- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087716610
作品紹介・あらすじ
アイヌの母と和人の間に生まれ、幼くして孤児となったチカップ。17世紀を舞台に、キリシタン一行と共に海を渡った女性の一生を描いた叙事小説。津島文学の集大成であり、最後の長編小説。遺作。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
心が震える。
雨が降るように、
まるで土砂降りの雨の中にいるよう。
本を開いている間中、私の五感はそれに全部持って行かれる。
お腹も空かないし、眠くもならない。
壮大なスケールで描かれる
半アイヌ、半和人の少女チカップの生涯。
それにリンクするように描かれる筆者の喪失。
寝食を忘れて、読みたくなる一冊。
和人は特に読むべき物語と思う。
今の特権のあるノーマライズされた生活が誰の犠牲に成り立ち、
その過程で何が行われたのか。
暴力の中に恐れを抱きながらも、怯まず生き続けた人たち。
和人であるとは、
アイヌであるとは、
信仰を持つとは、
生きるとは、
どういうこと?
おはなしが、うたが、人を支えていく強い魔法なのだということもしっかり描かれている。
最初の章を読み終えた夜、あまりの衝撃に眠れなかった。
それから三日間、チカップと過ごした時間は宝物になった。
図書館の本だけど、買って一生手元において、何度も読み返したい一冊。
勧めてくれた母に感謝。
津島さんの他の本も今読んでるけど、
この人、すごく好き。やばい。 -
思い出の記念館ジャッカ・ドフニ・“大切なものを収める家”に訪れることで子を亡くした過去と向き合う私。
17世紀アイヌとシサム・和人の間の子として生まれ、キリシタンとなり、マツマエからナガサキ、果てはマカオ、バタビアまで流れ、羽ばたいていく少女チカ。
二つのお話が時系列や語りの手法を変えながら時代を超え響きあう物語は、信教、人種、争いなど、たくさんの分断の中で私たちが生きているということ、そして生きていけるということを教えてくれる。
それぞれの謡や物語を心に抱きながら。
読み終えて本を閉じた時、目に飛び込んでくる表紙。
描かれる“おらしょ”を唱える女性の姿は、限りなく聡明で美しく思います。 -
狂おしいほどの喪失感、言葉を持たない魂の叫び、置き場のない感情。
家族と、生と死と。
何かに衝かれるように生きる様。
読んでいて居たたまれず、かといって立ち去れず。 -
消えていく、人のはかなさよ。
-
北海道は阿寒湖のアイヌコタンを訪ね、木彫熊と浮き彫りを土産に買ったほどで、アイヌについての知識はないに等しい。司馬遼太郎の『菜の花の沖』を読んだ際に松前藩のアイヌに対する圧制を知り、憤ったのを思い出す。日本が北方領土領有を主張することにさえも疑問を抱く。これを読んでアイヌの何が分かるわけでもないが、日本時代の南樺太にはアイヌのほかウィルタ、ニブヒ、ヤクート、エヴェンキ、ウデヘなどの民族が住んでいたことを学ぶ。著者か本年逝かれて初めて太宰治の娘と知り、遺作に触れる。
-
せつないアイヌの子守唄