオホーツク海を見ながら、ほぼまっすぐにつづく車道を進みつづけた。途中、道は海から少し離れるけれど、やがてまた、海岸線に寄り添う。ときどき強い風に吹き寄せられた雨のつぶが、ぱらぱらとバスの窓にぶつかってきた。】(「二〇一一年 オホーツク海」)/
【沖に向かい、ぐんぐん舟は突き進んでいく。月の光と無数の星のまたたきに海は照らされ、一面、藍色と銀色がせめぎ合う。ほかの色はなにも見えない。チカはジュリアンに抱きついたまま、夜の海にひろがる光を見つめていた。月と星の光に舟ごと吸い寄せられていくように感じる。艪の音と波の音が、風を受けてふくらむ帆に這いのぼっていく。ジュリアンも、ほかのひとも押し黙っていた。海上の風は冷たく、みな、むしろのなかに身を縮め、不安を呑みこみ、身動きもしない。
しばらくすると、波が変わり、舟の揺れが変わった。前に進むのではなく、上に下に舟が動いている。舟がふわりと持ちあがり、空が近づいたかと思うと、どこまでも沈んでいく。ひとつひとつの波が山のように盛りあがって、その山がつぎからつぎへと舟に迫ってくる。】(「一章 一六二〇年前後 日本海〜南シナ海」)/
【三月終わりごろのある日、あなたはひとり路線バスを降り、クシロ湿原のただなかに取り残される。灰色の空が低くひろがり、あなたの頭上をおおう。冷たい小雨が降りつづく。湿原はところどころに白い雪を残し、黄色く枯れた草をうねらせ、風に吹き飛ばされていく霧雨もはるばるとどこまでもひろがる。停留所の表示板でつぎのバスの時刻を確認してから、バスの車掌が教えてくれた牧場の建物に向かって歩きはじめる。建物はほかに一軒も見えないのだから、迷いようはない。】(「一九六七年 オホーツク海」)/
津島さんから届いたこの手紙は、大切にとっておいて何度も読み返してみたい。 -
心が震える。
雨が降るように、
まるで土砂降りの雨の中にいるよう。
本を開いている間中、私の五感はそれに全部持って行かれる。
お腹も空かないし、眠くもならない。
壮大なスケールで描かれる
半アイヌ、半和人の少女チカップの生涯。
それにリンクするように描かれる筆者の喪失。
寝食を忘れて、読みたくなる一冊。
和人は特に読むべき物語と思う。
今の特権のあるノーマライズされた生活が誰の犠牲に成り立ち、
その過程で何が行われたのか。
暴力の中に恐れを抱きながらも、怯まず生き続けた人たち。
和人であるとは、
アイヌであるとは、
信仰を持つとは、
生きるとは、
どういうこと?
おはなしが、うたが、人を支えていく強い魔法なのだということもしっかり描かれている。
最初の章を読み終えた夜、あまりの衝撃に眠れなかった。
それから三日間、チカップと過ごした時間は宝物になった。
図書館の本だけど、買って一生手元において、何度も読み返したい一冊。
勧めてくれた母に感謝。
津島さんの他の本も今読んでるけど、
この人、すごく好き。やばい。 -
思い出の記念館ジャッカ・ドフニ・“大切なものを収める家”に訪れることで子を亡くした過去と向き合う私。
17世紀アイヌとシサム・和人の間の子として生まれ、キリシタンとなり、マツマエからナガサキ、果てはマカオ、バタビアまで流れ、羽ばたいていく少女チカ。
二つのお話が時系列や語りの手法を変えながら時代を超え響きあう物語は、信教、人種、争いなど、たくさんの分断の中で私たちが生きているということ、そして生きていけるということを教えてくれる。
それぞれの謡や物語を心に抱きながら。
読み終えて本を閉じた時、目に飛び込んでくる表紙。
描かれる“おらしょ”を唱える女性の姿は、限りなく聡明で美しく思います。 -
狂おしいほどの喪失感、言葉を持たない魂の叫び、置き場のない感情。
家族と、生と死と。
何かに衝かれるように生きる様。
読んでいて居たたまれず、かといって立ち去れず。 -
消えていく、人のはかなさよ。
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北海道は阿寒湖のアイヌコタンを訪ね、木彫熊と浮き彫りを土産に買ったほどで、アイヌについての知識はないに等しい。司馬遼太郎の『菜の花の沖』を読んだ際に松前藩のアイヌに対する圧制を知り、憤ったのを思い出す。日本が北方領土領有を主張することにさえも疑問を抱く。これを読んでアイヌの何が分かるわけでもないが、日本時代の南樺太にはアイヌのほかウィルタ、ニブヒ、ヤクート、エヴェンキ、ウデヘなどの民族が住んでいたことを学ぶ。著者か本年逝かれて初めて太宰治の娘と知り、遺作に触れる。
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せつないアイヌの子守唄
著者プロフィール
津島佑子の作品
